24.理不尽な女神
ようやくだ。ようやく会えたぞ女神ヘスラ!
俺は今すぐにでもヘスラに斬りかかりたい衝動を抑え、路地裏からヘスラとその周囲の様子を伺う。
「ああ女神さま」
噴水の前に集まる人々は皆、手を合わせて女神に祈りを捧げる。そんな中、輝く金色の髪を靡かせてお淑やかに門から出てきたヘスラは、人々を見下ろした。
「今年も出迎えご苦労様。女神ヘスラの名において、皆の未来に幸あらんことを願う」
ヘスラが振るった手から、噴水の周囲に光の粒が降り注ぐ。そうして気品ある仕草で祝福を終えると、ヘスラの視線が屋台の並ぶ大通りへと移った。その瞬間、ヘスラは形相を変えた。
「それで、この屋台の少なさはなに? 女神祭だと言うのに人も少なくて賑わいも足りない……女神であるこのあたしを愚弄しているの?」
「滅相もございません。……しかし今回はキラードなる者がこのカラクの町で何十もの殺人を犯しておりまして、その恐怖からか、町の外からの出展や来賓が減ってしまったのです。どうか我らにご慈悲を……」
女神に対して、怯むことなく現状を説明した初老の男を女神は見やる。
「ふぅん……そうだったのね」
「許してくださるのですか? 寛大なお心、痛み入りま……」
「天雷」
ドゴオォォン!
女神によって落とされた雷が、初老の男を直撃する。そして女神は、その黒焦げになった体を踏みつけた。
「それで? だからなに? このあたしを祝福する以上に大事なものなんてないでしょうが。たとえ命だろうとなんだろうと、あたしに捧げて見せなさいよ、この木偶!」
怒りを吐き散らし、黒焦げの死体を何度も何度も何度も踏みつけるヘスラ。噴水の前に集まった人々は皆、彼女に恐怖の眼差しを向けた。だが、女神という絶対的存在に、誰一人その場を動くことは出来なかった。
「そうそう、あなたたち全員同罪だからね。全員地獄に落ちなさい!」
「罪だと? あの女、頭がおかしいのではないか?」
「そのようだ。自らキラードという殺人鬼をのさばらせておいて、それで祭りが小規模になったことは人間の罪? 狂っておるな」
あくまでも作戦通り、女神が天界へ戻るのを冷静に待つ二人。一方、噴水の上でスキルを行使しようと手を振り上げるヘスラに、俺は我慢の限界を迎えた。
「おい待てルーカス! 早まるな!」
路地裏から飛び出す俺に伸ばされたネルの手は、俺の背を掠めるだけで掴むことはなかった。そのまま路地裏から一直線にヘスラに突っ込むつもりで、俺は地面を蹴り砕く。
ボッ……ヒュオォッ!
怒りに身を任せた俺は、気付けば無詠唱で『炎翼』と『突風』を発動させていた。そして俺はそのまま、群衆の上を疾走し、ヘスラに見つかった。
「人や屋台が少ないのは、キラードに加護を与えたおまえのせいだろうが!」
剣を抜刀と同時にヘスラの首に叩き込む……が、キラードが使っていたものとは格のちがう『光盾』で防がれた。
「このあたしに剣を向けた? 誰だか知らないけど、楽に死ねると……」
俺の顔を正面から睨みつけたヘスラは、驚きを隠せずに声を上げた。
「勇者……なぜあなたが人間界にいるのよ! 地獄に落ちたはずでしょう?」
そんなヘスラを見て、俺は殺意のこもった眼光をヘスラに向け、ヘスラを指差した。
「なぜ俺が人間界にいるか? おまえたちに復讐するために、地獄から這い上がって来たからに決まっているだろう!」
光の盾に防がれた剣を引き、再びヘスラに斬りかかろうとしたその時、亡霊を見たように青ざめた顔のヘスラが、平静を取り戻した。
「光爆」
光が、ヘスラの手のひらに収束していく……。
「くそっ……、『岩石生成』『連弾』」
咄嗟に炎翼で羽ばたき距離を取る。そしてヘスラの周囲に、何十もの岩でできた壁を生成した。次の瞬間、
ズドオォォォオォォン!
大地を震わす衝撃が走り、人体の何倍も分厚い岩壁は跡形も無く消し飛んだ。
「死にたくない者は我らの誘導に従って避難しろ!」
イフリートの声が響くと、金縛りが解けたように一斉に人々がイフリートのもとに駆け寄っていった。そうして集まった人々をまた、ネルとレンで別の場所へと誘導していた。
よし、避難は問題ないな……もう、周囲を気にせず全力でやり合える。
「俺はずっとこの時を待っていた……俺の全てを奪ったおまえに復讐できるこの時を!」
ヘスラは土埃がついた純白のキトンを見て、より一層怒りを滲ませる。
「人間ごときが、あたしより信仰を集めてあたしに埃を付けるなんて……いいわ元勇者、あなただけはあたし自ら魂を砕いてあげる」
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