36.ヘイルムの危機
「キャアァァ!」
「誰か助け……ゴフッ……」
突如ヘイルム上空に現れた門から出てきた多数の天使が、ヘイルムの住人たちに襲いかかる。それをヘイルム城から確認したネルは、秘書に地獄の番人たちを呼び寄せるよう指示した。
「ネル様はどうなさるのですか?」
「決まっておろう。妾の領域に無断で踏み込んできたあの天使どもの掃除だ」
そう言ってネルは、ヘイルム城のテラスに出る。そこから街を見下ろし、手を挙げた。
「黒雷」
ネルの体を這う黒い雷が、街で暴れる天使のみを正確に撃ち抜く。光の剣で防ごうとした天使たちも例外なく貫く『黒雷』。その音が鳴り止むと、視界の端に空を飛んでくるルーカスの姿が見えた。
***
「ひどいな」
『炎翼』で、ドライアドを抱えながら空を飛ぶ俺は、ヘイルムの街に転がる死体や重傷者の多さに、ゼスへの憤りを覚えた。
「ですがヘイルムの街には天使の生体反応はありません。どうやら、ネル様が地上の天使を処理なさったようです」
「そうか……ならばまず、ネルに合流しようか」
すぐに俺はヘイルム城のテラスに降り立ち、ネルと合流した。
「ネル、状況を教えてくれ」
「ルーカス! 待っておったぞ」
抱えていたドライアドを下ろした途端、ネルが歩み寄ってくる。そして、撫でて欲しそうに紫髪の頭を差し出すネル。その頭を撫でると、嬉しそうに口角を上げてから、ネルは現況を話し始めた。
「地上に降りた天使は今し方妾が一掃した。其方には、イフリートとクーダマリーの二人が合流し次第、三人であの門を破壊して欲しいのだ」
「わかった。それでクーダマリーというのは……確か虚黒地獄の番人だったか?」
「そうか。其方はクーダマリーと面識がなかったな。奴は地獄一の剣の使い手にして、闇属性スキルを司る者だ。実力は妾が保証する」
ネルがそう言った時、イフリートとクーダマリーがヘイルム城に到着した。
「ルーカス。おまえも来ていたか」
「久しいなイフリート。……それと初めまして、クーダマリーさん」
ガチャガチャと黒の鎧を鳴らし、テラスに入ってきたクーダマリーは女性だった。鎧の隙間から流れる長い黒髪は艶やかだ。
「貴公がルーカス殿だな。話はネル様から聞いている。我が名はクーダマリー、よろしく頼む」
そうして俺は、黒皮の手袋を取った手を差し出してきたクーダマリーと握手をした。
「イフリート、クーダマリー。其方らはルーカスとともにあの忌々しい門を破壊してくれ。地上は妾とドライアドで対処する」
「了解した」
「我にお任せください」
イフリートは竜化し、クーダマリーは漆黒の剣を抜く。俺は『炎翼』を発動して羽ばたいた。
「行くぞ!」
***
「セアッ!」
黒い霧を足に纏い、空を駆けるクーダマリー。彼女は漆黒の剣で、門を守る天使たちを薙ぎ払う。
「スキル付与『風刃』」
スパァァァァン!
風を纏った一振りで、天使たちを二十ほど切ると、俺は天使たちの中心に入る。
「イフリート!」
「うむ。『炎王の祝福』」
『炎王の祝福』により、一時的に俺の火属性スキルの威力と範囲はともに三倍となる。
「大発火」
俺を中心に溢れ出した青炎の濁流が、周囲の天使を飲み込む。
「アァァァアアァァ……」
翼が焼け落ち、体も燃やされながら落ちていく天使たち。誰も守る者がいなくなった門へと、クーダマリーが近寄る。
「虚斬り」
概念を切り裂く『虚斬り』でクーダマリーが門を切ると、切れ目から門が歪み吸い込まれるように閉じてゆく。
「これで終わりだな。我らも地上の残党を狩りに戻……」
「まずい!」
その時だった。急に門が大気を猛烈な勢いで吸い込み始める。急いで門から離れようとしたが、俺たち三人は時空の歪みに吸い込まれてしまった。
***
「ここは……寒っ!」
俺が目を覚ますと、一寸先見えない吹雪の中だった。
「発火」
発火で自ら体を温めて寒さを凌ぐ。
「イフリート、クーダマリーさん。いないのか!」
「我はここだ!」
左後方からイフリートの声がして振り向くと、吹雪の中に灯りが見えた。おそらくイフリートも発火で寒さを凌いでいるのだろう。
「やはりイフリートも飛ばされていたか」
「うむ。クーダマリーの奴はおらんのか?」
イフリートと合流しようと、一歩足を踏み出した時、
ガシャン……。
金属音が鳴ったため足元を見ると、クーダマリーがうつ伏せに倒れていた。よく見ると、鎧の関節部分が幾つか凍りついている。
「そうか。闇属性スキルには寒さを凌ぐ手段がないからな。鎧に……スキル付与『発火』」
炎王の加護も青炎も切り、程よい温度の発火を鎧に付与すると、関節部の氷が溶け、クーダマリーが頭を振って起き上がった。
「すまないな。迷惑をかけた」
「いや、問題ないさ。誰にだって得手不得手はあるからな」
そう言って俺は真っ白な周囲を見回す。
「それで、ここは極寒地獄……ということで合ってるか?」
「間違いないだろうな。……だがこの吹雪の中では、文字通り右も左も分からないぞ」
「そうだな……イフリートは雲の上まで飛ぶことはできないのか?」
「厳しいな。平時ならば可能だが、あの分厚い雲の中はおそらく風が入り乱れておる。我とてあの中は飛べん」
……それなら!
イフリートの言葉に希望が見えた。
「イフリート。雲がなくなれば飛べるんだな?」
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