始まりの地
隊長であり心臓のマドル。副隊長のシャケ。残る古参はマオバと『ミイラス兄弟』と『ロントゥ』の計六人。残りの四人中、二人は今回の戦いから参加した者達で、あとの二人は隊の活躍を聞いて志願してきた者達だった。
隊の連携が求められてきたこれまでとは違い、これから単独の能力と個人間の連携が重要になってくる。基礎体力と筋力の地力をつける事が最重要課題になっている新参組は寝る間を惜しんで鍛錬を続ける。
「なぁ、モンロン。何食ったらそんなに大きくなれるんだよ。」
戦争からマドル隊にいる同期のモンロンにルオは問いかける。
「肉ばっかりじゃダメなんだよルオ。葉っぱもたくさん食べなきゃ。」
「えぇー、嫌だな。苦いし味ないだろ。」
「じゃあ、果物でいいからさ。」
「高いじゃん。」
「んー、それじゃあ、」
「ルオ、モンロンをいじめるんじゃないよ。」
「いじめてねぇよアイコ。強さのひけつってやつを聞いてんだ。」
「それを言うならルオだってどうして、」と言いかけたところでマオバが声を掛ける。
「お前ら話してる余裕あるなら距離伸ばすぞ。」
「うげ、」とルオは渋い顔を浮かべる。続くようにモンロン、アイコ、チャーミスの新参組は大袈裟に呼吸を荒くして走り出した。
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マドル隊が目標とする小国群は武功を上げることで爵位を得られる。傭兵達にとって小国群は夢の始まりでありながら、終わりでもある特別な場所だった。一団が仮拠点として入ったのは小国群近隣の辺境領。資源も乏しく、税収を見込めるような平地もないこの辺りは小国群からも近隣の国からも求められることはなく、空位の領地として代々引き継ぐ辺境伯家が管理する区域だった。ただ、管理と言っても名ばかりで名前のある村がいくつかと、名前のない村が多く位置するだけ。
山で獲物を狩り、整地した僅かな土地で腹の膨れる作物を育てる。男は食べ物を探し、女は子供を育てる。農村部ではよく見る光景。マドル隊が拠点とした村も例に漏れることなく、貧乏暇なしといった感じで村民総出で営みを行っていた。
「一画をこれで借りたい。」
マドルが村長と行った取引は極めて一方的だった。野党と怯える彼らに金を握らせて村端の一帯を借りる。握らせたのは白貨五枚。ブルに換算すると一枚十万ブル。ルオの受けた怪しげな手術よりも動いた金額は少ないが外貨を得る機会が極端に少ないこの地域に住む者達からすれば大金であることは間違いなかった。それもブルという力の弱い貨幣ではなく、ナリが発行している強い貨幣だった。
情勢や価値の変化を理解していない隊の者達は、町で過ごせば数日で消える金額で無理やりと、マドルの野蛮さを誇ったがマオバやシャケからすれば渡しすぎだとマドルの甘さに溜息をはいた。金を受け取った村長たちは喜んだ反応を見せたが、後ろに控える女たちや、小さな子を持つ男は絶望といった表情を覗かせていた。
拠点では新参組が鍛錬を続け、マドル隊長、シャケ、ロントゥの三人は仕事を探しに小国群に向かった。マオバとミイラス兄弟は交代で新参組の監督と食料集めを行い、その日が来るまで準備を怠らずにいた。
滞在十日後。日が昇ったばかりの頃に村人の一人が訪ねてきた。
「おらの娘だけは勘弁してくれ。」
村人の訪問を受けたアイコは開口一番の言葉に面食らった。村人の男は怯えているだけでなく、疲れた顔で今にも倒れそうな様子だった。アイコはここで理解した。自身もこの男のように貧しい村の生まれだったから突然現れた傭兵という脅威がどれほどのものなのか容易に想像できた。寧ろ今までなぜ考えられなかったのだろうとさえ思った。
「安心しろ」と怯える男を宥めつつ帰すとマオバの下へアイコは向かった。
アイコは新参組の中で最年長だった。古参の中でも中位くらいでおそらくミイラス兄と同じくらい。貧しい村の家族を養うために街で出稼ぎをしていた。仕事があればどこへでもといった感じでたどり着いたのがフィール戦線。そこで兵站の補助を行っていた。マオバ隊の活躍を聞く度に胸を熱くさせた。彼らの噂と英雄譚はフィール内のあちらこちらで耳にした。彼らのほとんどが同じく貧しい村から売られた強制傭兵で、彼らを纏めるマドルの統率力であのナリの大軍を次々と打ち滅ぼしている。
戦争が終わり、彼らは抱えきれないほどの富と名声を得た。ある者は店をはじめ、ある者は貴族の雇われとなり、ある者は家族を町に住まわせた。夢を与え、希望を見せる彼らと比べて自分はどうだ。手元に残る僅かな給金でアイコは剣を買って魂を震わせた。奇遇な事にマドル隊の殆どが求めていた夢に手が届いたらしく数を減らしていた。
マオバの幕に訪れたアイコは村人の話と自分たちの出来る事について説明した。何故ここまで熱心だったのか自分でもわからない。きっとあの男が自分と重なったのだろう。家族を守ろうと情けなくも立ち上がるあの勇気に応えたかった。
その日から新参組の鍛錬は少し毛質の違うものとなった。山に入り木を切る。根を掘り起こす。深いところに入って獣を狩る。そして食べきれない物を村の入口へ置いておく。マオバはより身になる鍛錬になったと喜ぶ。平らな場所でいくら走っても平坦に慣れるだけ。模擬戦を繰り返しても命のやり取りを忘れるだけ。ただ膨れた筋肉など役に立たず、生きた筋肉は一瞬を助ける。
それから五日後。再び村人が訪ねてきた。今度は前の男だけでなく三人。今度もアイコが応対する事となり彼らを見ると、前回と同じように怯えた目をしていた。疲れた様子はなく寧ろ精力的な強さを感じる。
「子どもたちをどうするおつもりでしょうか。」
懇願するような目で訴えてきた村人たちから放たれた言葉は思いもしないものだった。
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