34.隷属契約
「氷槍」
俺はドライアドのいる場所まで戻ると、前線に残っていた魔獣を一掃する。
「ドライアド。森の奥にあった魔獣発生装置は破壊してきたぞ」
「ありがとうございますルーカス様。これでようやく、この森に平和が戻ります」
それにしても、誰が魔獣発生装置なんて置いたんだ? そもそも、緑縛地獄の奥地に置きに行ける者など存在するのだろうか?
***
「ルーカスルーカス久しぶりー」
「元気してたー? ぼくたちはゲンキゲンキ!」
巨木の頂上にある部屋で、俺とドライアド、そしてピクシーたちがお茶を飲んでいる。どうやら俺の歓迎会という名目らしい。
「ルーカス様。この度は本当にありがとうございます。わたくしたちだけでは森の奥に調査しに行く余力がなく……あのままではいずれ多くの犠牲を払うことになっていたでしょう……」
「構わないさ」
「ラクシュの件と言い、わたくしはルーカス様の恩にどのように報いれば良いでしょうか?」
「ぼくたちもルーカスにお礼がしたーい!」
「何がいいかな何がいいかなっ?」
神妙なドライアドの言葉を、無邪気なピクシーたちが囃し立てる。真っ直ぐに俺を見つめるドライアドの深緑の瞳が、真剣な気持ちを表していた。
とはいえ、スキルはもう貰ったし、特に今欲しいものはないんだよな……。
「悪いが、俺は特に欲しいものはないんだ」
「そう……ですか」
「えー!? なんかないのー?」
「ザンネンむねーん……」
「それに、ドライアドやピクシーたちからは前にスキルスクロールを貰っただろう? それで俺は十分だ」
なんとかドライアドたちを納得させようと言葉をかけていると、ドライアドは目を閉じて胸に手を当てた。
「いいえ、それでは貴方様の行いに報いているとは思えません……」
ドライアドは言葉を切って、ゆっくりとエメラルドのような目を開ける。
「ですから……わたくしの全てを、貴方に捧げます」
ドライアドは清楚可憐でありながら、スラリとした体つきは艶やかに映る。
は? この人何を言って……ああ、主従契約ってことか。一瞬変な勘違いをしたが、主従契約って言うのもまた問題があるんじゃないか?
「そ、それは主従契約を結ぶということか? ネルとの主従契約はどうするんだ?」
「ネル様との契約は破棄します。きっとネル様ならこの気持ちをわかってくださいますから」
頬を少し赤らめて微笑むドライアドは、艶やかな唇に人差し指を当てた。
「ルーカス様は一つ勘違いをしておられます。わたくしはルーカス様と主従契約を結ぶつもりはありません……わたくしが話しているのは隷属契約のことにございます」
「隷属……契約?! 本気なのか、ドライアド?」
隷属契約──大した強制力のない主従契約とは違い、主人のどんな非人道的な命令にも逆らうことができなくなる契約。
それを俺と? 冗談だよな?
すると、ドライアドは椅子から立ち上がり、俺の足元に跪いた。
「わたくしは本気でございます。ルーカス様がいなければ、わたくしたち精霊はみなとうに死んでおりました。その恩を返すには、わたくしの身一つでは到底釣り合わないとは……」
「もうこれ以上はいい……どうやら本気のようだしな」
よく考えてみると、たとえ隷属契約を結んでも一切命令しなければ問題ないよな。
「わかった。ドライアド、あなたがネルとの主従契約を解き次第、俺はあなたと隷属契約をしよう」
「ルーカス様のしもべとして、今後はより一層努力いたします」
***
俺とドライアドはネルと連絡を取り、あれこれ言われながらも俺とドライアドとの契約を認めて貰った。
「では、いくぞ」
「はい。わたくしの準備はいつでもできております」
俺は跪くドライアドの後ろに周り、その透き通った肌が露わになった背中を見る。そして、ドライアドの背に、魔力を流した指で隷属契約の魔法陣を刻んだ。
「……っ」
魔法陣を描き終えると、俺とドライアドの間に電撃が走る。ドライアドは少し痛かったようで、声を上げていた。
「終わったぞ」
「はい。これでわたくしは今から、ルーカス様の下僕です。お好きにお使いください」
「そうは言っても、基本的には今まで通り緑縛地獄の統治をしてもらうぞ」
「承知しております」
契約の儀式が終わり、ピクシーたちが待つ部屋へと戻ると、ピクシーたちは俺に泣きついてきた。
「ねえねえルーカス……ドライアド様はこの森を出てルーカスについて行っちゃうの?」
「ドライアド様はわたしたちの支えなのっ! お願いルーカス、ドライアド様を取らないで」
そんなピクシーたちに、ドライアドは優しく、それでいて真夏の青空よりも澄んだ声で話しかけた。
「貴方たち、大丈夫ですよ。わたくしはこの緑縛地獄の番人という任を放棄することはありません。これからも、ともにこの森を守っていきましょうね」
「そうなんだそうなんだ、よかったよかったぁ」
「もぉーだれだれ? 早とちりしたのはだれっ?」
「みんなみんな早とちりのおっちょこちょーい」
じゃれ合うピクシーたちを眺めながら、俺はドライアドの横に立つ。
「ここは、とても愛おしい場所だな」
俺がそう言うと、ドライアドは嬉しそうに、そして照れくさそうに微笑んだ。
「はい。この森も、ここに住む者たちも全て、わたくしの宝ですから」
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