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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第55話】 『“いいね!”は契約の証拠になりますか?──SNS型魔導書の功罪』

 ピロン、と光を放ちながら、一冊の魔導書がページを開いた。


 ここは王都の一角にある、俺たちの法律事務所──通称〈六法の館〉。

 机に広げられたのは、今話題沸騰中の“魔法SNS型契約書”だった。


「……これが問題の投稿だな」


 俺は前髪をかきあげ、魔導書の一文を指差す。


 ピンク色の魔力インクで書かれた文字は、やたらポップだ。


『この神祖魔法を使ってみたい人、“いいね!”してね!』


 その下には、ズラリと“いいね!”した者たちの名前が表示されていた。

 そして──その中に、今朝の裏裁判で訴えられた青年、ルドの名前があった。


「スラーディア、これの法的な扱い、どう解釈する?」


 俺が声をかけると、裁判席の下から、ぬるりと粘液質の判事──スラーディアが湧いてきた。


「まかせるのじゃ~。これはの、近年流行りの“コミュニティ型魔法契約”じゃ。『いいね!』を押すことで、魔法の使用に同意したとみなすやつじゃな。ただしの、全文を読まずに押しておる者が多いからのう…」


「つまり、“同意の意思表示”にはグレーってことか」


「そのとおり。証拠としては弱い。が、他の言動と合わせれば、契約の一部として認定できる余地はある」


 スラーディアのぬるりとした言い回しに、俺は小さくうなずいた。


 ──この世界では、契約とは“魔力”そのもの。SNS型魔導書もまた、契約媒体となり得るのだ。


 やがて、裁判が始まった。

 訴えられたルドが椅子に座り、震える声で言い訳をはじめる。


「ち、違うんすよ! 俺、ただノリで“いいね!”押しただけで! まさか魔法が発動するなんて思ってなかったっすよ!」


「その発動で、村の井戸が噴火した件については?」


「いや、それは……マジですんません……」


 俺は肩をすくめた。


「“ノリ”で押したとしても、事前にリスクについて説明があったかどうかがポイントだな」


 そして、投稿者側の責任も問われる。


「魔導書の投稿者は、使用条件と副作用の明示を怠っていた。これが過失に該当する以上、一方的にルドの責任とするのは無理がある」


「つまり……俺、全額賠償じゃなくて済む……?」


 ルドの顔がパッと明るくなる。


 ……まあ、賠償額は五割減ってところだな。


 スラーディアが、のそのそと判決文を読み上げる。


「本件、“いいね!”を押した行為は、単独では契約成立とは認めがたし。しかしながら、投稿者の説明不足と、被告の軽率な同意が重なりし故、双方の責任を五分五分と見做す。以上」


「よし、じゃあ次は“リツイート型魔導書”の訴訟案件な……」


 俺はため息をついた。


 ──まったく、魔法もSNSも、使い方ひとつで社会を揺るがす爆弾になる。


 だが、だからこそ俺たち“六法使い”が必要なのだ。

 この理不尽と混沌に満ちた異世界で、契約をもって秩序を保つために。


 そしてなにより……


「エミリア、俺の昼飯まだ?」


「おでんパン温めてます」


 ──日常は、案外地味な判決の積み重ねでできている。


 あれから数日。


 俺の文書式従者であり、魔導書の書記解析専門士でもあるエミリアが、今日もカタカタと魔導端末のキーボードを叩いていた。


「所長、新しいSNS型魔導書にアップデートが来ましたよ~。今度は“思考ハート連動ボタン”ですって」


「そのネーミングからして、ろくなもんじゃねえな……」


 俺は眉間にしわを寄せながら魔導端末の画面を覗き込んだ。

 そこには見慣れぬボタンがピンク色に点滅している。「感じたら、即“契約”」と、まるで恋愛指南書みたいなコピーまで添えて。


 そこへ、ぷるぷる震えるスライム判事――スラーディアがずりずりと這ってきた。


「この“思考ハートボタン”というのはのぅ……心の共鳴を魔力波で読み取り、“読んでないけどワクワクした”だけで同意と見なす、恐ろしき魔同意機能じゃ」


「感情を読むって、それもう拷問に近いだろ……」


 俺の苦情も虚しく、事務所の扉がバン!と開いた。


「所長ぉぉぉ! ちょっとこれ見てくださいよ!」


 怒鳴り込みに来たのは、いつもの集金魔術師・グリードだ。額に貼った“未収金回収中”の札が哀愁を放っている。


「誰だよ! “いいね!”押したら宝石にされて換金されるっていうポストに俺の名前入れたのは!」


「ふむ、それは契約詐欺の疑いありじゃな。だが、『ワクワクした』と波動が検出されたなら、強ち無効とも言い切れぬ……」


「だからお前はいつもこっち側じゃないんだよ、スラーディア!」


 俺は苦笑しながら、エミリアのモニターに映った魔導書SNSの画面をスクロールした。


「まったく、最近の契約ってのは“軽率さ”が爆弾みたいに炸裂するよな……」


「でも、ちょっとドキドキするのがいけないんですか?」とエミリア。


「違う、問題は“押したくなるボタン”を作る奴らの方さ」


 そのとき、スラーディアがぼそりと呟いた。


「じゃが、ユーザーの“ときめき”は、誰にも止められぬのじゃ……」


 ……どうやら、魔法とSNSが手を取り合った未来は、思っていたよりも混沌としているらしい。


 そして今日もどこかで、誰かが「ちょっとだけ“いいね!”」を押してしまう――その先に契約地獄が待っているとも知らずに。


 俺は、心の底から願った。


 頼むから、次のアップデートは“指紋認証式”にしてくれ。


 せめて、気の迷いくらいは無罪にしてやってくれよな……。



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