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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第61話】 『しゃべる証拠品、同時に二つの罪を告げました?──魔剣の多重告発』

 朝の事務所。

 俺は頭を抱えて、机の上でぶつぶつ独り言を繰り返していた。


「……昨日は盗まれたって言ってたのに、今度は“殺った”って……」


 視線の先には、一振りの剣。

 鈍く光る黒鉄の刀身に、しっかりと封魔札が巻かれている。

 その名も──“アストレイア”。

 伝説級の魔剣らしい。が、いまはただの証拠品。

 ……しゃべらなければ、な。


「高野先生、この剣、また喋りました」


 事務所に入ってきたエミリアが、冷たい紅茶を置きながら告げた。

 こっちは胃が冷えそうなんだが。


「昨日の“盗まれた”って供述に加えて……今日は“殺人を見た”そうです」


 机に突っ伏しそうになった俺を見て、エミリアはさらに追い打ちをかける。


「しかも、“犯人は別人”って言ってます」


 ……めんどくせぇ。


 ──そしてその日の午後。

 俺はスラーディア裁判長のいる第七魔導法廷にいた。

 証人席の台座には、例の魔剣アストレイアが威風堂々と立っていた。


「わーい、しゃべる剣だよー! 今日は証人席がメタリック!」


 スラーディアのテンションは謎に高い。

 スライムの身体がぷるんぷるん震えている。


「……これ、ほんとに証言とっていいのか?」

「証拠品ですけど、しゃべるなら証人扱いです!」


 そうか、そうなのか。どこの条文だ。


『第1の罪は盗難。犯人は、ひげ面のドワーフなり』

『第2の罪は殺人。犯人は、赤毛の盗賊なり』


 ……声は重々しく、まるで自分が判事か何かと錯覚しているのかというほど堂々としていた。


「……情報量、多っ!」


 傍聴席からは「ええ!?」「ちょっと待て!」と怒号が上がる。

 赤毛の男と、ひげ面のドワーフがそれぞれ立ち上がっていた。


「ちょ、俺盗んでないし!」「ワシは殺しておらんぞ!」


 魔剣アストレイアがそれに応えるようにさらにしゃべる。


『それぞれ、罪状は異なる。ゆえに、我が証言は矛盾せず』


 どこで習ったその詭弁!?


 スラーディアがぴょんっと跳ねながら俺の方を振り返る。


「高野弁護士、これ、どうまとめるの~? わたし、ちょっと胃がキュッてなってきた~」


「俺はとっくになってる!」


 だが、その時。

 法廷の扉が静かに開いた。

 そこから現れたのは、冷たい雰囲気を纏った黒衣の女性だった。


 高めのヒールが石畳を打つ音が静寂を切り裂き、彼女は淡々と告げる。


「魔導検察官、氷室玲奈。《法鏡照臨》、発動申請」


 氷室玲奈──

 異世界におけるもう一人の“六法使い”。

 理詰めで追い詰めるタイプの検察官。俺の宿命のライバル。


 冷たい目が剣に向けられた。

 次の瞬間、氷室の手元から魔導陣が展開され、剣の周囲に浮かぶのは──


 契約条文と、そこに書き込まれた改ざん痕跡。


「……この魔剣、記憶の改ざんを受けてますね」


「はぁ!? 証言どころか、脳内ファンタジーじゃねぇか!」


 俺のツッコミに、スラーディアも頷く。


「証言、無効~! この剣、喋るの禁止~!」


『異議あり。我はまだ三件目の──』


「黙れぇ!!」


 スラーディア・高野・ドワーフ・赤毛男・傍聴席、全員のツッコミが炸裂。


 こうして──

 しゃべる魔剣の証言は“参考記録”として扱われ、事件はドワーフと赤毛の別件として再審送りに。


 剣だけが、最後まで誇らしげに言い放った。


『我は真実を語る者なり。次は詩でも詠もうか?』


「……法廷、なめるなよ」


 俺は六法全書・改を閉じ、ため息をついた。


 胃薬がまた減る──



 吾輩は剣である。名はアストレイア。

 かつては“正義の刃”と讃えられた神聖魔剣。だが今や法廷の証拠品、もしくは“黙れ剣”と呼ばれる存在となり果てた。


 カツン、カツン──

 倉庫の石床をブーツの音が鳴り響く。来たな。今日もあの男だ。


「……またお前か。昨日もしゃべっただろ」


 黒髪の男、高野誠一。六法の勇者を名乗りながら、吾輩には敬意の欠片もない弁護士である。


『我が名はアストレイア。正義の語り部にして──』


「はいカット。スラーディア判事が“喋りすぎると冷凍庫行き”って言ってたぞ」


 ぐぬぬ。現代異世界司法、なんと不寛容な。吾輩の美辞麗句が封殺されるとは……!


 法廷に移動すると、すでにスラーディアがぷるんと揺れながら待機していた。


「わ~い、魔剣くん、今日も証人席にセット完了~☆」


 吾輩は無造作に証人席の台座に置かれた。なんという扱いだ……神聖な魔剣を台所の包丁のように!


『異議あり! 吾輩はもっと丁重に──』


「はいストップ。魔剣くん、今日の発言回数は三回までって決まってるから~」


 もはや刀剣界のアイドルである吾輩も、発言回数制限付きとは……情けない。


 そして。


「証言の信憑性に疑義あり。魔導検察官、出ます」


 カツン。

 漆黒のローブがゆらりと揺れ、長い脚で法廷に現れたのは──氷室玲奈。


「魔導検察官、氷室玲奈。スキル《法鏡照臨》、発動します」


 空中に魔法陣が浮かび、光の文字が踊る。


「この剣、記憶操作されてるわ。発言のうち、約40%が虚偽。残りは主観と過剰表現」


『そんなっ……吾輩の詩的表現が……!?』


「詩じゃないの。法廷。あと、その“赤毛の盗賊”って……目撃者全員“坊主頭の精霊学者”って言ってるわよ」


『むむむ……記憶に混線が……。いや、吾輩は確かに見たのだ。金色の──いや、赤紫の……あれ?』


 吾輩の誇り高き証言が、氷室の冷静な追及によってガタガタと崩れていく。


「このままじゃ、君、証拠品じゃなくて“笑い物”になるぞ」


 高野がぼそっとつぶやいた。


『……うぅ、吾輩は正義の剣だったのに……』


「よし、じゃあ今日の分は“参考意見”扱いってことで」


 スラーディアがふわりと宙に浮いて、吾輩にペタッと“黙示ラベル”なる札を貼りつけた。


「この札がある間は、勝手にしゃべっちゃダメだよ~」


『そんな、吾輩の唯一のアイデンティティが……!』


 こうして吾輩は、しゃべることすら禁じられた“無口な剣”として倉庫へと帰される。


 ああ、神よ……この世界において、証拠品に人権(?)はないのか──!



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