49.エピローグ
「……もう全部、終わったんだな……」
地獄に戻りネルたちと別れた後、俺はヘイルムの街を歩いていた。ゼスとネルとの戦いで壊れた建物は修復されて、街は普段通りの営みを取り戻していた。
これから何を生きがいに生きていけばいいんだ……。
ぼんやりと歩いていると、いつの間にか宿屋の扉を開けていた。
「いらっしゃい……ってルーカスじゃないか! 久しぶりだねぇ」
「女将さん……」
「ん? ルーカスだとぉ? いつぶりだぁおい……今回は随分とまあ時間がかかったもんだなぁ」
ふくよかな体型をした図太い声の女将さんに、相変わらず酒に酔っているハリス。彼らを見て俺は確かな足取りで、いつものカウンター席に座った。
「いつもの定食を頼む」
そうじゃないか。俺にはまだ、生きる理由がある。この二人だけじゃない。ネルやドライアド、イフリートや他の番人たちだっている。
「それでルーカスよぉ。おまえさん、今度はどこで何をしてきたんだぁ? まさかまた神や天使を倒してきたわけじゃねぇだろうなぁ?」
肩を組んでくるハリスの腕を払い、俺は微笑んだ。
「俺は、男神ゼスを倒してきたんだ」
「マジかよ……男神ゼスって、天界の三強として地獄じゃ有名になったやつなんだぞ! それを倒したのかよ?!」
「ああ、今回はネル、ドライアド、クーダマリーに手伝ってもらったけどな」
「それでもすごいよあんた! これは歴史に残る偉業だよ! そうでなかったら今までの偉業の話が全部ただの出来事になるって話だよ」
そう言って女将はカウンターに定食と水を置いた。盛り付けられた野菜はいつもより瑞々しく、ステーキ状に切り分けられた肉は程よく焦げ目がついていて、とても美味しそうに見えた。
「いつもよりいい食材を使っているのか?」
「いいや? 普段通りだけどねぇ……」
「そう……か」
俺はさっそくステーキを口に運んだ。
「……! 美味しい……」
今までは薄く感じていた味付けが、今ははっきりと感じられる。噛むたびに溢れ出す肉汁もジューシーだ。
ガチャン!
「ルーカス! 妾もきたぞ!」
「ネル、それにドライアドも」
宿屋に入ってきたのは、頭にツノの生えた紫髪のネルと、透き通った肌に映える緑の長髪を靡かせるドライアド。
この二人、こんなに美しかったのか……。
今までは復讐のことばかりで、俺は二人のことをあまり気にかけていなかったが、今は……。
「妾にもルーカスと同じものをくれ」
「わたくしにもルーカス様と同じものをいただけますか?」
「わかったよ。定食二つだね」
「ルーカス、そこの四人がけのテーブルに移動するぞ」
俺は二人に促されて、テーブル席に移動した。
「ネル様じゃねぇか。ルーカスもいるし、今夜は朝まで飲むぜぇ!」
「ハリスあんた、今度は酔い潰れたら外に放り出すよ!」
「うるせぇやぃ!」
樽ジョッキに入った酒を一気飲みしてみせるハリス。それを見て呆れた顔をした女将さんが、ネルとドライアドに定食を運んできた。
「今は他の客もいない様だな。どうだ? 女将も妾たちと共に食卓を囲うのは」
「そうだねぇ……乗った!」
そう言うと女将さんは、酒瓶と肴を持って座った。そして、テーブルにフラフラと寄ってきたハリスも含めて、みんなで顔を見合わせるとジョッキを掲げた。
「「「「「カンパイ!」」」」」
カランッ!
みんなが笑っていた。穏やかに、無邪気に、豪快に、愉快に……。
なぜだか、今までで一番楽しい!
俺も笑いの輪に加わり、みんなと言葉を交わす。いつしかご飯も食べ終わり、それでも尽きることなく話し続けた。
「ルーカスは変わったな。ゼスを倒してからは燃え尽きたように見えて、心配しておったが……杞憂だったようだな」
ニコニコと明るく笑うネルの言葉に、俺は笑い返した。
「そうだな。俺にはみんながいるからな」
***
「……ん?」
いつの間にか眠っていたようで、気が付くと俺は食堂の壁に寄り掛かり、床に座っていた。
「スー……スー……」
「ネル……」
俺は腕の中で眠っているネルの頭を撫でる。見るとドライアドは椅子に座ったまま眠っていて、ハリスはふくよかな女将さんの体に押し潰されながら眠っていた。
「こんなことをするなんて、昔の俺じゃ考えられなかった……」
人間界で生きていた時も、物心ついた頃には既に剣を握っていて、勇者の使命に縛られて生きていた。地獄に落とされてからだって、神々への復讐に縛られて……。
「だが……今はもう、俺を縛るものは何もない。遠回りしたが、ようやく俺は自由に……当たり前の幸せを謳歌できる」
俺は天井を見上げて目を閉じた。
「残りの人生、楽しむぞ!」
ついに完結です!
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