16.緑縛地獄の新たな番人
「ラクシュよ。此度の件、何か申し開きはあるか?」
「こ、此度の件って……なんのこと?」
俺に踏まれて地面に這いつくばったまま、あくまでしらを切るラクシュ。
「ギャッ……!」
彼の腹を、ネルの細い足がグリグリと踏みつけた。
「闇森を無断で拡大し、ピクシーやドライアドから棲家を奪ったことだが……どうやら此度の背信行為に関して申し開きはなさそうだな」
「違っ……違うよネル様! これは背信行為じゃない。あれはあいつらがボクの言うことを聞かなかったから……。自分たちの立場をわからせてやろうと思っただけだよ。ボクはネル様を裏切ってなんか……」
「……もうよい」
静かに放たれたネルの言葉に、巨木が、ラクシュの本能が悲鳴を上げる。そしてアメジストの瞳に怒りを込めてラクシュを見下した。
「ラクシュ、番人会議の決定により貴様を緑縛地獄の番人から解任し、灼熱貫剣の刑に処す!」
灼熱貫剣の刑──溶岩よりも高温にした特別製の剣で体を貫き、永遠に体の内側から焼かれ続ける刑だ。
「はあっ? ……このボクが……罰を受ける? 番人から降ろされる? なんで……?」
「それは己の胸に聞いてみよ。……それがわからぬのなら、貴様には初めから番人を務める資格はなかったということだ。……イフリート、ラクシュを連れて行け」
「はっ!」
「まってまって待ってよ……ボクはボクはボクは! ボクは……」
俺は喚き立てるラクシュを摘み上げてイフリートに渡す。
「ルーカスよ。今回の勝負も見事な勝利だった! 我はラクシュを焦熱地獄に運ばねばならんからな。ネル様を頼んだぞ」
「ああ、任された」
***
「さて、ルーカスよ。ピクシーの隠れ里に妾を案内してくれぬか?」
イフリートを見送ると、ネルは真っ直ぐに俺の目を見た。
「ピクシーの隠れ里、ですか? いったい何をするつもりですか?」
おそらく思い過ごしだろうが、少しでもピクシーたちに危険が及ぶのは避けたい。俺は警戒心を強め、鞘に収めてある剣のつかを握る。するとネルは急に手を払って笑い出した。
「ふっ……。そう警戒するでない。ピクシーの隠れ里に行くのはな、次の緑縛地獄の番人がドライアドに決まったからだ」
「なるほどそう言うことか。……それなら道案内は任せてくれ」
「うむ。頼むぞ」
そう言うとネルは、背中から黒い翼を出した──鳥の羽に似た翼を。
「炎翼」
俺も青炎の翼を出すと、ネルに手を差し出す。
「では行きましょう」
差し出した手を握り返す温かい感触を感じると、俺はネルと一緒に巨木から飛び降りた。
***
「ああっ! ルーカスが戻ってきた!」
「ほんとだほんとだ。ネル様も一緒だよー」
俺たちが里の入り口に着いた途端、ピクシーたちが騒ぎ出す。それを制するように、自らの紫髪を耳にかけるネル。
「すまんがお主ら、ドライアドの元への案内を頼む」
するとピクシーたちは一瞬キョトンとした表情を浮かべてから、
「こっちだよー」
と手招きしてくれた。……が、そのすぐ後ろに、眩いほどの美貌を持つ精霊──ドライアドが歩いてきた。
「ネル様、お久しぶりでございます。ルーカス様もラクシュに勝たれたようで何よりでございます」
ドライアドの澄み切った声の後、ネルが何気なく一歩下がる。俺が先に会話ができるよう促してくれたのだ。
「みんな! 俺は約束通り、ラクシュを倒して戻ったぞ。そしてラクシュはネル様の計らいで重刑を課された。……これからはこの森で、安心して自由に生きてくれ」
「ありがとうルーカス!」
「ルーカスサイコー! ルーカスサイコー!」
喜びはしゃぐピクシーたちを見ていると、なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
「ルーカス様、それにネル様も……この度はわたくしたち森の精霊を救っていただき、感謝のしようもございません」
恭しく頭を下げるドライアドを制して、ネルが口を開く。
「気にするでない。今回の事態を招いたのは、早急に気付けなかった妾にも責任がある」
一度言葉を切り、ネルはコホン、と可愛らしい咳払いをした。
「ドライアド。妾の名において、今より其方をここ緑縛地獄の番人に任命する!」
ドライアドは急な話にも動揺せず、一歩前に出で膝をつく。
「我が身に余る光栄でございます」
***
「ではまたなルーカス」
「はい。ネル様もお元気で」
あの後、俺はラクシュから奪ったスキルをスキルスクロールにしてドライアドに渡した。そうしてから二人で地獄の空を飛んで、ヘイルムの町に戻ったのだ。
さすがに今回の件は疲れた……ネル様から次の番人について知らせが来るまではゆっくり休もう。この三日間、タコしか食べてないし、何か美味しい料理が食べたいな。
***
「ルーカス! よく戻ってきたね」
以前と同じ宿屋に行くと、当然のように食堂のカウンター席に通された。
「緑縛地獄の番人が変わったってみんな噂してたぜ。これ、兄ちゃんがやったんだろ?」
「はい。そうですよ」
ラクシュが行ってきた悪行を語ると、ハリスが俺の背中をバンバンッと叩いた。
「さすがだぜ兄ちゃん! あんた強いだけじゃなく優しいんだなぁ。惚れちまいそうだぜぇ」
「ハリス、あんたもう酔っ払っちまったのかい……まったく、しょうがないやつだねぇ」
俺は冗談半分で、呆れている女将さんにのることにした。俺は両手を広げ、やれやれと手を振る。
「ハリスは少しお酒を控えたらどうだ?」
「おい兄ちゃん、寝言は寝て言えよぉ!」
「ダメだね、こりゃ……」
結局、俺たちは日が変わる頃を過ぎても、食堂で笑い合っていた。
***
俺がヘイルムに戻ってから五日後。俺はまた、ネルに呼び出されて謁見の間にいた。
「ネル様。俺を呼んだと言うことは、次の番人と戦えるのですね?」
「そのことだがな……」
言い淀むネル。その間が、俺の脳裏でラクシュの時と重なる。
……嫌な予感がする。また面倒なやつなのか?
不意に、ネルが玉座から降りて俺の前に立った。そして俺の胸ぐらを掴み、互いの息を感じられるほど近づける。そうしてネルは、少し紅潮した顔で俺に囁いた。
「……ルーカス。其方、一度人間界に戻ってみるつもりはないか?」
「面白かった!」
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