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【完結】かつて世界を救った勇者は地獄に追放された〜俺は俺を世界から追放した神々への復讐を決意する〜  作者: 早野冬哉
第二章

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36.ヘイルムの危機

「キャアァァ!」


「誰か助け……ゴフッ……」


 突如ヘイルム上空に現れた門から出てきた多数の天使が、ヘイルムの住人たちに襲いかかる。それをヘイルム城から確認したネルは、秘書に地獄の番人たちを呼び寄せるよう指示した。


「ネル様はどうなさるのですか?」


「決まっておろう。妾の領域に無断で踏み込んできたあの天使どもの掃除だ」


 そう言ってネルは、ヘイルム城のテラスに出る。そこから街を見下ろし、手を挙げた。


「黒雷」


 ネルの体を這う黒い雷が、街で暴れる天使のみを正確に撃ち抜く。光の剣で防ごうとした天使たちも例外なく貫く『黒雷』。その音が鳴り止むと、視界の端に空を飛んでくるルーカスの姿が見えた。


***


「ひどいな」


 『炎翼』で、ドライアドを抱えながら空を飛ぶ俺は、ヘイルムの街に転がる死体や重傷者の多さに、ゼスへの憤りを覚えた。


「ですがヘイルムの街には天使の生体反応はありません。どうやら、ネル様が地上の天使を処理なさったようです」


「そうか……ならばまず、ネルに合流しようか」


 すぐに俺はヘイルム城のテラスに降り立ち、ネルと合流した。


「ネル、状況を教えてくれ」


「ルーカス! 待っておったぞ」


 抱えていたドライアドを下ろした途端、ネルが歩み寄ってくる。そして、撫でて欲しそうに紫髪の頭を差し出すネル。その頭を撫でると、嬉しそうに口角を上げてから、ネルは現況を話し始めた。


「地上に降りた天使は今し方妾が一掃した。其方には、イフリートとクーダマリーの二人が合流し次第、三人であの門を破壊して欲しいのだ」


「わかった。それでクーダマリーというのは……確か虚黒地獄の番人だったか?」


「そうか。其方はクーダマリーと面識がなかったな。奴は地獄一の剣の使い手にして、闇属性スキルを司る者だ。実力は妾が保証する」


 ネルがそう言った時、イフリートとクーダマリーがヘイルム城に到着した。


「ルーカス。おまえも来ていたか」


「久しいなイフリート。……それと初めまして、クーダマリーさん」


 ガチャガチャと黒の鎧を鳴らし、テラスに入ってきたクーダマリーは女性だった。鎧の隙間から流れる長い黒髪は艶やかだ。


「貴公がルーカス殿だな。話はネル様から聞いている。我が名はクーダマリー、よろしく頼む」


 そうして俺は、黒皮の手袋を取った手を差し出してきたクーダマリーと握手をした。


「イフリート、クーダマリー。其方らはルーカスとともにあの忌々しい門を破壊してくれ。地上は妾とドライアドで対処する」


「了解した」


「我にお任せください」


 イフリートは竜化し、クーダマリーは漆黒の剣を抜く。俺は『炎翼』を発動して羽ばたいた。


「行くぞ!」


***


「セアッ!」


 黒い霧を足に纏い、空を駆けるクーダマリー。彼女は漆黒の剣で、門を守る天使たちを薙ぎ払う。


「スキル付与『風刃』」


 スパァァァァン!


 風を纏った一振りで、天使たちを二十ほど切ると、俺は天使たちの中心に入る。


「イフリート!」


「うむ。『炎王の祝福』」


 『炎王の祝福』により、一時的に俺の火属性スキルの威力と範囲はともに三倍となる。


「大発火」


 俺を中心に溢れ出した青炎の濁流が、周囲の天使を飲み込む。


「アァァァアアァァ……」


 翼が焼け落ち、体も燃やされながら落ちていく天使たち。誰も守る者がいなくなった門へと、クーダマリーが近寄る。


(うつろ)斬り」


 概念を切り裂く『虚斬り』でクーダマリーが門を切ると、切れ目から門が歪み吸い込まれるように閉じてゆく。


「これで終わりだな。我らも地上の残党を狩りに戻……」


「まずい!」


 その時だった。急に門が大気を猛烈な勢いで吸い込み始める。急いで門から離れようとしたが、俺たち三人は時空の歪みに吸い込まれてしまった。


***


「ここは……寒っ!」


 俺が目を覚ますと、一寸先見えない吹雪の中だった。


「発火」


 発火で自ら体を温めて寒さを凌ぐ。


「イフリート、クーダマリーさん。いないのか!」


「我はここだ!」


 左後方からイフリートの声がして振り向くと、吹雪の中に灯りが見えた。おそらくイフリートも発火で寒さを凌いでいるのだろう。


「やはりイフリートも飛ばされていたか」


「うむ。クーダマリーの奴はおらんのか?」


 イフリートと合流しようと、一歩足を踏み出した時、


 ガシャン……。


 金属音が鳴ったため足元を見ると、クーダマリーがうつ伏せに倒れていた。よく見ると、鎧の関節部分が幾つか凍りついている。


「そうか。闇属性スキルには寒さを凌ぐ手段がないからな。鎧に……スキル付与『発火』」


 炎王の加護も青炎も切り、程よい温度の発火を鎧に付与すると、関節部の氷が溶け、クーダマリーが頭を振って起き上がった。


「すまないな。迷惑をかけた」


「いや、問題ないさ。誰にだって得手不得手はあるからな」


 そう言って俺は真っ白な周囲を見回す。


「それで、ここは極寒地獄……ということで合ってるか?」


「間違いないだろうな。……だがこの吹雪の中では、文字通り右も左も分からないぞ」


「そうだな……イフリートは雲の上まで飛ぶことはできないのか?」


「厳しいな。平時ならば可能だが、あの分厚い雲の中はおそらく風が入り乱れておる。我とてあの中は飛べん」


 ……それなら!


 イフリートの言葉に希望が見えた。


「イフリート。雲がなくなれば飛べるんだな?」

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