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【完結】かつて世界を救った勇者は地獄に追放された〜俺は俺を世界から追放した神々への復讐を決意する〜  作者: 早野冬哉
第二章

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40.人間界の異常

「これは……空間が歪んでおるのか? ……其方ら、互いに触れていなければはぐれるぞ」


 そう言って俺の手を握るネル。続いてドライアドが、


「失礼致します」


 と言って俺の反対の手を握る。クーダマリーはネルの手を握った。


「これは現状を確認した方が良さそうだ。ネル様、まずはカラクの町で情報を集めるのはどうだろう?」


「そうだな……よし、まずはカラクの町へ行くぞ」


 そう言ってネルが歩き出したその瞬間、何もなかった空間から、急に黒狼が現れた。


「ガルウッ!」


 真っ直ぐに突っ込んでくる黒狼に、俺は剣を振り下ろした。だが次の瞬間、黒狼の姿は消えていた。


「後ろか!」


 クーダマリーが背後に現れた黒狼に反応して剣を振り抜く。だが、クーダマリーの剣も空を切るだけだった。


「どうなっている? 黒狼は転移や幻影系のスキルは持っていないはずだ」


「それはおそらく、この歪んだ空間が原因でしょう。これはわたくしの推測ですが、野生の勘か、もしくはその鋭い嗅覚で空間の歪みを正確に把握して利用しているものかと」


「なるほど……だが種がわかったところで、俺たちに空間の歪みを把握することは出来ないぞ」


「わたくしの『環境操作』スキルで、一時的に空間の歪みを解消できると思います。ですのでその間に黒狼を仕留めていただけますか?」


「わかった。やってくれドライアド」


 ドライアドは目を瞑り、両手を前に突き出して集中する。すると彼女の手のひらからは緑色に光る粒子が散りばめられていく。


「環境操作」


 ドライアドのスキルに反応し、周囲の景色が真っ直ぐに安定してくる。歪曲していた森の木々も真っ直ぐ元通りになった。


「今です!」


「ああ!」


「了解した!」


 こちらの様子を伺って足をとめた黒狼に、俺とクーダマリーの剣が届く。そうして黒狼はあっけなく崩れ落ちた。


「皆様もう一度近くに……スキルの効果が切れます」


 もう一度手を繋いだ俺たちは、そのままカラクの町へ向かって歩き出した。


***


「いったいこれはどうなっている?」


「人っ子一人おらぬな」


「本来、歪んだ空間の中では人間は生きられません。逆に、人間がいる場所では空間の歪みは起こり得ません。歪みと人間は、元々両立しない関係にあるのです」


「つまりどういうことだ?」


「ここは正確に言えば人間界ではなくそのコピーだと、ドライアドはそう言いたいのだな?」


「その通りでございますネル様。……ですが地形や建造物の位置はおそらく人間界と同じです。このままゼスのいる光の神殿に向かってよろしいかと存じます」


「そうだな。では当初の予定通り、光の神殿のある天光山に向かうと……」


 ネルは言葉を切り、その紫色の瞳で前方を凝視した。俺もネルの視線を追って前を見ると、そこには確かに人影があった。


「其方ら警戒せよ」


 俺とクーダマリーが前に出て、ネルとドライアドを庇う。対して人影は、ゆらゆらと左右に揺れながら、ゆっくりとこちらに近づいて来て……。


 あのシルエット、どこかで……。


 やがてその姿がハッキリと見えると、俺は目を疑って声をかけた。


「おまえ、カラクの町でゴロツキをしていたレンか?」


「あ、あんときの女神ヘスラを倒した兄ちゃん! なんでこんなところにいるんすか?」


「それはこちらのセリフだ。おまえこそどうしてここにいる?」


「おれはふと気がついたらここにいて……なんなんすかここぉ……歩いてるだけで酔ってくるし誰もいないし、もしかしてこれが、死後の世界ってやつですかねぇ?」


 不安げに体を丸めるレンに俺は事情を説明した。元の人間界に戻る手段もわからないということで、レンも俺たちの旅に同行することとなった。


「にしても今度は男神ゼスを倒しに行くとか……ルーカスさんなら本当に成し遂げそうっすね!」


「当然だ。それが俺の生きる理由であり目標だからな」


「事情は分かりやしたけど、ルーカスさんは復讐が終わったらどうするんすか?」


 復讐を終えたらどうするか……か。そんなこと考えたこともなかったな。


「わからない。今はそんなこと考える余裕もないからな」


 俺がレンと話して待っていると、


「ルーカス、使えそうな馬車を見つけたぞ!」


 ネルたちが馬車を探して押してきた。


「ああ、助かる。それがあれば一週間も歩かずにすむぞ。おそらく一日くらいで天光山のふもとに着くはずだ」


「だが馬がいないぞ。どうやって動かすのだ?」


「まあ見ててくれ」


 俺は全員を馬車に乗せると俺は操縦席に乗り、『樹木操作』を使って木製の後輪を回し始めた。すると馬車は加速しながら動き出した。


「すげぇやルーカスさん! これ普通に馬が引くよりもめちゃくちゃはぇえよ」


「さすがはルーカスだ。これならば本当にものの数時間で天光山に着くぞ!」


「やはりわたくしの主様は素晴らしいです」


「ルーカス、貴公は器用なのだな」


 各者各様の驚きを見せる荷台を一瞥。俺は歪んだ景色ながらも正確に道を把握して、カーブに合わせて馬車を操縦する。


「もうすぐだ……もうすぐ俺の復讐が終わる……」


 俺はゼスのいる光の神殿を見据えて、馬車を動かし続けた。

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