おんど
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
マオバ自身の進言でマオバ隊は二人になった。ルオとマオバの二人。傭兵軍の中には二人は出来てるとか、子ども好きの男娼狂いとマオバを笑うものがいたが、マオバはどうだってよかった。目の前で起こったありえない出来事。あの出来事が幻想でないのなら全てを賭けたって良いとさえ思っていた。
マドルはマオバ隊だった者達の残された骸を土に返す時間をくれた。これ以上、下を向いていることは仲間たちに顔向けできなくなる。仲間の死を受け入れて覚悟を持ったマオバは、もう一つの出来事にも向き合った。
マドルと同格かそれ以上の戦士。普通なら自分はあそこで死んでいた。自分の仲間を殺したのもあの戦士の仲間の仕業だろう。それほどまでの格上。文字通り、自分を子ども扱いしたあの強者をルオは打倒して見せた。一度切り落とされたはずの右手で。いや、正しく言うのなら一度死んだはずのその肉体で。
ルオは一連の出来事をまるで当然かのように、日常として消費していた。
マオバはそれを確かめなければならないと思った。だからこそ、その異能と心中するためにたった二人の隊を結成した。
大きな評価を得たマドル隊はより重要でより大変な戦地へ送られることとなった。ブレイソ山間部の局面を大きく左右し、ここで押し切れば勝利すら手に入れられる場所。
そこは最前線であり、最も自力のいる戦局。
本陣の近くに集められたマオバ隊の仕事は単純な話だった。これまで通り一騎当千の活躍をすること。しかし、これまで通り求められる内容があまりにも重たいことは確かだった。
まさに獅子奮迅の活躍。マドルを中心とした古株の練度は圧巻の制圧力を持っていて、軍強のナリ軍でも歯が立っていなかった。機動力を持つマオバ隊は指揮官のみを狙うといった大胆な作戦を繰り返して確実に統率力を奪って行った。
マオバの予想通り、ルオは不死身の力を持っていて、それが当然のようにルオは考えていた。そして、あの日森で戦ったあの戦士は破格で強かったことを、指揮官を倒すたびに実感していった。
マドルは自分の振るう剣と指揮によって、マオバは確かに積み上げていく首の数とルオの異能によって勝ちを確信していた。これは慢心でもなんでもなく、経験則からくる確証。今この瞬間にだって勝利の号砲が鳴ってもおかしくなかった。
ドン、ドン、と打ち上げられる信号弾。戦地にいるものは等しくやっとかと、それまで確信めいていた勝敗を密かに思う。
「は?」
誰の声だったか、誰もが自分から出た声だと錯覚するほど、目に映る光景を信じられずには居られなかった。
それは歴戦の戦士でも、未熟な新人も同じようにまずは自分を疑い、周囲の反応から報告員を、彼らの表情と敵陣から上がる疑惑の証明から世界を、と順番に疑うがどれも否定され続けてやっと理解する。
じめっと挙がった勝利の声は明らかに小さく、散り散りになっていく戦士の足音に一瞬にしてかき消された。あまりの結果に納得せずに武器を振るうものはだれ一人もいなかった。
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ダイタルは皮膚が裂け骨が薄く見える手首を、今もなお手錠に打ちつけて血が渇く前に新たな痛みを生んでいた。
声を出すことも、こうやって肉体を省みずに傷つけるのも無駄と知っていた。けれど燃え滾る熱情がやめる事を許してくれなかった。自分はどこで死んだって良かった。第三夫人の生んだ四男という矮小な存在は、フィールという国を一秒でも延命できるなら、何だって投げ捨てる覚悟だった。
命など、肉体など、私のちっぽけな精神など。しかし、それは許されなった。後宮の企てた反逆は王家の命を守り、安全を保障し、勝利という王冠のみをさらって行った。暗躍していることはわかっていた。相応の証拠が出そろえば王も対処すると言質をとった、しかし私の臣下が後宮に裏切っていたとは想像すらしていなかった。
今考えれば、ドバの動きに怪しい箇所は幾つもあった。その兆候を見逃してしまうほど、私は愚かで追い詰められていた。
世界に伝えられたのはナリの勝利ではなく、フィールの敗北。勝利間近であると、数日前まで噂されていた状況から一転、見慣れたナリの勝利で戦いは終結した。フィールは国を売った、ナリは勝利を大金で買った、多くの者が口にする。
後宮は隣国との繋がりから、戦争序盤にナリと交渉の場を用意できていた。自分たちは死んではいけないと、フィールの持つ鉱山や資源を条件に撤退を願ったがそれは聞き入れられずにいた。
状況が変わったのは、主要五地でナリが攻めあぐねているとなってから。交渉する気すら無かったナリが一先ずテーブルに座った。それから、目まぐるしく変化する戦局と互いの利益の主張の果てに、完全劣勢を認めたナリ側が、神宗国としての誇りを保つために今度はナリ側から資源、金品、条約を条件に勝利を買い取った。
これで良かったという者も確かに少なくない。事実上の勝利を残しながらいくつもの戦利品を手に入れた。貴族の多くは後宮の判断を賞賛した。しかし、ダイタルや軍部の多くは納得できるはずがなかった。それは勝利という誇りや死者との約束だけではない。今後の世上ではフィールはナリの属国だと言われるだろう。ナリは傷をつけたフィールを許さないだろう。真実の勝利を求めてくるのは確かだった。
その時、隣国や今回協力してくれたもの達はどうするか。また今度も金を見せられればフィールの王族たちは民を売る。そうやって考える。勝利というのは誇りや称号である以上に光なのだ。希望なのだ。勇気なのだ。
納得のいかないダイタルが地下牢で捕らえられているのに説明は必要ないだろう。
ダイタルは吠える。自らの愚かさ、浅はかさ、無能さに。そして憎悪する。国を売った亡者たちに。
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[フィール:城塞都市 カバカバ]
城壁の下には野営地が設けられ、今回の戦争で集められた傭兵たちが次の目的地の計画を立てていた。ため息の出るような結果だったが、支払われた額を見て傭兵たちは即座に顔をほころばせていた。今回の戦いにおいて傭兵の活躍は凄まじいものだった。
つまり、その傭兵の中でも頭抜けた結果をもたらしたマドル隊への褒賞が安い筈もなく、傭兵の中ではマドル隊に支払う報酬が大きすぎて勝利を売ったんじゃないかと笑い話が広がっていた。
野営地から少し離れた旧遺跡にマドル隊の姿はあった。野営地にいないのは傭兵による窃盗や強奪を避けるため。それほどまでに渡された物は大きかった。それぞれ酒樽を持ち、マドルの掛け声を待っている。
「俺たちは今まで色んなものを失ってきた。金、女、名誉、親、仲間。全部が全部手のひらからこぼれ落ちて、掴もうとするけど掴めなかった。そんな自分を恨んだ日、世界を憎んだ日、数えきれないくらいいっぱいある。
この戦いだってそうだ。色んなものを失って、色んなものを諦めた。だから、何でもかんでも結果を見て良かったなんて言う気はない。
けど、あの日俺たちが望んだ未来が、希望の光が今は確かに見えている。手のひらから溢れないで、ちゃんと掴めているものが今はある。それだけで俺はここにこれて幸せだったと言い切れる。ナリもフィールも何にもならねぇものを賭けあって負けだの勝ちだの言ってやがる。
俺は言い切れる。勝者は俺たちだけだ。全部ひっくるめて飲み明かそう。少しの涙くらい杯に垂れたってわからないくらいに。」
マドルの音頭で宴が始まる。とても穏やかな時間だった。それぞれがそれぞれの時間を過ごしている。誰も孤独ではない。そんな世界が広がっていた。
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