42.男神ゼス
「またお主か。元勇者のルーカスよ」
天使が全滅したというのに、平然とした顔で俺を見下ろすゼス。彼の周りには、球面状の光の幕が張られている。
「なるほど。あれは『光盾』の応用……厄介だぞ」
クーダマリーが言ったように、どうやらゼスはあれで隕石から身を守ったようだ。
「あやつの固有スキルもまだわかっておらぬ。飛び込むでないぞ」
「わかっている。俺もそこまでバカじゃない」
俺は木の陰から出て、更地になった天光山の頂上に姿を現した。そうして剣を鞘から抜き、ゼスを見据える。俺の殺意を感じ取ったゼスは、ふん、と鼻を鳴らして空に杖をついた。
「まあまつのじゃ。お主には聞きたいことがあるのでな。殺してしまう前に、少し話をせんか?」
「俺にはおまえと話す理由がない」
「そんな怖い顔をするでない……今どきの若いもんは年寄りの話にも付き合ってくれんのか?」
「ふざけるな! 俺はおまえたちに利用され、世界から功績すら消されて地獄に落とされた。挙げ句の果てに今度は地獄でヘイルムに攻め入り、おまえらによって理不尽に地獄に落とされた無罪の人たちまで殺そうとした! そんなやつの言葉なんて聞くつもりはない!」
「ほぉ……。お主はそのような些事を気にしておったのか。器が小さいのぉ……」
自分の行いを罪とも思っていないゼスは、己の白い髭を触って、あたかも俺が間違っているかのように話した。
こいつには、罪悪感ってものがないのか!
「地獄に侵入するのは神々の間で禁止されているのではなかったのか!」
「おおそうか。お主が気にしていたのはそのことか」
合点がいったというように頷くと、ゼスは話し始める。
「それはな、あくまで地位が低い神々や天使の話じゃ。ワシは天界で三番目に偉い神でのぉ。多少禁忌を犯そうが誰も裁けぬのよ」
そう言って高らかに笑うゼス。
こんなのが偉いのか? 天界はどうかしている!
ゼスは一通り笑い終えると。オホンと咳払いをした。
「さて、ワシがお主に聞きたいの……」
「おい! 俺はおまえの話など聞くつもりはない!」
「……黙れ」
「……っ!」
突如重くなったゼスの言葉は、俺たちに重力が何倍にも跳ね上がったかのような錯覚を与えるほどの圧力を帯びていた。
「ワシがお主に聞きたいことはただ一つ……何故そこまでしてワシら神々を殺そうとするのじゃ? 大抵の人間はむしろワシらを崇め奉るものじゃろうて」
威圧的な表情とは裏腹に、心底不思議そうな声で尋ねるゼス。俺はもう、我慢の限界だった。
ドンッ!
俺は一瞬でゼスの背後に回り込み、首を狙って剣を振り下ろした。
「断空」
ガンッ!
俺の剣を見向きもせず防いだゼス。彼が使ったスキルは、空間の繋がりを断つ絶対防御の闇属性スキルだった。
「なぜ神であるおまえが闇属性スキルを使えるんだ?!」
「お主はまず、ワシの質問に答えたらどうじゃ!」
杖を使ったゼスの突きを噛んで受け止めるが、勢いを殺しきれずに吹き飛ばされる。俺は受け身を取って地面に着地すると、剣を構え直した。
「俺がおまえたちに復讐する理由だと? そんなもの、さっき言っただろう!」
「おぉ、あれが理由か? それならばお主はまるで、癇癪を起こした子供のようじゃな」
もう一度斬りかかろうと前傾した時、俺の肩に手が置かれた。
「ルーカス落ち着け! 貴公は『断空』の対処法も知らんだろう?」
「クーダマリー……」
俺は隣にいる黒い鎧を身に付けたクーダマリーを見て、深く息を吐いた。
「そうだな……取り乱して悪かった」
「よし、落ち着いたなルーカス。それならば妾も加勢するぞ」
ネルが前に出て来て、ネルがスキルを使えるようにするため、ドライアドも『環境操作』スキルの準備を始めた。
「それで、さっきの『断空』というスキルへの対処法をクーダマリーは知っているのか?」
「ああもちろんだ。私も使えるからな……『断空』は大きさも強度も優れているが、効果を継続できる時間が極端に短い。しかも再発動させるまでには数瞬かかる……つまり『断空』には連続攻撃が効果的なんだ」
「連続攻撃か……」
「ですがルーカス様、ゼスが持つ固有スキルの正体がまだわかっておりません。それがわからないと……」
「その通りだルーカス。妾が戦った時、仕留めたはずのゼスが蘇ったことと固有スキルが関わっていそうだが、それが何なのかまではわからぬ」
「いや、固有スキルならおそらく……」
ゼスは俺たちを見下している。それにあの高圧的な態度と滲み出る絶対の自信。挑発すれば固有スキルを吐きそうだ。
「ゼス! おまえは雑魚だ。俺一人で相手してやる!」
「ほう? 斯様なことを言う……なるほどそうか。お主ワシを挑発して固有スキルを使わせるつもりじゃな?」
さすがにそこまでバカではないか……。
仕方なく固有スキルがわからないまま戦闘を始めようとしたその時、
「ふははっ、いいだろう。その見え見えの策に乗ってやろうではないか」
そう言ってゼスは杖を掲げた。
「分身」
ゼスがスキルを発動すると、彼の左右には瓜二つの分身体が一人ずつ現れた。ただ一つ違うのは、杖に嵌め込まれている宝玉の色。本体は白と黒の二つ、一方の分身は赤と青、もう一方は緑と土色の宝玉が嵌められていた。
「そうか。つまりヘイルムでネルが相手していたのは分身体だったのか」
納得する俺に向かって、三人のゼスが杖を向ける。
「ではゆくぞ。元勇者よ」
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