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ワーキングホリデーの記憶  作者: 快速5号
第一章 ワーキングホリデー
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第六話 一路ケアンズ

ケアンズという街は――日本風に言えば、南国情緒ただようという言い方がぴったりだった。


ヤシの葉が揺れ、通りには緩やかな時間が流れ、

どこかしら「いかにも南国の観光地ですよ」といった空気をまとっていた。


街の中心部には、カジノや免税店が軒を連ね、

観光客でほどよく賑わいながらも、どこか落ち着いた雰囲気があった。


一方で、郊外には大型のスーパーやホームセンターが立ち並び、

観光地でありながら、ローカルの生活感もしっかりと根付いていた。


そして、何よりこのケアンズという街を特徴づけていたのは――


ビーチが遠い、ということだった。


いや、誤解しないでほしい。

ケアンズは南国リゾート地である。


けれど、中心街からバスで何十分も走らなければ、

砂浜や海に出会うことができない。


ちょっと考えてみてほしい。


「南国情緒ただよう観光地」と聞けば、

ハワイのワイキキのように、ホテルの目の前にビーチが広がっていて、

水着姿の観光客が行き交う光景を思い浮かべないだろうか。


少なくとも、私はそうだった。


――そんな“勝手な理想像”を、軽やかに裏切ってくれる街。


それが、ケアンズだった。


**


ケアンズへ旅立つその朝――

シェアハウスでお世話になったご夫妻が、シドニー・キングスフォード・スミス空港まで、車で送ってくれた。


空港に到着し、荷物を預け終えると、奥様がふと聞いてきた。


「派遣期間の1ヶ月が終わったら、また戻ってくるの?」


私は少しだけ考えて、笑って返した。


「部屋が空いてたら……またご厄介に上がります」


それを聞いた奥様は、にっこりと頷いた。


「そのときは、おでんでも用意しておくわ」


そう言って手を振ってくれたその姿を、私は手荷物検査場の向こうから、しばらく見つめていた。


そのまま、私は機上の人となった。


ケアンズでの最初の仕事は、

翌々日から始まる“勤務先”へのご挨拶と、

それまでの数日間での拠点探しだった。


陽射しの強さ、空港の小ささ、空の蒼さ、そして——

見知らぬ土地の空気に包まれながら、私は再び“最初の一歩”を踏み出そうとしていた。





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