表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ワーキングホリデーの記憶  作者: 快速5号
第一章 ワーキングホリデー
4/43

第四話 こっちが本当の……

別れは、いつも唐突だった。


「明日香」での2か月の勤務を終える頃には、

一緒に飲みに行き、レンタカーで旅行に出かけた仲間たちの多くは、すでに辞めて姿を消していた。


そんなものなのだ、ここでは。


みんなそれぞれ、自分の旅路を生きている。


それでも、オーナーの小野さんは、最後まで私を気にかけてくれて、

ささやかながら、心尽くしの送別会を開いてくれた。




次に見つけたアルバイトは、少し変わった仕事だった。


シドニー市内のいくつかの免税店にお土産用の金箔入りワインを卸している日本人経営の会社で、

私はそこで、店頭に立って実演販売をすることになった。


――――― KARAKARWINE――――


この“ワインの実演販売”という仕事、思っていた以上に難しかった。


観光客の目の前にずらりと並ぶ多種多様なワインの中から、

「この一本を」と選んでもらうために、

言葉の壁、距離感、商品知識、すべてと格闘し続ける日々が続いた。


相手の国や文化によって好みも違うし、

“金箔”の魅力が伝わるかどうかも、案外難しい。

こちらが熱を込めて説明すればするほど、顔をしかめてスルーされることも多かった。


正直、売れない日もあった。

立ちっぱなしの足の痛みに、声の枯れを抱えて、

夕暮れのシドニーの街をトボトボと帰る日もあった。


私が日本人であると分かると大抵のお客が、


ライスワイン(日本酒)か?と質問してくるのが常だった。


そんなある日、会社から声がかかった。


「ケアンズに行ってくれないか」


話を聞けば、ケアンズの免税店から販売スタッフ派遣のオファーがあり、

会社では誰を送るか検討した結果――


「エースを送るとシドニーが回らなくなる」



――という理由で、影響のなさそうなやつを送っとけ”


その枠に、私が、ぴったりと収まったらしい。


本人の前でそう説明されたわけではないけれど、

空気感と、あの時の上司の微妙な笑顔で、なんとなく察した。


でも、不思議と悪い気はしなかった。


“必要とされた”理由が何であれ、

異国の地で、次の場所が用意されるというのは、やっぱり少しうれしいものだった。



やはり、ワーキングホリデーの別れというのは、いつだって唐突だ。


次の目的地、ケアンズへの出発を翌日に控えたある晩――

社長が、自宅で壮行会を開いてくれることになった。


これまで一緒に働いてきた販売スタッフたちも集まってくれて、

ノースシドニーの閑静な住宅街にある社長宅の庭で、

大きなグリルを囲んで、BBQを楽しんだ。


ワインと、炭火で焼かれたラムの香り。

冗談と笑いが飛び交う夜風のなかで、少しずつ実感が湧いてきた。


「本当に、明日、自分はケアンズに行くんだな」と。


正直なところ、心のどこかでこう思っていた。


——こっちのほうがよっぽど【ビバリーヒルズ】っぽいぞ、と。


……まあ、そのあたりの感想は、ナイショの話である。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ