27.二人の魔王
「なによ。また威勢のいいこと言ったくせに来ないの……ならあたしの方からいくわよ!」
ボコッ……。
不意に、立っていた地面が隆起した。
やばそうだな。
俺が炎の翼で真上に飛んだ次の瞬間、地面からゴーレムが生まれ落ちた。ゴーレムは人間の五倍近い身長を持ち、異様に長い腕を鞭のように振るってきた。
「でも所詮はただの岩人形でしかないだろう?」
迫る岩の腕を断ち切ると、俺は見るからに鈍重そうなゴーレムに向けて風刃を放つ。
「はっ?」
だがその刃は地面を抉るだけだった。そして空を飛ぶ俺の背後に岩の巨体が現れ、ハンマーのような形状に変形した腕を振り下ろす。眼前に迫る巨大な岩ハンマー。だがそれでも、俺は思考を中断しなかった。
ハンマーをかわすことは余裕だが、何か回避よりもいい手がある気がする……そうだ!
「蔦操作」
俺は蔦でゴーレムの両足を引き、ゴーレムの体制を崩す。そうして、ハンマーほぼ地面と垂直な位置で振りが止まるようにした後、俺は自らハンマーの断面に足を乗せた。
ヒュオォォオォッ!
ハンマーが振られた瞬間、俺は音をも置き去りにする速さでヘスラが隠れる岩壁に突進。壁にぶつかる直前に剣を真横に振り抜き岩壁に穴を開けた。
「なっ……あなた正気?!」
急いで光の盾を張るヘスラだが、それでも俺のスピードが一歩勝る。
スパッ……。
俺の剣が、土属性スキルを操る黄の魔王の杖と首を切り裂く。すると岩壁とゴーレムは崩れ落ち、黄の魔王の体は灰と化した。
「光槍」
「炎嵐」
すぐそばのヘスラからは光の槍が飛来し、地面からは炎の竜巻が発生する。俺はすぐさま炎翼を羽ばたき距離を取った。
「よくもあたしのおもちゃを壊してくれたわねぇ……」
「魔王を倒したんだぞ。むしろ女神にとっては有難いことなんじゃないのか?」
「戯言を……」
スパァァァァン!
次の瞬間、ヘスラが高速移動で距離を詰め、光の剣で渾身の突きを放った。俺はそれを剣で受け流す。
「ヘスラ。おまえが前衛をやるのか……俺は臆病で自分が可愛くてたまらない女神さまは、後衛で震えるものとおもっていたんだがな」
「どこまでも馬鹿にして……ほんとあなたって傲慢ね。その傲慢さが身を滅ぼすとわからないの?」
カカカンッ……カアァァァン。
俺とヘスラが何度か打ち合い、鍔迫り合いを始めたその瞬間、
「竜炎」
竜のブレスが如く、赤の魔王の杖から発生し続ける煉獄の炎が、一直線に収束して俺に襲いかかってきた。
「炎壁」
咄嗟に張った青炎の壁も、竜のブレスの前には歯が立たない。すぐに突破されて、俺の元に炎が迫る。同時に、ヘスラの剣から伝わる力も増した。
「さあ、終わりよ!」
ヘスラは勝ち誇った顔で剣を強く押し込んでくる。それに合わせて、俺はよりいっそう剣に力を込め、ヘスラの光剣を押し返す。
「いいや、俺を倒すには全然足りないぞ。『金属錬成』」
俺が呼び出したのは、熱耐性が非常に高いミスリル製の壁。それは竜炎を容易に打ち消した。
カキンッ!
俺は剣を弾いてヘスラから距離を取ると、ヘスラに突進しつつ詠唱する。
「『氷槍』、スキル付与『金属錬成』」
ミスリルでコーティングされた無数の氷柱を、赤の魔王に照準を合わせて発射。赤の魔王は炎の壁を立ち上げるが、氷柱は何事もないように炎の壁を通過し、赤の魔王を滅多刺しにした。
「なによあなた……魔王二人をこんなあっさりと……いいわ、あなたはこのあたしが本気で相手してあげる」
赤の魔王が灰になったことを確認し、俺はヘスラに剣先を合わせた。
「あとはおまえだけだ」
ドンッ!
同時に地面を蹴った俺とヘスラ。二人の剣が交錯した瞬間、ヘスラの口元が歪んだ。
「そういえば、あなたの連れのところにも一人魔王を送ったわ。今頃はもう、あなたの連れは死んでいるかもねぇ」
***
「なんだ貴様は。我らに楯突くつもりなら容赦はせぬぞ」
時は少し遡り、ネルたちの前から避難した人々が消えた少し後。イフリートが睨んでいるのは、右手に錆びた剣をぶら下げた黒髪の男だった。
「聞いているのか? 用がないのならさっさと去れ……」
男はイフリートの話に耳を貸さず、突然イフリートに切り掛かった。
ヒュン……スカッ、スカッ。
「そのような遅い攻撃が、我に当たるとでも思ったか! 我らに楯突くと言うのなら、貴様が誰であろうと容赦は……ぐぁっ!」
急に男の剣が伸びた。そう思えるような独特な足運びでイフリートの横腹を錆びた剣が貫く。イフリートが膝で剣を折ろうとすると、男は剣を引き抜き下がる。
「大丈夫かイフリート」
「はい。この程度の怪我、問題ありません」
「いや問題大アリじゃないっすか。剣がイフリートさんの体貫通したんすよ!」
レンの言葉を無言でスルーしたネルとイフリート。だがその時、ネルは男が誰だったかを思い出し、顔を青くした。
「まさかあやつは……かつてルーカスと相打った黒の魔王……なのか?」
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