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【完結】かつて世界を救った勇者は地獄に追放された〜俺は俺を世界から追放した神々への復讐を決意する〜  作者: 早野冬哉
第一章

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15.緑縛地獄の番人ラクシュ

「なんでもうここにいるんだよ! 不正だ不正だそうに違いないっ!」


 ラクシュはそう言って木に触れ、巨木の中に異変がないか確かめた。そしてすぐ、彼の顔が青ざめた。


「なんで……」


「わかったか? 俺はおまえが言った通り迷路を壊さず攻略してきたぞ」


 俺はゴミでも見るようにラクシュを見る。ラクシュは緑色の頭をぼりぼりとかきながら怒鳴った。


「おまえ何をしたっ! こんな短時間でこの迷路を越えるなんて絶対に無理だ! 何か不正をしたな?」


「不正などしていない。俺はただ『超音波』のスキルで迷路の全容を把握し、最短経路を通ってきただけだ。……おまえは迷路を壊すなとだけ言って、スキルの使用は禁止しなかったからな」


「そんなの屁理屈だろぉ〜。無効だ無効! こんな勝ち方、ボクは認めない……ひっ……」


 俺がラクシュに向けた殺意に、ラクシュの小さな肩が跳ねる。


「そもそも、おまえは俺にクリア不可能なゲームを押し付けた。その時点で既にこのゲームは無効だ」


 それに、と言いながら俺は略奪剣を鞘から引き抜く。


「緑縛地獄の私有化。イフリートやネル様に報告させてもらうぞ。おまえが虐げてきたドライアドやピクシーたちと約束したんだ。おまえを必ず断罪し、彼らに対して謝罪させると」


「うるさいうるさい! ここはボクの統治する緑縛地獄だ。何をしようとボクの勝手でしょうが!」


 ラクシュの叫びに応えるように、全方位の壁や天井、床から鋭い蔦が生えてくる。


「おまえが俺に勝てるとでも?」


「ここはボクの領域だ! ボクが有利だろ。実力差なんてひっくり返るさっ」


 ラクシュが手を振り下ろすと、蔦が俺に突進してきた。


「……遅すぎる」


 スパァァァン!


 俺はその場から一歩も動かずに、略奪剣で全ての蔦を切り裂くと、真紅の瞳に殺気を込めてラクシュを睨む。


「いいだろう。特別に火属性スキルは使わないでやる」


「くそっ……舐めやがって。『突風』、『鎌鼬(かまいたち)』『連弾』」


 ブオンッ!


 ラクシュから俺に向けて、凄まじい風が吹き付ける。俺はそれを床に剣を突き立てて耐える。──横ではソファやベットが宙を舞っていた。さらにそこから、変則的な動きで迫り来る風の斬撃……。


「『氷刀』、スキル付与『風刃』」


 俺は略奪剣から左手を離し、左手に出した氷の刀に『風刃』を乗せて振り下ろす。こうすることで、風の刃にも『斬撃強化(特大)』効果が適用されるのだ。


 キイィィイィィン!


 俺の放った一太刀の『風刃』と、ラクシュが放った五つの『鎌鼬』が衝突し、金属同士をぶつけるよりも甲高い音が響く。そして、両者の放った風の斬撃は相殺された。


「氷槍」


 俺の足元から冷気が床を伝う。ラクシュが気づいた頃には、彼の足元から氷柱が生えた。氷柱を回避しようと咄嗟に上昇したラクシュ。それを狙って氷柱を射出する。


「ギャアァァ!」


「致命傷は回避したか……」


 発射された氷柱のほとんどが天井に突き刺さる。だが、氷柱はしっかりとラクシュの腕と横腹を貫いた。


「おまえぇぇえぇぇぇ!」


「風、止んだな」


 ドンッ!


 床が割れるほど地面を強く蹴り、ラクシュを剣の間合いに入れる。


「言っておくが、おまえを痛めつける権利があるのは精霊たちだ。今ここでおまえを殺して楽にしてやるつもりはない!」


「鎌いた……」


 ゴッ、グシャ……。


 ラクシュの詠唱よりも速く、俺はラクシュの顎を氷刀の峰打ちで砕く。


「アアァァァ……」


 顎を押さえて地面をのたうち回るラクシュの胴を踏みつけ、首元に剣先を近づける


「おまえはもう番人としては終わりだ。……そういえばここは地獄だったな……大罪を犯したおまえに、ネル様はどんな罰を与えるのだろうな」


 口元を歪ませる俺の姿が、ラクシュの濁った緑色の瞳に映り込む。


「緑縛地獄の番人──そんな高い地位をもったおまえが大罪を犯したんだ。きっと何度も死にたいと泣き叫び、それでも死ねずに苦しみ続ける……そのくらいの罰は受けるだろうな」


「ウ、アァァアァ……」


 顎が砕けたせいで声にならない声を上げて、ラクシュは涙を零し始める。


「精神的屈服を確認。対象より、スキルの略奪が可能」


 略奪剣から思念が流れ込んできた。


「おまえの心、折れたらしいな?」


 略奪剣の刃で、頸動脈を切らないようにしてラクシュの首の皮を切る。


「中位スキル『突風』を略奪」

「上位スキル『鎌鼬』を略奪」

「スキル『風王の加護』を略奪」

「スキル…………」


 風属性のスキルを大量に略奪する中、最後に手に入ったスキルに驚く。


「スキル『魔力上限上昇(特大)』を略奪」


 クズのくせしていいスキル持ってるな……体の底から力が湧き上がる感覚、『魔力上限上昇(大)』獲得した時と似ている。……だが、あの時とはまるで規模が違うな。


 俺が魔力上限の大幅な上昇を体感し終えた時、


 バサァァァ!


 近くから翼を羽ばたく音が聞こえた。その音の方に目をやると、イフリートがネルを乗せて飛んでいる姿が目に入った。


「ルーカスよ。よくぞラクシュの試練を乗り越えたな。このようなデタラメな試練、達成できる人間なぞ、過去未来を探してもおまえしかおらぬだろう」


 巨木に降り立ったネルはそう言って誇らしげに笑う。そして、地獄の王に相応しい冷酷な目で、地面に這いつくばったラクシュを見下ろした。

「面白かった!」

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