39.再び人間界へ
「待てっ!」
門の中に消えていくゼスを追いかけようと、俺は地面を蹴る。
「待つのはおまえだルーカス」
だが、イフリートに羽交い締めにされて止められた。
「なぜ止めるんだイフリート!」
「冷静になるのだルーカス! おまえは状況の把握くらいできるだろう? 辺りを見回してみろ」
気がつくと、ゼスが入って行った門はすでに閉じていた。辺りを見回すと、ヘイルムの町は建物が崩れたり、道路が陥没したりしていて、ネルとゼスの戦いが壮絶なものであったことを物語っていた。
「負傷者も……いるようだな」
「理解したな? まずはヘイルムの復興が最優先だ。クーダマリー、ネル様が指示を出さない時はおまえが仕切ることになっておったな?」
「そうだ。貴公らには一時的に私の下についてもらう」
その後、ネルはドライアドによって治療された。そして俺とイフリート、クーダマリーに加え、ヘイルムに到着した隷虐地獄の番人マゾエスや極寒地獄の番人グリーシスも協力して、負傷者の手当てや町の復興に取り掛かった。
***
「すまぬな。今回は其方らにも迷惑をかけた」
会議の間で、ネルが頭を下げたのは、ゼスが降臨してから一週間後のことだった。町の復興作業も終わりネルも回復したため、今後のことを議論するために、地獄の番人全員とネルと俺がこの場に集まっている。
「して、今後の方針だが……妾はゼスを倒しに人間界へ行くべきだと思うのだが、其方らはどう思う?」
「俺は賛成だ。私怨を置いといても、ゼスがヘイルムに乗り込んでくる度にヘイルムが戦場になる。そうなれば、ヘイルムに住む人々から犠牲者が出るのは時間の問題だ」
「我も……ルーカス、の意見に……賛同する」
「私もルーカスの判断が正しいと思うぞ。実際、男神ゼスは実力は確かだ。こちらから打って出なければ、いずれ滅ぶのはこちらだ」
グリーシスとクーダマリーは、俺の意見に賛同してくれた。イフリートとマゾエス、それにドライアドも頷いてくれている。
「決まりだな。我々は人間界に赴き、ゼスを見つけ倒す!」
ようやくゼスと戦う目処がついた……あと少しだ。あと少しで俺の復讐は完了する!
ネルの言葉に、皆各々に闘志を燃やす。その様子を見まわしたネルは、具体的な話を進める。
「だが、ここにいる全員で行くわけにはいくまい。妾たちが留守の間に地獄を攻められれば終わりだからな」
「俺は行くぞ」
「わかっておる。ルーカスの復讐心は理解しておるし、地上で神と渡り合える実力を持つのは其方だけだからな」
全員がネルの言葉に頷くと、ドライアドが発言した。
「わたくしも人間界に行かせてもらえませんか? 主であるルーカス様が行くのならわたくしもお供させてください」
「そういえばドライアド、其方は確か、『環境操作』スキルを持っていたな。それで人間界に地獄を作れるか?」
「おそらく可能です。ネル様の呪いも、発動しなくなると思います」
ネルの、地獄以外ではほとんどのスキルが使用不可になる呪い。それが解けるのなら、最高戦力でゼスに挑める。
「ならば妾とドライアドも決定だな。あとは……クーダマリー、其方も来ないか?」
「私も、ですか。そのお言葉はありがたいのですが、それでは地獄の守りが……」
「いや、守るだけならばマゾエスやグリーシスは鉄壁だ。彼ら三人に時間を稼いでもらい、すぐに人間界にいる妾たちに連絡が来るようにすれば問題ないだろう」
「なるほど、わかりました。私もお供しましょう」
胸に手を当て、鎧姿のクーダマリーは顔を出し、恭しく頭を下げた。
***
「其方ら、準備は良いか?」
会議の翌日。人間界組みはヘイルム城最奥の部屋に集まっていた。
ここも懐かしいな。前は殺人鬼を地獄に落とすために人間界へ行ったんだったな……。
つい最近のことが遥か昔のことのように感じられる。それほどまでに、地獄に来てからはいろいろな出来事があって充実していた。
「では行くぞ」
そう言ってネルは、空間を裂く音とともに人間界への門を出現させた。
「ゼスはおそらく、人間界最高峰の山──天光山の頂にある光の神殿におる。門は以前と同じくカラクの町近くにある森にしか出せぬ故、天光山に着くまでは悟られぬよう注意して行くぞ」
全員が頷くのを確認して、俺たちは順番に門をくぐっていった。最後に俺が門をくぐり、人間界についた。その途端、目に映った光景に俺は唖然とした。
「これはいったい……空間が歪んでいるのか?」
酩酊した時よりもなおグニャグニャと景色が揺れ、木々もありえない方向に折れ曲がっていた。
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