14.試練の終わり
バサアァァ……。
ピクシーたちが発生させた風が行手を塞ぐ木々をしならせ、道を作る。
「ありがとう。助かるよ」
「いいよいいよ。ボクたちはルーカスがラクシュ様に勝つところが観たいんだよ」
あれから俺は、ピクシーの隠れ里を出てラクシュがいる巨木へと向かっていた。その際、三人のピクシーが付いてきてくれたのだ。彼らが『突風』のスキルで道を切り開いてくれるおかげで、俺は巨木に向かってほぼ直線移動できている。
「ああっ! 人喰い植物の群生地だ。危ない危ないよー」
「これはもう迂回しなくちゃ、やばいよやばいよ!」
ピクシーたちの言う通り、目の前にはトゲだらけの蔦をくねくねと唸らせる植物がいくつも生えていた。それだけではなく、鋭い歯が生えた蕾を開いて獲物が近くを通るのを待つ植物も散見される。
……だがこのくらい、いくら火属性スキルを使えなくても余裕だ。
「問題ない。このまま直進するぞ!」
「ええっ!」
驚くピクシーたちに笑いかけ、俺は左の手のひらを前に突き出す。
「氷刀」
右手に略奪剣、左手に氷の刀を握りしめる。精度や威力を捨て、手数と速度に特化した二刀流スタイルだ。
ズザザッ!
人喰い植物の群生地に飛び込んだ瞬間、全方位からトゲ蔦や牙つきの花が襲いかかってくる。
ヒュンヒュンヒュン……スパパパパッ!
俺は剣と刀でその全てを切断。それでも余裕があった俺は、人喰い植物本体すらも両断した。
「すごいや……この数の攻撃をたった二本で塞ぎ切るなんて……」
「それだけでもとってもすごい! なのにそれだけじゃない……」
今まではずっとはしゃいでいたピクシーたちが鎮まりかえる。……そしてすぐにまたはしゃぎ出した。
「そこから反撃して本体を倒しちゃうなんて……ルーカスは天才だよ凄腕だよ!」
その後もピクシーたちの協力のもと、暗い森の中を全速力で突き進んだ。そして、
「着いた」
巨木の目の前に出ると、俺はその幹に触れる。
「樹木同調」
次の瞬間、幹が唸り中の空洞へと続く穴が空いた。
「ボクたちがついて行けるのはここまで」
「ボクたちはラクシュ様に近づきすぎると消されちゃうから……」
「だからさだからさ……がんばって、ルーカス!」
「ああもちろんだ。俺は必ず、ラクシュを倒した話を土産話にもう一度君たちの里に行く。ここまでの道案内、感謝する!」
俺はピクシーたちに手を振り、巨木の中へと足を踏み入れた。
***
「なんだ……これは」
「ああルーカス! ようやく来たんだねぇ〜。今ちょうどゲーム開始から二日経ったよ〜」
遥か上から降ってくるラクシュの声。だがそれよりも、目の前に広がる光景の方が衝撃すぎて、彼の話す内容が頭に入ってこない。
これは……樹木の幹か?
闘技場と同じくらいの断面積がある空洞を、ぎっしりと木の幹が埋め尽くしている。そして、僅かに残る隙間は、迷路のように複雑に繋がっていた。
「この木の中、全部で百層の迷路になってるから時間内に超えてみてよ〜。もちろん迷路を壊したらその時点でキミの負けだよ〜。じゃがんばってね……ま、無理だろうけどっ!」
邪気を帯びた笑い声とともに語られる声に、俺は怒りをぶつける。
「おまえ、最初からこのゲームをクリアさせる気がなかったな? 普通、この迷路を越えるだけで三日近くかかるだろう!」
「そうさ! ボクは最初からおまえを痛ぶりたくてこのゲームを作ったのさ! なんせボクはもう、ただの罪人に罰を与えるだけじゃ満足できなくなっちゃったんだよ……」
「ギャアァァアァ!」
ラクシュの声の近くから悲鳴が聞こえた。おそらく、罪人を痛めつけたのだろう。
「それこそ、君みたいな勇者とか……誰がどう見ても善人ってやつを泣かせてみたい。そんな奴らをボク自信の手で絶叫させてみたい! この感情をボクはもう抑えられないんだよ!」
こいつはもう、完全に狂ってる……。
己の欲求を満たすことしか考えられない──そういうやつだけが持つ悲痛さがだんだんとラクシュの声から滲み出てくる。
「だからさぁ勇者ルーカス! 君の魂をボクに壊させてくれよぉぉお!」
その言葉を境に、ラクシュの声は一切聞こえなくなった。
この迷路は普通、攻略に三日はかかる。それだけ聞くと絶望的だが……それはあくまで普通ならの話だ。
俺は、さて、と横腹に手を当て息を吐く。
「この迷路、すぐに攻略してラクシュを倒しに行こうか! 『超音波』」
俺の口から発せられた超音波が反響して、本来聞こえないはずの超音波を聞き取ることで、迷路の形が──正しい道順がはっきりとわかった。
ありがとうピクシー。君たちがくれたスキルのおかげでラクシュの吠えっつらを拝めそうだ。
***
──二時間後。ラクシュは巨木の頂上にある自室のソファに寝転がり、
「ルーカス。まず最初はどうやって痛めつけようかなぁ〜? やっぱり最初は水責めかなっ! それで精神的に疲労を溜めてからの方が痛みを我慢できなくなるもんねぇ」
ルーカスに悲鳴をあげさせる手段を夢想していた。
「それにしてもあとまだ二十二時間も待たないとオモチャが手に入らないなんて……制限時間二日にすればよかったなぁ……」
勝利を確信してくつろぐラクシュ。彼の絶対の自信を崩したのは、突如として投げかけられた声だった。
「辿り着いたぞラクシュ! これで俺の勝ちだ」
不意に目の前に現れたルーカスが勝ち誇った表情で、そう高らかと宣言する。
「はぁ?! なんでキミがもうここにいるんだよ!」
「面白かった!」
「続きが気になる!」
と思っていただけたら、
ブックマーク登録や、
↓の「☆☆☆☆☆」をタップして、応援していただけるとうれしいです!
星はいくつでも構いません。評価をいただけるだけで作者は幸せです。




