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【完結】かつて世界を救った勇者は地獄に追放された〜俺は俺を世界から追放した神々への復讐を決意する〜  作者: 早野冬哉
第一章

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13.ドライアド

「ふぅ……」


 足を前後に開いて重心を落とし、剣を腰だめに構える。すると、蜘蛛の目をもつ黒狼──精霊喰いが、怯えるピクシーたちに飛びかかった。


 スパアァァン!


 水平に振り抜いた剣が、黒狼たちの首を、足を、胴を切り落とす。当然、ピクシーたちに被害はない。


 うん、やはりこういう相手の数が多い時は大振りの技が役立つな。


 致命傷を免れた精霊喰いにトドメを刺し、俺はピクシーたちに笑いかける。


「もう大丈夫だ。近くに精霊喰いの気配はない」


「ルーカスありがとう。ボクたちだけじゃ、みんな今頃食べられちゃってたよ」


「ルーカスは強いねぇー」


 ほっと息を吐き、胸を撫で下ろすピクシーたち。不意に彼らの一人が俺の目の前に飛んでくる。


「実はね、精霊喰いなんて、少し前まで森にいなかったの」


「……? ならどうして奴らはこの森に現れたんだ?」


 言い淀むピクシー。その後ろから、別のピクシーが、答えを発した。


「ラクシュ様のせいだよ……あの人がどこからか精霊喰いを連れてきて、ボクたちの隠れ里近くに放ったんだ。それでいつも、あの狼たちのお腹が膨れるまで仲間が食べられちゃうんだよ……」


「昨日だって十八人も食べられちゃったの……」


 今では、里にあるピクシーの数は精霊喰いが出る前と比べて百分の一にまで減ったという。確かラクシュが番人になったのは三百年前。


 それだけ長い間、ピクシーたちはラクシュに虐げられてきたのか?


「ラクシュ、なんてやつだ! 同胞の住処を奪うだけでにとどまらず仲間の天敵をまで消しかけるとは……聞いているだけで腹が立つ!」


 自然と剣を握る手に力がこもる。場の空気が冷え、誰もが俯く……かに思えたが、ピクシーたちはまた明るく空を踊り出した。


「それよりさそれよりさっ!」


「ルーカスはドライアド様に会いたいんだよねー?」


***


 コンコンッ。


「ドライアド様ぁー」


「ルーカス連れてきたよっ! 開けて開けてー」


 ピクシーの隠れ里、その中心に生える一際太い木の幹をピクシーたちが叩く。するとそれに呼応するように木の幹が波打ち、ぽっかりと(うろ)が形成されてゆく。


「お初にお目にかかります。わたくしはドライアドと申します。この度はわたくしたちの里を救っていただき、感謝の言葉もございません」


 鈴を転がすような美しい声と日差しを反射して輝く緑色の長髪。誰が見ても美人としか言いようがない女性の姿をした精霊ドライアドが、木の中から現れた。


「こちらこそ貴女に会えてよかった。俺はルーカス、今はラクシュの試練に挑んでいる者だ」


「存じております。ルーカス様はわたくしたちの恩人、わたくしたちは貴女様への協力を惜しみません」


 そう言うと、ドライアドはその細く艶やかな手にスキルスクロールを生み出した。


「こちらのスキル『樹木同調』であれば、あの者が住む巨木の内側に入ることができるでしょう」


 スクロールを受け取ると、突然ピクシーたちが俺とドライアドの間を飛び回る。


「ボクたちもなにかスキルをあげようよ!」


「なにがいいかなぁー……」


「そうだなそうだ! あれをあげよう」


「あれってあれね。『風刃』と『超音波』だねっ!」


「ルーカスルーカス手を出して」


「こうか?」


 左手でドライアドから貰ったスクロールを掴み、会いた右手の手のひらを空に向ける。すると、手の上に緑色の輝きが現れる。


「「やっとよっとはいどうぞ!」」


 気づけば、俺の手の上には二本のスキルスクロールが乗っていた。お決まりの詠唱をしてスキルを入手すると、俺はドライアドのエメラルドのような瞳と目を合わせる。


「ありがとうドライアド。それにピクシーたちも」


 俺は精霊たちに礼をすると、胸の前で拳を握りしめた。


「俺は必ずラクシュに勝つ。そして森の侵食も精霊喰いの搬入も止めさせて、その罪を償わせてくる!」


***


「揃ったな。では、番人会議を始めるぞ」


 角が丸い長テーブルに腰掛ける四人の番人。そして上座にはネルが足を組み頬杖をついて座っている。そのネルが赤髪赤目の逞しい青年──イフリートに視線を送ると、イフリートが議題を読み上げる。


「今回の番人会議における議題は、緑縛地獄の番人ラクシュが行っていた闇森の侵食についてだ。詳細については手元の資料を見てくれ。……以上だ」


「んまあ、これは酷いわね。愛しのピクシーちゃんたちから土地を奪うなんて……アタシは許せないわ!」


 言葉遣いとは裏腹に、低い声を発したのは隷虐地獄の番人マゾエスだ。彼はいわゆるオカマだが、難解な仕事でも手際よく片付けると言う点においては、ネルは彼に絶対の信頼をおいている。


「だからアタシは、ラクシュちゃんの処刑に賛成するわ」


「我……も、同意見……だ。ラクシュ……の所業、今回ばかり……は、看過できぬ……で、あろう」


 氷のような水色の髪をした細身の青年──グリーシスもマゾエスに続き、ラクシュに処罰を与えることに賛同した。


「うむ。……してお主はどうだ? 虚黒地獄の番人クーダマリーよ」


 顔が隠れる黒装束に身を包んだ女性は、ただ無言で頷いた。


「よし。全会一致ということで、ラクシュに処罰を与えることが決定した。ではネル様、次は処罰の内容を協議いたしましょう」


 その後もイフリートの進行で、ラクシュ断罪会議は滞りなく進んでいった。

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