プロローグ
《巨神兵、墜つ》
世界を揺るがす衝撃はあっという間に広がった。
神の落胤と呼ばれる巨神兵は我々の体躯と比べ、凡そ五十倍程の大きさを持っていた。
足を踏み鳴らせば、地が揺れ森が騒ぐ。腕を振り回せば竜が叫び、雨雲を散らす。大きさは力の象徴であり、火薬を用いた武器が全盛の現在においても巨神兵の力は畏怖そのものとして扱われていた。
兵器として巨神兵を所有する神宗国『ナリ』は世界を支配する用意があった。実際には行われていない支配であっても『ナリ』の臣民でない限りその恐怖が止むことはない。『ナリ』が置かれた大陸では当然のようにかの国の発言権が頂点に存在していた。それ以外の二つの大陸でさえも海を挟んだ向こう側という意識は薄く、常に機嫌を窺っていた。
しかし、世界は揺れる。巨神兵の進軍による震えではない。ある者は心の奥底に眠らされた気高き意思が、またある者は抑圧され続けた怒りが。目覚めとも言うべきその出来事は巨神兵によって蓋されてきた曇天の空に一筋の光明を差し込んで見せた。
世界の意向として『ナリ』への従属に似た協力関係は間違いないが、それに賛同しない国や地域があることも事実だった。『ナリ』にとってそれらの反抗的な国の存在は邪魔ではなく寧ろありがたかった。自分たちに逆らうとどうなるのか見せしめにし、そして敵がいる事で自国の臣民は結束力を強くさせる。口先だけの隣国よりも自国に利益をもたらしていた。そのため、敵対するかの国に対しては生かさず殺さずの方針を軍部には徹底させていた。感情という形のない資源を一生採掘できる鉱脈を発見したようなものだった。
しかしこの慢心がのちの悲劇を生んだ。小国『フィール』。北方の狩猟民族がルーツのこの国はかつてから『ナリ』への反抗を示していた。国境沿いでの諍いは絶えず、『ナリ』にとってはボヤ程度事態でも『フィール』からすれば大きな火事のようなものだった。いつかを夢見て牙を研ぎ続け、二十年。『フィール』はこの日、夢に見た巨神兵討伐を叶えてみせた。
明日から本編出ます。よろしくお願いします。




