28.黒の魔王
「イフリート」
「はい」
かつてルーカスと相打った黒の魔王から距離を取り、イフリートが竜の姿に変わる。
「へっ? なんすか、これ……うあっ!」
驚くレンをネルがイフリートの背に放り投げ、ネルもイフリートの背によじ登る。そしてイフリートは羽ばたき、上空に逃げた。
「イフリートよ。もっと高く飛ぶのだ。奴の間合いは想像を逸するぞ」
「ネル様は奴をご存知なのですか?」
イフリートは指示通り上昇し、困惑するレンを置き去りに話は進む。
「知っておる……あやつはかつて、ルーカスが打ち滅ぼした黒の魔王。それに奴は生きておらん。おそらく、あの女神の固有スキルで操られているのだろうな」
ヒュオォォォオォォォッ!
「イフリート!」
不意に、森が近い草原に立つ黒の魔王が飛ばした斬撃が迫る。イフリートは翼をいっそう強く羽ばたき急上昇。斬撃はイフリートの鼻先で途絶えた。
「我も打って出ます!」
そう言うや否や、イフリートは口に炎を溜め、首をのけ反らせる。次の瞬間、黒の魔王が立つ大地に炎が降り注ぐ。
「ぬるい……ぞ」
黒の魔王は掠れた声を発すると、剣を下段で構える。そして、
スパァァァァン……。
たった一振りで、イフリートのブレスを真っ二つに裂いた。
「一度、策を練った方が良さそうだな」
「そうですね。……あの清廉された剣技。まるで隙がない……我では奴と近接戦闘をするのは厳しいでしょう」
「だが、遠距離戦では決め手に欠ける。……妾が人間界で使えるスキルには一つ、必殺の攻撃スキルはあるのだが……相手に触れていなければ発動できないのだ」
考え込むネルとイフリートの横で、レンは所在なさげにキョロキョロと視線を泳がせていたが、突然震えた声で話し出す。
「ネル? だっけか。さっきあんた、あのおっかねぇ剣士のこと知ってそうなこと言ってたけどよ、だったらまずは情報共有した方がいいんじゃねぇか?」
ネルは不思議そうにレンを見る。
「ああ其方、まだおったのか。だが、其方の言うことには一理ある。……イフリートよ。かつてあの魔王とルーカスが戦った時の特徴を話すぞ。聞き流すなよ」
一呼吸おいて、ネルが魔王について話し出す。
「まず第一に、黒の魔王は間合いが極端に長い。だがこれはイフリート、其方なら攻撃をかわして近づけるだろう。飛んでくる斬撃をかわして、奴を間合いに捉えたら、次に奴との近接戦」
ネルは目を閉じて、何度も見返したルーカスと黒の魔王の戦いを思い出し、頭の中で再生する。
「奴の連撃には癖があるな。奴の連撃は三パターンの順番で行われておる。一つは、縦縦横斜めの順。もう一つは、クロスに切ってから十字に切る形。最後に、横横横クロス縦縦だ」
「なるほど。最初にどの方向に振るかで次の振りが予想できるというわけですね!」
「そうだ。だが奴の連撃は恐ろしく速い……わかっていても追いつけるかどうか……イフリート、其方は近接戦になったら守りに専念しろ。妾が隙をついてスキルを当てる」
ネルの提案に、一瞬イフリートが黙り込む。
「ネル様?! ダメですよそんなこと。ネル様を危険な目に遭わせるわけには……」
「何を言っておるのだイフリート。あやつを倒さねばどのみち妾たちは皆死ぬ。ならばやるしかあるまい」
むう……と考え込んだイフリートは、諦めて首を縦に振った。
「よし、ならば奴に突っ込むぞ!」
ネルの言葉に反応し、イフリートが急降下を始める。
「ヒイィイィィィ……」
レンが情けない声を上げる中、イフリートは度々飛んでくる斬撃を、横回転してかわす。そしてイフリートが地面に着地すると同時に飛び降りるネルとレン。
着地の隙を狩ろうとイフリートに向かって飛んでくる斬撃を、イフリートは人間の姿になることで回避した。
「発火」
発火で自身の体温を爆発的に跳ね上げる身体強化。人間では体が崩壊するような荒技で、イフリートは瞬足の飛び蹴りを放つ。
「あまりに……単純」
黒の魔王は瞼を閉じて、イフリートの足が鳩尾を捉える直前で半歩横にずれる。そして、イフリートの首目掛けて剣を振り下ろ……。
「さらに『発火』」
黒の魔王が振り下ろそうとした剣は、イフリートから巻き上がった煉獄で溶けおちた。だが、咄嗟に剣を離して退いた黒の魔王は無傷。
「剣を奪ったぞ。これで貴様は何もできまい」
自信満々に鼻を鳴らすイフリート。しかし、黒の魔王はそこまで甘くはなかった。
「剣よ、生まれ落ちよ」
「なっ……」
スキル……ではない。純粋に魔力を体外に放出、凝縮させ、剣の形を作ったのだ。
「やはり、そう簡単にはゆかぬな」
ネルは近くの森の木に隠れて様子を伺うと、レンに向き直る。
「其方、死にたくないのならここから動くなよ」
「えっ……ちょっ……」
ネルが向かう先は、イフリートの拳と黒の魔王の剣がぶつかる戦場。レンはしばらくその場を動かずにいたが、迷うようにネルと戦場を交互に見ると、頬を叩いた。
「お、おれだって……やってやる!」
そう言って、レンはナイフ片手に戦場へと走り出した。
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