15.緑縛地獄の番人ラクシュ
「なんでもうここにいるんだよ! 不正だ不正だそうに違いないっ!」
ラクシュはそう言って木に触れ、巨木の中に異変がないか確かめた。そしてすぐ、彼の顔が青ざめた。
「なんで……」
「わかったか? 俺はおまえが言った通り迷路を壊さず攻略してきたぞ」
俺はゴミでも見るようにラクシュを見る。ラクシュは緑色の頭をぼりぼりとかきながら怒鳴った。
「おまえ何をしたっ! こんな短時間でこの迷路を越えるなんて絶対に無理だ! 何か不正をしたな?」
「不正などしていない。俺はただ『超音波』のスキルで迷路の全容を把握し、最短経路を通ってきただけだ。……おまえは迷路を壊すなとだけ言って、スキルの使用は禁止しなかったからな」
「そんなの屁理屈だろぉ〜。無効だ無効! こんな勝ち方、ボクは認めない……ひっ……」
俺がラクシュに向けた殺意に、ラクシュの小さな肩が跳ねる。
「そもそも、おまえは俺にクリア不可能なゲームを押し付けた。その時点で既にこのゲームは無効だ」
それに、と言いながら俺は略奪剣を鞘から引き抜く。
「緑縛地獄の私有化。イフリートやネル様に報告させてもらうぞ。おまえが虐げてきたドライアドやピクシーたちと約束したんだ。おまえを必ず断罪し、彼らに対して謝罪させると」
「うるさいうるさい! ここはボクの統治する緑縛地獄だ。何をしようとボクの勝手でしょうが!」
ラクシュの叫びに応えるように、全方位の壁や天井、床から鋭い蔦が生えてくる。
「おまえが俺に勝てるとでも?」
「ここはボクの領域だ! ボクが有利だろ。実力差なんてひっくり返るさっ」
ラクシュが手を振り下ろすと、蔦が俺に突進してきた。
「……遅すぎる」
スパァァァン!
俺はその場から一歩も動かずに、略奪剣で全ての蔦を切り裂くと、真紅の瞳に殺気を込めてラクシュを睨む。
「いいだろう。特別に火属性スキルは使わないでやる」
「くそっ……舐めやがって。『突風』、『鎌鼬』『連弾』」
ブオンッ!
ラクシュから俺に向けて、凄まじい風が吹き付ける。俺はそれを床に剣を突き立てて耐える。──横ではソファやベットが宙を舞っていた。さらにそこから、変則的な動きで迫り来る風の斬撃……。
「『氷刀』、スキル付与『風刃』」
俺は略奪剣から左手を離し、左手に出した氷の刀に『風刃』を乗せて振り下ろす。こうすることで、風の刃にも『斬撃強化(特大)』効果が適用されるのだ。
キイィィイィィン!
俺の放った一太刀の『風刃』と、ラクシュが放った五つの『鎌鼬』が衝突し、金属同士をぶつけるよりも甲高い音が響く。そして、両者の放った風の斬撃は相殺された。
「氷槍」
俺の足元から冷気が床を伝う。ラクシュが気づいた頃には、彼の足元から氷柱が生えた。氷柱を回避しようと咄嗟に上昇したラクシュ。それを狙って氷柱を射出する。
「ギャアァァ!」
「致命傷は回避したか……」
発射された氷柱のほとんどが天井に突き刺さる。だが、氷柱はしっかりとラクシュの腕と横腹を貫いた。
「おまえぇぇえぇぇぇ!」
「風、止んだな」
ドンッ!
床が割れるほど地面を強く蹴り、ラクシュを剣の間合いに入れる。
「言っておくが、おまえを痛めつける権利があるのは精霊たちだ。今ここでおまえを殺して楽にしてやるつもりはない!」
「鎌いた……」
ゴッ、グシャ……。
ラクシュの詠唱よりも速く、俺はラクシュの顎を氷刀の峰打ちで砕く。
「アアァァァ……」
顎を押さえて地面をのたうち回るラクシュの胴を踏みつけ、首元に剣先を近づける
「おまえはもう番人としては終わりだ。……そういえばここは地獄だったな……大罪を犯したおまえに、ネル様はどんな罰を与えるのだろうな」
口元を歪ませる俺の姿が、ラクシュの濁った緑色の瞳に映り込む。
「緑縛地獄の番人──そんな高い地位をもったおまえが大罪を犯したんだ。きっと何度も死にたいと泣き叫び、それでも死ねずに苦しみ続ける……そのくらいの罰は受けるだろうな」
「ウ、アァァアァ……」
顎が砕けたせいで声にならない声を上げて、ラクシュは涙を零し始める。
「精神的屈服を確認。対象より、スキルの略奪が可能」
略奪剣から思念が流れ込んできた。
「おまえの心、折れたらしいな?」
略奪剣の刃で、頸動脈を切らないようにしてラクシュの首の皮を切る。
「中位スキル『突風』を略奪」
「上位スキル『鎌鼬』を略奪」
「スキル『風王の加護』を略奪」
「スキル…………」
風属性のスキルを大量に略奪する中、最後に手に入ったスキルに驚く。
「スキル『魔力上限上昇(特大)』を略奪」
クズのくせしていいスキル持ってるな……体の底から力が湧き上がる感覚、『魔力上限上昇(大)』獲得した時と似ている。……だが、あの時とはまるで規模が違うな。
俺が魔力上限の大幅な上昇を体感し終えた時、
バサァァァ!
近くから翼を羽ばたく音が聞こえた。その音の方に目をやると、イフリートがネルを乗せて飛んでいる姿が目に入った。
「ルーカスよ。よくぞラクシュの試練を乗り越えたな。このようなデタラメな試練、達成できる人間なぞ、過去未来を探してもおまえしかおらぬだろう」
巨木に降り立ったネルはそう言って誇らしげに笑う。そして、地獄の王に相応しい冷酷な目で、地面に這いつくばったラクシュを見下ろした。
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