37.ネルの戦い
「ルーカス……」
門を壊したことにより発生した時空の歪みに吸い込まれたルーカスたちを見て、ネルは呆然と呟く。
「ネル様、詳細な位置は特定不能ですが、どうやら彼らは地獄にいるようです」
後ろにいた秘書の言葉に胸を撫で下ろすと、ネルは指示を出す。
「そうか。ならば各地獄にルーカス、イフリート、クーダマリーの三人を探すよう伝達せよ」
秘書が下がるのを見届けると、ネルは空を見上げた。
「ルーカス……」
するとネルのアメジストの瞳が、空に現れた別の小さな門を発見する。
「まだ懲りぬのか? あの大きさの門では同時に入れる数もたかが知れておる。妾が……」
開きかけた門から、先ほどまでとは比べ物にならない威圧感がヒシヒシと伝わってきた。
「この圧……まさか、神自ら禁を破って地獄に乗り込んでくるとはな」
傲慢な笑みを浮かべたネルの前で、門から一筋の雷がヘイルムの町中心に落ちた。白い髪に皺の濃い顔には白い髭。中肉中背の老人──男神ゼスは杖を持って町の中心に浮かんでいた。
「ワシらが地獄に落とした者どもよ! なぜお主らはそうも平穏な暮らしを送っておるのだ? 地獄が裁かぬというのなら、ワシ自らその身に裁きを下そうぞ!」
そう言ってゼスが杖を掲げると、上空に巨大な積乱雲が出現し、手当たり次第ヘイルムに雷が降り注ぐ。
「黒雷」
そしてゼスが降らせた雷を、ネルが発する一筋の黒雷で全て相殺、そのまま積乱雲までもを切り裂く。
「男神ゼス。貴様、地獄に干渉することがどういうことかわかっておるのだろうな?」
「地獄の王ネルか。お主こそ、ワシら神々の決定を無視し罪人どもに罪も与えぬどころか、人間界よりも良い暮らしをさせるとはどういう了見じゃ?」
「殺人鬼キラードをはじめ、凶悪犯を裁かずに貴様らにとって不都合な人間ばかりを落としておいてよく言うな」
ゼスのすぐそばにある塔の屋根からゼスを見下ろすネル。ゼスは皺だらけの顔で眉間に皺を寄せる。
「ふん……。お主こそ、天界から堕とされた分際でよく吠える」
「……っ。黙れ、無能な神が!」
歯軋りするネルに侮蔑の目を向けると、ゼスは杖を構えた。
「まあ良い。ワシらの決定にも従えん無能なぞ、地獄の王にふさわしくないわい!」
「雷脚」
ネルが纏う黒いイナズマがバリバリと音を上げ、足に集中した……その瞬間、塔は崩れ落ちネルはゼスの背に右の手のひらを当てた。
「壊……ぐっ……」
かつて人間界において一撃で魔王を仕留めた『壊波』。それは地獄で発動すれば神であれ直接触れた状態での一撃で仕留められる。
「甘いわい。若造が!」
だが、背後に回ったネルの腹を、神速の杖術で撃ち抜くゼス。ネルは後ろに飛んでダメージを抑えたが、それでも視界が揺らぐ。その隙を逃すまいとゼスがネルに突進した。
「黒炎」
突如ゼスの正面に現れたのは、黒い炎の津波。押し寄せる濁流がゼスを飲み込む──かに思えたが、勢いの弱い綻びを見つけてゼスは突進を続ける。ゼスが黒炎を抜け、ネルの姿を捉えたその時、ネルは口角を上げた。
「……かかったな。それは罠だ。『竜爪』」
地面を抉り、空間を裂く一撃がゼスの左腕を引きちぎる。
「黒雷」
「『光盾』、『治癒』」
畳み掛けるネル。だが、ゼスは冷静に守りを固め腕を生やした。そして生やした左腕の感触を確かめるように手を握ると、『光盾』を解除。それと同時にネルの眼前に迫る。
「黒翼」
黒い天使の翼で上に逃げるネル。だがそれすらもゼスは読み切り、先回りして杖を振り下ろす。
ポスンッ……。
振り下ろされる杖を黒い翼を前に回して受け止めると、ネルはその杖を掴んだ。
「壊波」
その瞬間、杖には黒い亀裂が走り粉々に砕け散る。
「グォアッ……」
そして杖を持っていたゼスの身体中にも黒いヒビが入り、血が吹き出した。
「治癒」
ゼスが回復スキルを使うが、亀裂が閉じる気配はない。
「こ……このスキル、呪いの類か……」
苦悶の表情を浮かべるゼスに、ネルはもう一度『壊波』を放つ。そうすると、ゼスの体は粉々に砕け散った……が、その時ネルの背中に乾いた手が触れる。
「なん……」
「天雷」
「がっ……」
ネルの体の中を暴れ回った雷が、ネルの意識を薄れさせる。
「何故……貴様は無傷なんだ、ゼス」
朦朧とする意識の中、落下するネルの瞳には冷酷な目で自分を見下ろすゼスの姿が映った。
ドサッ……。
ネルが地面に落ちると、ゼスも地面に降り立ち、ネルを見下す。
「所詮お主も堕ちた天使、ワシらのような本物の神には届かぬのが道理じゃ」
(やはり妾では、ルーカスのように神を打倒するなどできぬか……)
虚ろな目をしたネルから視線を外すと、ゼスは杖を掲げてもう一度積乱雲を発生させる。
「大罪を犯した者たちよ。男神ゼスの名の下に裁きを受けるがよい!」
ゴロゴロゴロ。
積乱雲が光りはじめ、今にも雷が町中に降り注ぎそうになったその時、
「風刃」
「虚斬り」
竜に乗って積乱雲を切り裂く二人の陰が見えた。
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