48.復讐の終わり
俺はうつ伏せに倒れるゼスの横に立つと、その背中を踏み付ける。すると上半身に付いた傷口を地面に擦り付けられたゼスは顔を顰めた。その間も、俺がゼスに与えた『腐食』と『毒生成』による毒とが進行し、少しずつゼスの皮膚が紫色になる。
「ふん。ワシもミカエルやヘスラのように痛めつけて地獄に落とすつもりであろう? そうなるくらいなら、ワシは自ら命を断つ」
ゼスがそういった途端、『腐食』と毒の進行速度が急激に速まった。
「そんな自殺、許すわけないだろ!」
俺はゼスに付与した二つのスキルの進行を止めた。
「いっておくが、スキルを解いたわけではないからな。一時的に進行を止めただけだ。おまえは自殺しようとすれば俺が焦ってスキルを解除すると思ったんだろう? そうすればまだおまえは逃げられるからな」
「ぐぬっ……」
唇を噛み締めるゼス。その横顔を蹴り飛ばし、俺はゼスに侮蔑の視線を向け、口元を歪めてみせた。
「俺ルーカスの名において、ゼスを奴隷とする」
隷属契約。本来は双方の同意が必要だが、精神的、もしくは肉体的敗北を与えた相手にならば強制的に契約を結ぶことができる。それで俺はゼスを奴隷にした。
「なぜじゃ……わざわざワシを奴隷にする理由などあるまい?」
「……おまえ、一応は天界で三番目に偉いんだろう? それにおまえはミカエルやヘスラよりも遥かに強かった……そんなおまえなら、一人でも天界の神々を殺して回れるだろう?」
「お主は……なにを言っておるんじゃ……」
ゼスの顔からは血の気が引いていく。そしてゼスは見開いた目で俺を見ていた。
「俺は思ったんだ。おまえら見たいなクズが神を名乗ってはびこっているような天界は、一度滅びればいいと。おまえは何やら天界から隠れて地獄に干渉してきていたからな。たとえ天界を滅ぼせなくてもおまえ一人のやったことだと天界は考えるだろう?」
「ワシは力を付けて、最高神の座を奪い取りたかったのじゃ! だから今のワシではすぐに最高神に殺される……残念じゃったな、お主の思い通りに天界は破壊されぬよ」
「その最高神とやらに見つからないように頭を使え。おまえが俺の奴隷となった以上、どんな命令でもできるんだよ! おまえが持ち得る力と知恵の全てを振り絞って天界の神々を一人でも多く殺せ」
「ぐぬっ……はい、ルーカス……様。わかりました」
「それに、たとえおまえが最高神に殺されようと意味はあるんだ。天界の中枢にまで反乱因子が紛れ込んでいるという疑惑を天界中に抱かせられるからな。そうなれば天界はごたついて、人間界に悪影響を与えるような余裕は無くなるだろう」
ゼスは隷属契約の強制力に抗おうとしながらも、為すすべなく天界へと帰って行った。すると、空間の歪みがだんだんとなくなっていき、元通りの人間界に戻った。
これで俺の復讐は終わりか……。
灰色の空と荒れた地面を見回し、しばらく干渉に浸ってから、俺はネルたちを振り返った。
「……俺たちも、地獄に帰るか」
***
「はぁ……はぁ……。なぜワシがこんなことをせねばならぬのだ……」
ゼスは杖に寄りかかり、目の前に転がる数十の神々を見下ろした。
「これで居場所が知れている神はおおよそ倒した……あとは、最高神ロノス……」
スッ……。
突然、音もなくゼスの両腕が地面に落ちた。痛みもなく血も出ない。その異様な状態に、ゼスは恐怖した。
「斯様なことができるのは……」
「ゼス。貴様には失望した」
ゼスが空を見上げると、そこには人影があった。だがその者に差す後光のあまりの眩さに、姿を捉えることはできない。
「ロノス様……」
(無理じゃ、勝てるわけがなかろう……最高神ロノスに勝てる者など、どのような世界を探してもいはしない)
身体中が震え上がり絶望を感じたゼスは、すぐに逃げようとロノスに背を向けた。しかし、それ以上ロノスから離れることは隷属契約が許さない。ゼスの体はたちまち石像のように動かなくなった。そこに、ロノスの言葉が降りかかる。
「貴様の様な反逆者、生かしておく道理はない」
感情の起伏を一切感じられない、冷たい声だった。ロノスのその声が響いた途端、ゼスのつま先が燃え始めた。
「な、なんじゃ?! 熱い!」
炎はゼスの体を灰へと変質させながら、ゼスの体を這い上がっていく。
「嫌じゃこんな死に方。いっそのこと一息に殺してくれ!」
ゼスの叫びも虚しく、じっくりと時間をかけて体を登る炎。
「ぐぬあぁぁぁあぁぁー!」
苦痛に顔を歪めるゼスは、涙を流しながらロノスを見る。そしてゼスはロノスの影にルーカスの姿を重ね、悲鳴を上げることをやめた。
「ワシはどこで間違えた……ワシは決して間違えてなどおらぬ……間違えてなどおらぬのに、どうしてワシがこんな目に遭わなければ……」
炎がゼスの顔にまで登り、口までもが灰になる。最後は髪一本すら残らず、ゼスは灰となって消滅した。
そして、ゼスの瞳は最後まで……疑問と恐怖で染まっていた。
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