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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第53話】 『異世界ブラック企業撲滅大作戦──スキルで縛る就業規則』

 俺のもとに駆け込んできたのは、見るからに疲れ切った青年だった。

 目の下には真っ黒なクマ、髪はボサボサで、服もほころびている。まるでダンジョンから無事に生還したばかりの冒険者みたいな格好だった。


「お願いです、先生! 助けてください……ッ!」


 土下座から始まる依頼というのは、だいたいロクでもないのが世の常だ。

 俺はとりあえず、彼にエミリアが淹れてくれたコーヒーを差し出しながら、事情を聞いてみることにした。


「つまり……冒険者ギルドの職員として採用されたが、スキル“強制労働”で四六時中働かされていると?」


「はい……寝る時間も食事の時間もなく、少しでも手を止めるとスキルが勝手に発動して、身体が動いちゃうんです……! このままだと、俺、死んじゃいます!」


 そりゃ、死ぬだろ。

 スキルってのは、便利な反面、契約に基づく自動発動がクセモノなんだよな。


「その就業契約書、見せてくれ」


 彼が震える手で差し出してきた紙を読んで、俺は絶句した。


「……なんだこれ。文字が豆粒サイズじゃないか。しかも“やる気を常に維持すること”って注釈の位置に書いてるし」


「サインしたときは気づきませんでした! まさかスキルの発動条件だったなんて……」


 ギルド側の主張は、「本人が契約した以上、発動して当然」というものだった。

 どこの世界にも、ブラック企業ってのは存在するらしい。


「よし、これは労働契約の無効を主張できる余地がある。行こう、裁判所へ」



 法廷では、いつものようにスライム判事スラーディアが、ぷるぷる震えながら開廷を宣言した。


「本件、異世界ブラック企業による労働スキル契約の問題、開廷じゃ」


 俺は依頼人とともに立ち上がり、契約書の文言とスキル発動の強制性について突っ込んでいく。


「この契約書は、極めて不明瞭かつ不当な文言によって、依頼人の自由意志を奪う目的で作成されたものです!」


「しかし、本人が署名しているではないか」


 ギルド代表が勝ち誇った顔で言い放つ。


「では、証拠映像をご覧ください」


 俺は魔晶玉を起動し、契約時の映像を再生した。

 映し出されたのは、細かい文字を読み飛ばさせるように早口で説明を省略し、サインだけ急かすギルド職員の姿。


「……これは、まるで罠じゃな」


 スラーディアのスライムボディが、憤りで小刻みに震え出す。


「さらにこちらをご覧ください。スキルが発動している最中の依頼人の様子です」


 映像には、白目を剥きながら延々と荷物を運ぶ青年の姿。

 無慈悲な映像に、法廷中の空気が一気に凍りついた。


「……異世界労基法、なめたらいかんぞい」


 その一言で、ギルド側の顔色が一気に青くなった。



 最終的に契約は無効と認定され、依頼人はスキル拘束から解放。

 ギルドには損害賠償が課され、実質的に活動停止状態へと追い込まれた。


「高野先生、本当にありがとうございました……!」


 依頼人が涙目で俺の手を握る。


「次は、契約書の小さな文字も読むんだぞ」


「はいっ! でも、また何かあったら──」


「また土下座で事務所来たら、今度は出禁だからな?」


 青年は笑って去っていった。


 その日の午後、スライム判事から届いた封筒には“異世界労働監査官推薦状”なるものが同封されていた。


「いや、俺は弁護士だって言ってるだろ……」


 俺は深いため息をついた。



 裁判が終わって、ようやくコーヒー一杯で一息つけると思ったんだ。


 ――甘かった。


「高野さまーっ!!」


 俺の事務所のドアが、今にも外れそうな勢いで開いた。叫びながら飛び込んできたのは、スライム判事スラーディアだ。机の上の書類がぶっ飛び、さっき淹れたばかりのコーヒーが書類の角を濡らしていく。


「スラーディア。静かにドアを開けるって概念、そろそろ覚えてくれ」


「そんな悠長なこと言っておれんのじゃ! 今すぐ行くぞい、ブラック企業の強制捜査じゃ!」


「……誰が?」


「そりゃあ、おぬしじゃろ?」


 いや、ちょっと待て。何をどうしたら、俺が異世界の労働監査官になるんだ。


「お前、勝手に“推薦状”とか出してただろうが。あれ、俺、もらった覚えも受理した覚えもないからな?」


「わし、勝手に登録しておいたぞい。“名誉労働監査代理弁護士・臨時特任特例”じゃ!」


「長いし胡散臭いし、ぜんぶ“勝手に”じゃねえか……!」


「だいじょぶじゃ! ネームプレート、ちゃんと用意してあるぞい!」


 そう言ってスラーディアが取り出したのは、スライムの形にぐにゃっと歪んだ銀色のバッジだった。


「……どこからどう見ても、駄菓子のオマケだろ、これ」


「いいから行くのじゃ。次の監査先は、焼肉店『ギルド炎舞亭』。従業員が火傷スキルで焼かれておるとかなんとか」


「火傷スキルて何だよ……」


 俺は深いため息をつきつつ、強制的に連れていかれる羽目になった。


 目的地の焼肉店は、入り口からして煙と油の香りが立ち込めていた。看板には“ギルド直営・激レアミートあります!”と書かれている。嫌な予感しかしない。


「おや? 法律事務所の先生? ご予約ですか?」


 奥から出てきた店長は、明らかに脂ぎっていた。顔も服も、油まみれだ。


「監査です。労働条件について、ちょっとお話を」


「ひぃっ!? 昨日、肉の在庫がちょっとだけ飛んだだけでして……!」


「何でいきなり罪を告白してるんだよお前は」


 厨房を覗けば、そこには炎をあげる鉄板の前で、汗だくのアルバイトが肉を返していた。


「この環境、スキルなしで立ち続けるのは無理だぞ」


「でも、スタッフには“情熱スキル”がありますので!」


「情熱で火傷は治らんわ!」


「……ところで、火傷スキルってなんだよ」


「焼き台に触れるたび、炎属性ダメージがじわじわ入る特殊スキルでして……」


「お前、それ“嫌がらせスキル”だろ!」


 最終的に、「スキルを盾に労働条件を押し付ける行為は違法」と判定され、焼肉店は営業停止と環境是正を命じられた。


 事務所への帰り道、スライムがぷるぷる震えながら言った。


「いやー、労働監査って楽しいのう!」


「俺は一滴も楽しくない。てか、これ、いつまで続くんだ……」


「そろそろ次の監査先も決めたぞい。“不眠術”で永遠に接客させられるメイドカフェじゃ!」


「帰らせてください!!」





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