38.極寒地獄を抜けて
「ルーカスがいう通り、確かにあの分厚い雲がなくなれば我は飛べるが……何か考えがあるのだな?」
「ああ。おそらく雲をどかすくらいはできる……はずだ。イフリート、竜の姿になってくれるか?」
頷き、竜になったイフリートの上に乗ると、クーダマリーの手を引き、彼女もイフリートに乗せた。
「確認するが、雲の下までなら行ける、ということであってるな?」
「うむ」
「なら雲の近くまで飛んでくれ」
吹雪の中、それでも抜群の安定感で飛ぶイフリート。彼が雲の手前で止まると、俺は剣を構えた。
「斬撃強化を乗せた『風刃』ならば、どれだけ分厚くても雲の上端まで届くだろう」
略奪剣に『風刃』を付与。
「なるほど。確かに貴公の刃は雲を貫けるだろう。だが、それではイフリートが通れるほどの隙間は作れんだろう」
「ああ。だからここからが本番だ。『突風』を付与する」
「『突風』のスキルは付与したものの後方に吹き出し加速させるだけの効果だろう? それでは……」
「そうじゃない。斬撃には『岩石生成』を付与し、撒き散らされた石々に『突風』を付与する。そうすれば雲を吹き飛ばせるはずだ」
「そんなことが可能なのか?! スキル付与は対象物と距離が離れるほど失敗確率は上がるのだ。それを動く小さな的に、しかも多くの石にかけることなど、神ですら成功させることなど……」
「クーダマリー。ルーカスはこういう時、やる男だ」
「……そうか。ならば信じてみよう」
二人が頷くのを確認して、俺は剣に『岩石生成』を付与した。
スパンッ!
風刃が石をばら撒きながら、一瞬のうちに雲を両断した。
しまった! 雲でほとんどの石が見えない……。
「超音波」
俺は目を閉じて石の位置を把握する。そして大きく息を吐き、唱える。
「スキル付与『突風』」
この感触……成功だ!
次の瞬間、雲の中の乱気流を吹き飛ばす暴風が吹き荒れ、雲を散らす。
「イフリート!」
「わかっているぞルーカス!」
『突風』の効果が終わり暴風が止んだ途端、雲はまた元通りくっつこうとしてくる。その隙間が閉じるギリギリで、イフリートは雲の上に到達した。
「成功……した」
極限の集中を解いた俺は、疲れが押し寄せてきて倒れそうになる。それを、クーダマリーが支えてくれた。
「ははっ、貴公はすごいな。元からあれだけの難易度があったにも関わらず、まさか見えないものにスキルを付与するとは……感服したよルーカス」
気分が昂ったクーダマリーは頭につけていた鎧を取り、笑った。その顔には大人の魅力があって、黒の瞳が輝いていた。
***
「ようやく極寒地獄を抜けたな……」
俺は自分とクーダマリーの鎧に使っていた『発火』を解除して、大地を見下ろす。すると、地平線の近くにヘイルムの町が現れた。
「そろそろヘイルムだぞ。おまえたち準備はできているな?」
「ああ」
「当然だ」
その時だった。ヘイルム上空に、突如として積乱雲が現れたのは……。
「なんだあれは?!」
「我にもわからん。とにかく急ぐぞ」
ヘイルムに近づくにつれ、今ヘイルムになにが起きているのかがわかった。
「あれは……ゼス!」
かつて俺を地獄に落とした神──俺の最後の復讐相手。その姿を目にした途端、俺は憎しみで頭の中が埋め尽くされた。
「おいルーカス!」
気づけば俺はイフリートの背から飛び出し、『炎翼』を使ってゼスの真上、積乱雲の目の前にいた。
「やれやれ、我も先に行くぞ」
クーダマリーもイフリートから飛び出して、黒い霧を纏って空を走る。
「ルーカス。まずはその雲を切り裂こう。おそらくそれは神ゼスの無差別攻撃スキルだ!」
だが、怒りに身を任せている俺にはクーダマリーの声が届かない。それでも俺は、邪魔な雲をどかすことにした。
スキルなら、本物の雲と違って斬撃で壊せる!
「風刃」
「虚斬り」
意図せず重なった俺とクーダマリーの攻撃が、積乱雲を消し去った。
「ゼス! 俺はおまえを倒して復讐を遂げる!」
重力に身を任せ、俺はゼスに斬りかかる。俺の剣を意図も簡単に杖で弾くゼス。俺は地面に着地し、ゼスを睨んだ。
「ルーカス……か? 無事でよかっ……た」
「ネル?」
ゼスに警戒しつつ後ろを見ると、地面にうつ伏せになって意識を失っているネルの姿があった。
「ゼス! おまえだけは俺の手で必ず殺す!」
「お主のような矮小な人間がワシを殺す? 無理に決まっておろう。それにお主も、地獄に落とされた身でありながら罰を受けていないとはどういう了見じゃ!」
「おまえら神が身勝手な理由で俺を地獄に落としたからに決まっているだろう!」
互いに怒りを滲ませて睨み合う。そうして俺は剣を構えて重心を下げ、ゼスは杖を構えて魔力を流す。その時だった。
「ゼス様、天界の手の者にゼス様が地獄におられることを気取られました。一度お戻りください」
突如ゼスの背後に門が開き、一人の天使がゼスを迎えにきた。するとゼスは構えを解き、門へと入る。
「行かせるわけがないだろう! 『氷槍』」
「光盾」
ゼスは後ろを向いたまま氷柱を塞ぐと、閉じてゆく門の中で言った。
「……今回のところはこのくらいにしておいてやろう。じゃが、すぐにまた裁きを与えに戻ってくる」
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