41.天光山
「見えてきたぞ。天光山が」
俺は馬車を天光山の手前にあった大岩の陰に停める。
「ゼスや天使がいるかもしれないからな。ここからは歩くぞ」
「そうだな……ドライアド、いつでも『環境操作』を使えるよう準備しておけ。妾の力がいつ必要になるともわからぬからな」
「わかりましたネル様」
「では馬車で話した通り、接敵したら俺とクーダマリーが前衛、ドライアドが後衛から援護しつつネルを護衛する。問題ないな?」
三人が頷くのを確認して、俺は天光山のふもとへと歩き出す。もちろん山道は避けて。
「ここからなら登れそうだな」
雲を貫くほど高い天光山の頂を見据えて、俺たちは天光山に足を踏み入れた。
もう少し、もう少しだ。ゼスはもう、目と鼻の先にいる。
「ルーカス」
ネルが俺の手を握る。おかげで冷静になった俺は、はやる気持ちを抑えて一歩ずつ慎重に天光山を登り始めた。
「ありがとうネル。落ち着いた」
「ん? 何のことだ?」
そっぽを向くネルの頭を撫でると、ネルは嬉しそうに唸った。
「前にも思ったが、ネル様とルーカスは仲がいいのだな。こんな顔のネル様、私は今まで一度も見たことがないよ」
「だ、黙れクーダマリー。別に妾が誰と親睦を深めようが妾の勝手であろう」
「ははっ、そうだな。失礼した」
気分良さげに笑うクーダマリーを、ネルが不服そうな目で見つめた。その時、
「光熊が二匹、迫って来ています!」
ドライアドの上げた報告が、四人に流れる和やかな空気を緊迫させた。間も無く、ドライアドの報告通り、歪んだ木々の隙間から身体中を輝く白い体毛で包んだ熊が二匹、現れた。
「俺が右をやる」
「なら私は左だ」
ドライアドも前衛から距離を取り、ネルもドライアドに近寄る。そうして俺たちが配置についたその瞬間、光熊は輝く体毛をハリネズミのように硬化させ、飛ばして来た。
「岩壁」
ズドドドドドドッ!
岩壁に針のような体毛が突き刺さっていく。その音が止んだ瞬間、
「グオォォオォオッ!」
岩壁に突進し、岩壁を破壊した光熊が吠えた。二足で直立し、前足を振りかぶる一匹の光熊。俺は光熊のがら空きになった足元を剣で切り払う。
スカッ……。
だがその剣は光熊には当たらず、光熊の姿も消えていた。
「また転移する魔物か……だが『環境操作』は目立つ。使えばゼスに俺たちの存在を気取られかねない」
「そうだな。やはりこの熊どもはこのまま私たちで倒すべきだな」
「だがどうする? 俺たちが攻撃した瞬間に転移されれば攻撃は当たらないぞ」
「大丈夫だ。私はこいつらに使えそうなスキルを持っている……要はこいつらに気付かれる前に攻撃を当ててしまえばいいのだろう?」
俺の前から消えた方の光熊が、ネルとドライアドの背後に姿を現した。
「ネル! ドライアド!」
振りかぶられた光熊の前足が、二人の頭上に振り下ろされそうになったその時、
「空間接続」
クーダマリーがスキルで空けた空間の穴に、剣先を突き刺した。すると、光熊の頭の後ろに出現した空間の穴からクーダマリーの剣先が突き出し、光熊の脳天を貫いた。
「すごいな」
「まだ一匹残ってる。気を抜くなよルーカス」
「ああ、ならばあいつは俺がやろう」
そう言って、遠くから俺たちの様子を窺っている光熊と目を合わせる。
「『氷槍』、スキル付与『隠密』」
気配と姿を消した冷気が地中を這い、光熊の真下に到達。
ザクザクザクザクザクッ!
その瞬間、地中から生えた氷柱が光熊を滅多刺しにした。
「貴公もなかなか器用だな……」
俺のスキルに感嘆しているクーダマリーの肩を叩き、俺は再び天光山を登り始めた。
「いくぞ。頂上まであと半分くらいだ」
***
「あの白く神々しい建物が、光の神殿……」
歪んだ木々の陰から、天光山の頂上に立つ光の神殿を覗き込む。その周囲に木はなく、大勢の天使たちが守りを固めていた。
「天使どもに見つからず神殿にたどり着くのは無理だな」
「仕方ない。ここは強行突破するしかないだろう。光の神殿ごと、この一帯を吹き飛ばすがいいな?」
ネルが頷くのを見て、俺は手に魔力を集め始める。
俺が持つスキルの中で一番威力があるのはやはり……。
「『溶岩雨』、『連弾』」
空を埋め尽くす無数の溶岩塊。それを一つの巨大な隕石のように合成する。
「スキル付与『突風』、『大発火』」
『突風』で隕石を加速。大質量の高温物体は狙い通り光の神殿へと落ちてゆく。
「な、なんだあれは?!」
「巨大な……隕石?」
あるものは驚愕し、あるものは呆然と立ち尽くす。天使たちは各々の形でパニックに陥り、誰一人としてまともな行動を取ることはできなかった。
ドゴオォォォオォォオォォォオォォン!
「『岩壁』、スキル付与『炎壁』」
俺は余波に備えて防御を固める。その向こう側からは、天使たちの悲鳴が鳴り響いた。
「ぐうっ……」
「ネル!」
隕石落下の衝撃で、浮き上がるネルの体を支える。そうして衝撃が止む頃には、光の神殿があった辺りは更地となり、隕石の破片が散乱するだけとなった。
「これは……お主らの仕業じゃったか」
隕石によって焼かれた場所の中心に、無傷で浮かぶゼスの姿があった。
「ゼス……」
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