表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第三話

工房での試作運行から数日後、俺はさらに大規模な実演を計画した。今回はただの試作ではない。ウィーンの政治家や実業家、そして帝国の実力者――外務大臣メッテルニヒを招き、産業革命の象徴として列車を披露するのだ。


「ミハイ、準備はすべて整ったな?

「はい、坊ちゃま。鉱山からの石炭と鉄鉱石も十分に確保済みです。レールも短距離ながら整備しました。列車は既に試運転済みです」


朝、工房には帝国中の注目が集まった。馬車で到着する客たち、制服に身を包んだ官僚、そして遠目に見守る民衆の群れ。列車の周囲には赤い絨毯が敷かれ、旗が風に揺れる。俺は羽根車の前に立ち、巨大な石炭炉に火を入れる。ゴウゴウと燃える石炭の炎が羽根車を揺らし、蒸気が勢いよく立ち上る。


「坊ちゃま……皆、息をのんでいます」


ミハイが耳打ちする。俺は鼻で笑う。


「当然だろう。帝国の常識を超える俺の技術を目にするのだからな」


遠くから馬車が近づき、黒塗りの豪華な車体が工房前に停まる。中から現れたのは、帝国の実力者メッテルニヒだ。威厳ある姿で工房を見渡し、わずかに眉を上げた。


「こういう感じか」


メッテルニヒの視線が、巨大な石炭エンジンと列車に注がれる。羽根車の振動、蒸気の音、重厚な金属音――すべてが彼の驚きと期待を煽る。


「では、参りましょう」


俺は合図を送り、列車を走行させる。石炭炉の力が羽根車に伝わり、列車は滑らかに、力強くレールを進む。蒸気が天井に反射して光を放ち、周囲に轟音とともに振動が伝わる。観衆の目が輝き、歓声が上がった。


その瞬間、森の端から異様な影が飛び出した。巨大な魔物だ。黒い鱗に覆われた四足獣で、眼光は狂気を帯び、唸り声をあげる。列車の近くを走る民衆が悲鳴を上げ、驚きと恐怖が一瞬にして広がった。


「ほう……魔物か」


俺は冷ややかに笑う。


「だが、この列車に勝てるとは思うな」


魔物が衝突を避けられず、跳ね飛ばされる。轟音とともに地面に倒れ、勢い余って工房の外へ弾き飛ばされた。蒸気と金属音が再び工房を支配し、列車は揺るぎなく進む。職人たちは整然と作業を続け、運行は一切の乱れなく成功した。


「見事だ……これが帝国の未来の輸送手段か」


メッテルニヒが感嘆の声を漏らす。驚きと恐怖が混ざった表情だが、その目は確かに興味を示していた。


俺は列車を止めると、羽根車に手をかざしながら言った。


「今回は運が良かっただけだ。次に同じような相手が現れれば、跳ね飛ばすだけでは足りぬ。だから、列車にはスパイクを取り付けておくことにする。確実に仕留めるのだ」


ミハイが静かに頷く。

俺は胸を張り、羽根車の振動と重厚な金属音を手に感じる。職人たちの目も熱に輝き、列車は再び帝国の希望の象徴としてそこにあった。今日、ウィーンの中心で、俺の揺るがぬ意志が産業革命の序章を刻んだのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ