【第63話】 『スキルに同意したら一生無料!?──スキル発動型詐欺の罠』
朝から気が重かった。
なぜなら、依頼人が開口一番こう言ったからだ。
「……ええと、スキルに“うん”って答えたら、家具がタダでもらえるって言われまして」
エミリアが顔を伏せてプルプル震えている。笑いをこらえているのか、怒っているのかは判断不能だ。
「まさかと思いますが、その“スキル”、発動型詐欺ですね?」
「たぶん……はい。『感謝の契約』っていうスキルで……『承諾した瞬間に全財産が引き落とされる』って……」
俺はそっと頭を抱えた。
スキル名がもう胡散臭い。“感謝”とか“承諾”とか、それっぽい言葉を並べてるくせに、やってることは完全に合法ギリギリ詐欺じゃないか。
「高野先生、このスキル……条文上は“同意”扱いになるんです」
「なんで!?」
「“本人の声帯による発話”と“スキル発動の魔導式”が合致したことで、“意志の一致”と見なされたと……」
スラーディアが補足しながら登場する。
「でもね~、このスキル、被害届がめっちゃ多いからね~! わたし、嫌いだよ、こういうの~!」
俺もだよ!
しかも今回は、スキル詐欺師が法廷に堂々と出廷してきた。
「やあ、みなさん。契約とは信頼と感謝の証。誤解があったなら、誠意をもって話し合いましょう」
薄笑いを浮かべる男。その胸元には《感謝の契約》の紋章がきらりと光る。
「……この野郎、言葉だけは立派にしやがって」
俺は六法全書・改を開き、魔導契約法の条文をめくりながら、あえて意地の悪い質問をぶつけた。
「“感謝”って具体的にどんな形で表現されましたか?」
「もちろん、満面の笑みと、“はい、ありがとう”という言葉です」
「その時、相手の口座から金が引き落とされたのは?」
「その0.2秒後です」
「悪魔か!」
スラーディアがぼそりと呟く。
「これは“感謝”じゃなくて“強奪”じゃないの~?」
「異議あり! これはあくまで“承諾に基づく契約”です!」
詐欺師がスキルを発動しようとした瞬間、横から氷室玲奈が現れた。
「……そのスキル、無効化申請します。スキル効力に偽装要素あり。《法鏡照臨》、発動」
空中に光の文字が浮かび上がる。
――“対象の意志確認に不備あり。スキル発動時、意識誘導の魔導干渉を検出”――
氷室が冷たい声で告げた。
「“はい”と言ったのは、意思表示ではなく、ただの挨拶よ」
「うわ、かっけぇ……」
俺は思わず漏らした。
「……やっぱあの女、天敵だわ」
こうして《感謝の契約》スキルは詐欺スキルと認定され、詐欺師は財産全額返還と損害賠償の支払い命令が下された。
法廷の外。
依頼人が深々と頭を下げてくる。
「先生、ありがとうございました! 次からは“ありがとう”にも気をつけます!」
「うん、それがいい。俺も気をつける……胃がもたれるわ……」
■
冒険者ギルドの裏手、人気のない酒場の片隅。
薄暗い照明に照らされた木製のテーブルを囲んで、くたびれた男たちが集まっていた。
──俺、高野誠一。異世界転生弁護士。
今日は珍しく、裁判じゃなく“聞き取り”という名目で酒場に来ている。いや、正確には、聞いてるだけで胃が痛くなってる。
「……また俺だけ“無料期間”が終わって、スキル消えたんだよ!」
そう叫んだのは、目の前に座る戦士ロルド。筋肉が服からはみ出してるくせに、今は大剣を抱えて落ち込んでいた。
「スキル【超腕力++】、お試し契約だったらしい。気づいたら剣が持てなくなってて……あのとき“利用規約”なんて誰も読まねぇって……」
その横で、元シーフのバルゴが手を挙げる。
「俺なんかさ、契約したスキル《瞬間移動:地方限定》が“特産品市場に飛ぶ”って奴だったんだよ。戦場からいきなりサツマイモ畑にワープしてみ? 味方に殴られたぞ」
「そりゃそうだ……」
俺は思わずうなった。
目の前には、スキル詐欺に引っかかった男たちがズラリ。勝手に名乗ってるらしいが──
《スキル詐欺被害者の会》
……ああ、胃薬持ってくりゃよかった。
「しかし、あんたが第63話でやってくれたのは、スカッとしたぜ」
ロルドがビール片手に笑う。
「スキル詐欺会社の代表に、バチッとこう言ってたろ?」
彼は立ち上がり、酔った演技で両手を広げて叫んだ。
『“契約書”とは、“同意”の上で交わされるものであって、“スキルが勝手に目の前に表示されたからポチった”は、同意とは言わねぇんだよ!』
「……って! 酒場がざわめいて、ネズミまで拍手してたもんな!」
「お前、それ何度目の再現だよ……」
俺は額に手を当てながら、こっそりエミリアに“今すぐ回収して”とアイコンタクトを送る。
が──それより早く、カウンターの影からぴょこっと現れたのは、受付妖精のミニエルだった。
「ご相談なら、高野法律事務所へどうぞ~! ただいまキャンペーン中で~、被害額がスライムゼリー以下なら、初回相談無料で~す♪」
「スライムゼリー!? あんなの1コインだぞ!?」
「ってか、俺の食費以下なんだけど!」
酒場の空気が一瞬で“突っ込み大会”に変わる。
俺は椅子を引いて立ち上がった。
「……あのな。相談してくれるのはありがたいけど、いいか、ちゃんと“契約”読むクセ、つけようぜ?」
「はぁーい……」
しょんぼりとうなだれる男たち。
だが──
「……あっ、またスキル表示来た!」
「再契約しますか? って出てる! 押していい?」
「お前ら懲りてねぇな!!」
俺の怒号が酒場に響いた。
こうして今日も、《スキル詐欺被害者の会》は賑やかに活動中だ。進歩は……まあ、期待しないでおこう。




