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巨神兵は堕ちた  作者: ミツメ


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黄色の信号弾

 軍部は揺れていた。あの小国フィールに攻めあぐねている現状。歯牙にもかけない存在だと生かさず殺さずで活用してきたはずが、なかなか簡単に進まない。特に三地点。『ブレイソ山間部』『ガゥババ高原』『ムナ古城遺跡』は劣勢にすらなっており、戦線の両端と中央が見事抑えられていた。

 余裕をもって談笑を交わしていた二か月前とは打って変わって暗雲立ち込める状況に軍部は焦りを隠せずにいた。王や教皇の口からこの戦争について釘を刺されるまでの期限はもう間もないだろう。そうなれば軍部がとるのは自棄的な苦肉の策を講じるか、講和のどちらかになるだろう。どちらにせよ軍部のメンツは丸つぶれ。特に陸軍と今回の戦争の総指揮を務める第二兵団は責任を追及から逃れられないだろう。つまり、刻々と迫る残り時間が彼らの分水嶺になるのは確実だった。


「分散した戦場を五つに統合する。」


「それでは、一部戦線を撤退させるのですか?」


「そうするほかない。兵の数は当初の想定とは大きくずれ、他国のネズミが混ざったおかげで有利も不利もない。ほとんど勝利している場所で貴族どもに遊ばせておくのももったいない。今更、他兵団や義勇兵を募れるわけでもないんだ。数で無理なら質で押し破る。初めからそうすれば良かったんだ。」


「承知しました。全体通告いたします。」


「それと、ドマが借りてた深騎兵を中央に寄越すように言っておけ。ハイドルドは森より平地で輝く。」


 第二兵団参謀の『ミアム・ガルホン』はそう指示を出すと、詳細な作戦を打ち合わせるため会議室へ向かった。


――――――――――――――――――――――――――――――


 ダイタルに〈臓物〉の利用を頼まれたトロツクとクライスは中々思うように進んでいなかった。毎日のように伝わる戦地の状況。初めの予想とは違い、優勢とも捉えられるような戦況に二人とも安堵の表情を見せていたが、何時それが崩れてもおかしくない事も知っていた。

 フィールの英雄アイセンが抑えるガゥババ高原、【神閃】『リオコマ』が近づかせないムナの古城、そしてマドルという男が率いる傭兵団。混線軍が多いフィール陣営だが、マドルのように他国から実力者が集まっているらしく、数だけでなくこの力でも対抗出来ているのが現在の戦況理由らしい。


 戦地から離れて動く二人にとっては新聞と掠れたラジオの音が頼りで、両国が仕掛けるプロパガンダの可能性は疑っていた。ダイタルとも長らく連絡はとれていない。戦時下に他国の秘密基地に来る余裕などないから当然なのだが、二人はいち早く成果を持ってダイタルの下へ戻りたかった。


 しかし、本来なら数年を掛けて行う計画。発展の兆しすら見えていなかった。孤児を買い集め、臓器から培養した擬似血液を注入。小動物での実験は早々に結果は出たが、人体となるとそう簡単にはいかない。多少無理なことはしているが死人を出したいわけではなかった。

 〈臓物〉は劇薬だった。その再生力と、主張の激しさはどれだけ薄めようとも肉体の中で暴れまわり宿主を破壊する。人の体に合わせて作っていない事は理解していたつもりだったが、ここまで適合しないのを見ると不可能なのだと考える他なかった。


「どうするトロツク、俺は一度帰国したいんだが。」


「それは僕もですよ!けどどっちも帰るなんて絶対に無理!経過観察もしなきゃだし、どうしてこの個体が適合できたのか調べないと。」


 手術室の管理と奴隷や周囲との交渉等、雑務兼、護衛のクライスと、研究を任されたトロツクとでは仕事の量は倍以上差があった。字面で見ればクライスが忙しいように見えるが、その逆でトロツクは睡眠時間を削って研究に向き合っていた。彼をそうさせるのは知的探求心とダイタルへの忠誠心以外なく、〈臓物〉の事で頭がいっぱいだった。


「ダイタル様が心配ですし、クライスさん。行ってきてください。護衛はいらない事がわかりましたし、万が一があっても闇ギルドの人たちに金を握らせれば大丈夫ですから。」


「すまない。」


「その代わり、ちゃんと報告書纏めてくださいね。」


「あぁ、わかった。」


 気まずそうな表情を浮かべるクライスにトロツクは思わず笑ってしまう。

「お土産とお土産話も期待しておきます。」


 二か月以上もの間、同じ拠点で過ごすというのはクライスにとって初めての経験だった。トロツクの研究に対する実直さと、その狂気に触れ、トロツクという男の凄さを身をもって感じた。なるべく早くに戻り、少し休暇を与えてあげなければならないな、なんて考えて馬を走らせた。

 しかし、そんな願いが叶わない事をこの時のクライスは知る由もなかった。

 


――――――――――――――――――――――――――――――


 全戦全勝。マドル傭兵軍の働きは神がかっていた。ブレイソ山間部の優勢は日を追うごとに勢いを増していき、補給路を撤退させたあの作戦から二週間たった現在、最終防衛線にまで追いやることに成功した。

 ナリ陣営は勝利戦線を放棄し、重要拠点でありながら劣勢と押される戦地に積極的な増員を行い、戦線の集中に動いた。ブレイソ山間部でもその煽りをうけて一時は拮抗状態まで戻されたが、ガゥババ高原でのナリ陣営完全撤退により、風向きが変わり現在の状況になっていた。


 作戦としては定石の一つなのだが、戦線の集中は分散していた時よりもずっと良くなかった。それに気づいたときには時すでに遅く、勝利を挙げていたはずの戦線にナリが戻ったころには、フィールの防衛拠点を用意されており、自ら勝利を手放すだけという結果になっていた。

 敗北間近と、フィール国内だけでなく近隣の中立国内でもそんな話が流れるようになっていた。


 両国の戦線の指揮は雲泥の差。自分たちがまるで英雄譚の登場人物かのように、今行われている奇跡に関係できたことを喜ぶ者達。いつの間に敵のような位置に置かれ、ここで死ぬか生きて帰っても国賊と罵られるかの選択が突き付けられている者達。


 責任はだれにある。ナリの者達は向こうに見える敵国ではなく隣にいるものの目を見始めた。小さな歪みが生んだ敗北であることは間違いなかった。

 勝鬨はいつ上がる。じりじりと責められるブレイソ山間部ではナリの兵士でさえそう考えていた。 

マドル隊がここに来る前に終戦を告げてくれ。彼らは鬼だ。血を啜る魔物でもある。負けでいい、こんな場所で死にたくない。皆が皆そう思っているとき一つの信号が打ちあがり、鐘が鳴らされた。


 黄色の信号弾。我々ナリの国旗の色であり、ナリ陣営を表すもの。そして鐘の音が鳴り響く。これは撤退命令でも、降参でもない。軍人であれば知っていた。戦争の終結。勝利の鐘。黄色い信号に対する勝利の鐘。誰もが目を疑った。しかし、花開くように空に広がっていく黄色い信号と鐘。それは当然フィール陣営の方向からも同じように黄色い信号が上がっていた。


 大国ナリは小国フィールに勝利したのだった。


読んでいただきありがとうございます。


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