46.ネルとドライアドの共闘
「やるぞ、ドライアド!」
ドライアドはネルの言葉に頷くと、手のひらを前に突き出し、そこから緑色に輝く光の粒を放出する。そこに、どす黒く光る粒が混ざっていき、ドライアドの口が開いた。
「環境操作」
粒子の輝きが強くなり、辺り一帯を包み込む。そうして光が止むと、周囲の光景が一変した。
「紅い空に、ひび割れた灼熱の大地……これは地獄の再現か」
「その通りだゼス。これで妾も本気を出せるぞ」
「ふん……ワシを以前の分身と同じと思うでないわ」
ゼスが杖を回転させると、そこから樹木の根のようなものが伸びてくる。
「黒炎」
ネルが放った黒い炎で根が焼かれる。だが、根はネルに止めどなく押し寄せる。
「黒炎<壁>」
ネルが自身の前に構築した黒い炎の壁は、ネルを貫こうと伸びてくる根を、触れた瞬間焼き落としていった。
「ほう……ならばこれはどう防ぐ? 『岩石雨』」
ゼスの詠唱と同時に、ネルとドライアドの頭上から、大量の岩や石が降り注ぐ。だがネルは、ゼスに向かって挑発的に笑って見せる。
「なんだ? 神という割にはこの程度なのか? ドライアド」
「樹木同調」
ドライアドは地中から木の根を生み出し、屋根のようにしてネルとドライアドに向けられた『岩石雨』を防いだ。すると、ゼスが攻撃の手を緩めた。
「もう来ないのか? ならば次は妾からゆくぞ!」
瞬時に生やした黒い天使の翼を羽ばたかせ、ゼスに向かって飛んだネル。ゼスはネルに向かって『岩石生成』で岩を連射するが、ネルはヒラリヒラリと回り、優雅な曲線を描いてかわす。するとゼスは杖を構え、杖術で戦う姿勢をとった。
「ワシは天界の神々の中で一番の杖術使いじゃぞ。お主のような若造に近接戦闘で負ける道理など微塵もない!」
「そうか……だが誰が貴様と近接戦をすると言った?」
ネルはゼスの横を素通りし、ゼスの遥か頭上に陣取った。
「黒雷」
「むうっ……!」
ゼスは杖を回し、咄嗟に黒い雷を木の根で遮る。
「ふっ……かかったなゼス!」
「何を……はっ!」
ゼスの背後で黒い炎の塊が、今にも爆発しそうなほど輝いている。
「ネルお主、図ったな!」
『黒雷』を防ぐために展開した木の根がゼスの退路を断っている。それを見て、ネルは策がはまった喜びで手を握った。
ドゴオォォォオォォオォォンッ!
ゼスがいた場所は黒い煙で包まれる。やがてモヤがなくなり、そこに残っていたのは……銀灰色の球体だった。
「なっ?! 何だこの球体は!」
「熱耐性が高い金属──タングステンじゃよ。『金属錬成』でワシが作ったのじゃ。じゃがまあ今のは、久々にヒヤリとしたわい」
球体を消して姿を見せたゼスには、焦げ跡一つ無かった。
「ケホ、ケホッ……」
不意に、地上で地獄の再現に注力していたドライアドが咳き込み、膝をついた。
「ゼス貴様、何をした!」
「ちとな……こういうことじゃ」
そう言ってゼスは、一見何もないように見える皺皺の左手をブラブラと振った。その左手を注視していたネルが、何かに気づいたように目を見開く。
「透明の……有毒ガスか!」
「正解じゃ。ワシはこの、空気より重い有毒ガスを戦闘が始まる前からずっと垂れ流しておったのじゃよ。今頃地上は、生物がまともに住むことができない死の海と化しておるだろうな」
「チイッ……『黒岩』」
ネルはドライアドの足元から黒い岩を隆起させ、ドライアドの体をゼスと同じ高さまで持ち上げた。そうしてドライアドの元へ飛んでいくと、ネルはドライアドを庇うように『黒岩』の上に立った。
「ドライアド、深呼吸をするのだ。ここには毒ガスは飛んでいない」
ゼスを警戒しつつ、ネルはドライアドの背中をさする。すると蒼白い顔をしたドライアドの呼吸が徐々に安定してきた。
「ハァ……ハァ……。申し訳ございませんネル様。遅れをとってしまって、申し開きのしようもございません」
「よい。其方は何も悪くないぞ。妾も毒ガスに気づけなかったしな……ドライアド、きついとは思うが、其方は『環境操作』地獄の維持を頼む。そして安静にしていろ。ゼスの分身は妾が葬る!」
「承知……いたしました……」
未だ顔色が悪いドライアドを寝かせて、ネルはゼスを睨みつけた。
「ゼスの分身! ……次で、終わらせるぞ」
「やってみよ! できるものならな!」
「黒蔦」
ネルの右の手のひらから、五本の黒い蔦が生え、頭上からゼスに襲いかかる。
「そのような攻撃が通るとでも? 凄んだ割には他愛無い。『風刃』」
幾つかの風の刃が黒い蔦を切り裂き、切られた蔦がパラパラとゼスの近くを通って落ちていく。
「……」
そして切られた黒い蔦の破片の一つが、ゼスの肩に触れた。その時、ネルは両手を見開き狙いをつけ、叫んだ。
「スキル付与『壊波』」
ヘイルムでゼスの分身と戦った時、分身の杖越しにとどめを刺した大技『壊波』。それを黒い蔦の破片に付与し、直接ゼスの体に打ち込んだ。
「ぐあぁぁぁあぁぁぁあぁっ!」
大気を揺らす凄まじい衝撃とともに、黒い亀裂が勢いよくゼスの全身を這う。そうしてその亀裂が、足先にまで達した瞬間、ゼスの叫びが止んで体が灰になった。
「やはりネル様は……お強いですね」
「いやドライアド。其方がいなかったら妾は力を行使できなかった。礼を言うぞ」
立とうとするドライアドに手を差し出したネル。顔を見合わせた二人は、一方は無邪気に、一方は大人っぽく微笑んだ。
「ドライアドよ。妾たちもルーカスの戦いを見届けにゆくぞ」
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