25.女神ヘスラの固有スキル
「天雷」
ドゴドゴオォォン!
一息に発動された無数の雷が地面を砕く。隙間のないヘスラの攻撃を見て、俺は体の力を抜いた。
「乱風」
足に風を纏い、雷の雨へと飛び込む。すると、『乱風』の効果で無意識的に雷をかわしてヘスラに迫る。
「光盾」
「氷槍」
ガキイィィィン!
光の盾に防がれ砕ける氷柱。そこにヘスラの視線を誘導した俺は、ヘスラの死角から飛びかかる。
完全に意識外からの攻撃……いけるっ!
「まさか、この程度であたしを倒せるとでも思った? 愚かねぇ……」
振り下ろした剣は、ヘスラの光剣に受け止められた。余裕の表情を浮かべるヘスラは、俺の剣を流すと、光剣で連撃を繰り出す。その異様な速度と鋭さに押され、俺は一度大きく下がった。
やはり強いが、それでも勝てないほどじゃない……。
「勇者風情が、このあたしに楯突いて許されるとでも思っているの?」
静かな、されど激情がこもった美声で俺を嘲笑う女神ヘスラに、俺も負けじと嘲笑を返す。
「この戦いに負けるおまえに、許される必要があるのか?」
確かに負ける気はしないが、勝ち筋も見えない……。あの予想より遥かに硬い光属性の盾をどうにかしなければ、決定的な攻撃はできない。
互いに攻めあぐねていると、不意に空から声が降ってきた。
「ルーカス。人間どもは皆町から避難したぞ! 存分に戦うのだ」
ネルの声だ。ネルはイフリートの背に乗り、遥か上空から避難完了の知らせを届けてくれた。
「なあ女神、せっかくだ。広く使おう」
そう言うと同時に、俺は『突風』を発動し、路地裏に走った。
「超音波」
これで常にヘスラの位置を把握しながら逃げて時間を稼げる。その間に、あの盾の攻略法を考える。
「はぁっ? あれだけ威勢のいいことを言っておいて逃げるの? 結局あなたも、威勢がいいだけのザコね!」
噴水前に残されたヘスラは「天翼」で空高く飛び上がり、街を見下ろす。そして、どこからか現れた雷雲を掴んで唱える。
「『天雷』『連弾』」
自然の力を使った『天雷』の威力は、先程とは比べ物にならず、一撃で五、六軒の家々を破壊する。そしてそれが、町全体に降り注ぐ。
「乱風」
複雑な高速機動を可能にする『乱風』、それを持ってしても、雷の攻撃範囲と数の多さが回避を許さない。一瞬にして地上に届く雷が俺を捉えるその刹那、
「金属錬成」
俺は人間大の銅の柱を空に生み出した。すると当然、雷は銅柱に吸い寄せられ、轟音とともに消え去った。
今のは少し危なかったな……マゾエスから『金属錬成』を貰っていなければ防げなかった。
俺は銅柱の横で立ち止まり、空高くに陣取るヘスラを見上げた。その時、ある考えが浮かんできた。
そうだ、確か金属の中には光を吸収するものもある。アイルドンという希少な金属は光を吸収したはず。金属錬成でスキルの表面に薄いアイルドンの膜を張れば、光の盾は消失するのではないか? ……試してみる価値はあるな。
瓦礫の山と化した町に立つ俺は、再び『炎翼』を発動し、羽ばたいた。そして、加速しながら一直線にヘスラの元へと向かう。
「バカね! このあたしに対して一直線にくるなんて……そんなに雷に打たれたいのなら、そうしてあげる」
ヘスラが腕を振り下ろすと、またしても大量の雷が──今度は俺に向かって降り注ぐ。
「金属錬成」
それを出現させた銅の柱に吸わせ、俺はさらに上昇した。
「チッ……小賢しい真似を……」
構わず雷を撃ち続ける女神。俺は彼女とまだ距離がある空中で止まった。
「なにをして……」
「スキル付与『風刃』『金属錬成』」
略奪剣に二つのスキルを纏わせ、振り抜く。
ブオォォッ!
重い風切り音をあげて空を飛ぶ刃は、鉛色の光沢を放ちヘスラに迫る。
「こんなもの……『光盾』」
そんな技は見る価値もないとでもいうように、見下した目で光の盾を展開するヘスラ。だがその顔は、次の瞬間歪むこととなる。
シュンッ……スパッ……。
刃が光の盾に触れた瞬間光の盾は消滅し、刃は正確にヘスラの頬を掠めた。
成功だ! 思った通りアイルドンを纏った攻撃ならば光の盾を無効化できる。
勝ち誇った笑みをヘスラに向けた俺は、ヘスラの頬から血が流れていることに気づいた。
「よくも……人間風情がこのあたしの顔に傷をつけたわね!」
大気が悲鳴をあげる。もう取り繕うことはなく、ただ激情のままに顔を歪めたヘスラは、復讐しか考えられていなかった時の俺と同じ目をして傷を治す。そして、
「待ってなさい。すぐ戻ってきてあげるから」
そう言った次の瞬間、視界からヘスラが消えた。それから一瞬後に、地上にヘスラの陰が見える。だが地上にいたのは女神一人ではなく、避難したはずの人々も引き連れていた。
「あたしの固有スキルはね、生物の傀儡化なの。勇者のあなたは無垢の民を攻撃できないでしょう?」
地上に降りた俺に、嘲るような笑みを浮かべるヘスラ。彼女のいう通り人々は皆操られているようで、白目を剥き、低い唸り声を上げていた。
これがヘスラの固有スキル……厄介極まりないな。確かに俺は民間人を手にかけることはできない。
ゆっくりと迫ってくる人々を見て、俺は大きくため息を吐いた。
あれを使うしかないのか。できれば使いたくなかったんだがな……。
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