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魔術と技術の間で

空での再会

作者: zensuke
掲載日:2025/11/11

あとどのくらい飛べば。

乱気流の中を翻弄されつつ、大空と山脈の行く先を睨んでいた。

魔女からの攻撃の報告がいつ来るのかひやひやしながら、神経をすり減らす。

ちらりと燃料計を見るが、あと2時間は動力が持つ。

足りなければ高度を下ろして不時着すればいい。問題はどこに下ろすかだが。

操縦中は疲労が出ても、気が付きにくい。

飛行中は顔に出さないが、何時間も飛んだあとは泥のように眠ることがある。

我慢しているのではないのだ。極度に集中すると、眠気や倦怠感を感じないのだ。

だからこそ、一瞬の油断が命取りだ。

集中が切れると、もう使い物にならない。

そんなことを考えながら、向かい風のせいで対地速度が上がらないことを気にしつつ、目的地までの到着時刻の変更を考える。

「ゼンさん」

計器を睨んでいた見習いが声をかけてくる。

「うん?」

「なぜこんな不安定な場を行くのですか?船体への負担と、乗り心地にも影響があると思いますが」

もっともな問いであった。

これがただのフライトだったら気流の安定した場を選び、リスクを取る必要はない。

だが、こちらを落とそうとする者がいるのであれば、それを阻害してやらなければならない。

そのための飛び方を納得できるように説明してやる。


動力付きと言っても、鈍重な飛行船は一度狙われたらすぐに避けることはできない。

だからこそ、敵に出会わないことや、攻撃が困難なエリアに位置するのが一つの手段である。

山岳の風下側は、山岳への影響をモロに受けるので、風の方向はともかく、強さや上下は常に変わり続ける。

船体への損傷が気になるが、限界値内の諸元を守れば怖くはない。

一方で、杖の上に腰掛ける魔女は生身である。

乱れた気流の中はやはり堪えるのか、空が荒れる日はほとんど出くわさない。


次に魔女が好んで使う火球は、炎そのものが飛んでくるようだ。

そのため、風の中だと流され、乱され、狙ったところに飛ばすのは難しいらしい。

ただし、定常風ならば、偏差して打ち込んでくるので命中してしまう。

それに比べると、不安定で時折息をするような風の中の方で命中させるのは難しいようだ。

だからこそ、上下左右に風の乱れる山岳波の中は、こちらにとって見えない鎧となってくれる。


このような事を説明してやると、納得したのか、聞き流していたのかわからないが、成る程と頷いてまた計器と外を交互ににらめっこしていた。


30分ほど乱気流の中を揺られていた。

相変わらずの強風だが、風の乱れは落ち着いてきた。

この山の風下を抜ければ、多少は落ち着くが…

左手の山の頂上は下がってきて、稜線が平野に落ち込むところが見える。そこが山間部の出口であった。

「山、やっと抜けますね」

見習いが言う。

「ああ。だがここが彼女たちの狙い目だね。」

彼に応えると同時に、伝声管を使い、警戒を密にするようにクルーに命じた。

ここが一番危ない。

「出たところで狙われたら、反転して追い風で逃げるからそのつもりで。」それだけを皆伝えて、腹の中では不時着して散り散りに逃げるしかないと観念していた。

幸い味方の勢力圏だ。何とかなるだろう。

相変わらず船は鈍重で、なかなか進まない。

少しずつ進むにつれて風は安定するので魔女の心配が出てくる。

妙な感情だが、数十名の命を握っているのでいい加減にはできない。


平野に出た。

気流の乱れはなくなり、操縦からくる極度の緊張が自然と和らぐ。

さて、どこにいる。

彼女たちを目を皿のようにして探す。

「十一時方向、同高度に火球です!」

伝声管から声が響くのと同時に、操縦席からも確認できた。

「全員何かに捕まってて!避けますよ!」

言うと同時に、操縦桿を前に倒しガスを抜く。浮力を減らし、同時に、重力を利用してダイブを行い増速をする。速度計昇降計は諸元内だが、いつもより深く、速く沈むのを感じる。

速度が乗ったところで、操縦桿を右前に押し出し、反転を試みる。

(姿勢計もいつも通り。この角度なら小回りにいけるか…後は追い風に乗って山岳部に逃げ込めば、多少は…)

方位計は正反対を指し、山間部への入り口を目で確認する。

「よし!山間部に逃げ込むぞ!」

「火球は外れコースです!本船の7時方向から9時方向辺りに飛んでいきます!」

伝声管からはさっきの火球の報告が告げられる。

ちらりとガス圧を見る。

(次にダイブで回避したらもう後がない…)

「機長!前!」

ハッとして顔を上げる。

そこには吹雪のような白い煙が立ち込めて、山間部への入り口を塞いでいた。

「なんだこれ!?」

一瞬、吹雪かと思われたが、先ほどまで雪雲は観測していない。

北からの強風は白い煙を吹き飛ばし、先ほどの山間部を露わにする。そこには、銀嶺山脈の一番外側が山体崩壊を起こして、いま来た山間部を埋めていた。

(クソが…!)

船内はどよめきが広がる。

伝声管に再度平野側を観測させる。

「船尾、6時方向から火球が複数来ます!」

「高度は!?」

聞きながら再度、反転操作を行う。 

「同高度…くらい!」

「了解!やるだけやって、駄目なら不時着します!」

さっきの高度からリカバリーできていない。

急速に反転しながら、操縦桿を引いてやる。

船体に受ける風は徐々に正対風となり、揚力が増す。そこでさらに操縦桿を引く。

揚力は急激に増加して、船体は一時的に高度を上げる。

ややもすると、目の前から迫りつつあった火球は、船体の下を物凄い速度で通過していく。

失速角は越えたが、浮力のおかげで何とか浮いていられる。

姿勢を巡航に戻して次の火球に備えようとする。

その間にも火球は風上からひっきりなしに飛んでくる。

いくつか外殻に当たった感触がした。

「さらに5、6発飛んできます!船首方向から!」

伝声管は悲痛な声を届ける。

わかっている!見えてるよ!

「このままだと丸焦げになる!浮力があるうちに不時着する!」

巡航に戻してから、そのまま操縦桿を前に押し、降下姿勢に入る。

(不時着が先か…それとも…!)

嫌な考えがよぎるが、とにかく地面へ近づく。

向かい風のせいで、外から見たら同じ空間で落ちているような形だ。

周りの地形を再確認するため、顔を少し上げる。

風防の外、相手の顔がわかるくらいの距離に彼女がいた。

思わず目を剥く。

操縦を忘れそうになるが、意識して降下姿勢を続ける。

(偶然にもほどがあるだろう!)

計器と対地を確認して、再度彼女を見るが、もういなかった。

船体は継続して降下、地面まで後50m程だ。

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