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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第43話】 『しゃべる剣が勝手に売却されました!?──物言う証拠品の所有権問題』

 俺が朝の法廷に入ると、既に傍聴席はざわついていた。


 いつものナメさん(ぷるぷる)と、スラーディア判事ぺちぺちに加えて、今日はなんと……証拠品が自分で騒いでいる。


「おい、こら! 誰が売られたって!? このわしが!?」


 証拠台の上に横たわっているのは、重厚な黒鉄製の片手剣。柄の中央には宝石が埋め込まれており、そこから“口”のような亀裂ができていた。そこが動いている。しゃべっている。


「高野弁護士、今日の証人……いや証剣、だな?」

 スラーディア判事が若干やけくそ気味に確認してくる。


「ええ、こちら『黒き刃のクラウス』さん。かつて魔王討伐に使われた伝説の剣で、意志を持っております」


「さん付けすんな! 恥ずかしい!」

 剣が怒鳴るなり、場がさらにどよめく。


 俺は内心で深いため息を吐いた。


(何でこう、俺の裁判って毎回まともに始まらないんだ……)


「さて、今回の争点は“クラウスが現在誰の所有物か”だ。依頼人の鍛冶師カイルは『祖父の代から伝わる家宝』と主張し、剣側は『自分で所有者を選んでる』と否定してる。クラウス、君が言う“所有者”って?」


「当然! わしが真にふさわしいと認めた戦士だけじゃ!」


「じゃあカイルさんのじいさんは?」


「当時はまあ、筋がよかった。だが、今のカイルとかいう小僧は──重いって文句言いながら鞘にすら入れん奴じゃ!」


「つまり、筋力基準……?」


「うむ。あとは魂の輝きと勇気と、あと──背中のフォルム!」


「個人主観すぎるだろ!」


 傍聴席から小さな笑い声が漏れる。ナメさんがくつくつと笑いながら、俺の肩にぺたり。


「でもさ、クラウス君のこの感じ、わかるよ。オレも手入れされてないと、ぬるっとすぐすねるし」


「ナメさんはぬるぬるが本体だからそれでいいんだよ」


 スラーディア判事が咳払いして、法槌の代わりに自分の腕をぺちんと叩く。


「では、当法廷としては、“意志ある物品に所有者を選ぶ権利があるか”を審理する」


「判事、前例は?」


「過去に“歌う壺”が所有権を主張したケースがあるが、結果は“器物に対する保護的尊重”とされた。今回はそれ以上に人格性が高い。なお──この剣、口も悪い」


「うるせえスライム判事! ぷるっと潰すぞ!」


「異議あり。侮辱罪だ」


「剣が侮辱罪って!」


 俺は顔を覆った。


 そして思った。


(……次の依頼は、せめてしゃべらない物でありますように)


 王都の裁判所を出た俺は、ふぅと肩で息をついた。


 今日は“しゃべる剣”ことトーキング・ソードが、自らの売却について異議申し立てをした件で揉めに揉めたが、ひとまず審理は一段落。


 が──その剣は、まだ俺の背後にいた。


「なあ、高野、やっぱり俺、返品できない? あの骨董屋の爺さん、どう考えても俺の鞘の湿気対策を怠ってたんだよ」


 その声は、やたら甲高くて調子っぱずれ。まるで道端の詩人がリュート片手に即興で文句を歌ってるようなテンションだ。


「お前、証拠品として保管中だろ? 俺の背後についてくるなって何度言えば……」


「でもさー、こっちの方が湿度管理されてるし、ナメさんもいるし!」


 俺の肩に乗ったナメさん(ぷるぷるスライム)は、剣の方をちらりと見てから、ぶるんと一回転した。たぶん「うるさい」と言いたいのだろう。


 それにしても。


 しゃべる剣と一緒に帰宅する弁護士って、我ながらどうなんだ。


「おい、トーキング・ソード」


「“トーくん”って呼んでいいぞ!」


「却下。お前、今後証言の信用性が問われるから、変なこと喋るなよ。『過去に元持ち主の寝言を逐一記録してました!』とか、余計なこと言うな」


「え、それ面白いネタなのに……“昨日もクレリックの夢見てた”とか──」


「言うなって言ってるだろ!」


 ふぅ……俺は顔を覆った。どっと疲れた。


 スラーディア判事には「証拠品が証言するとは前代未聞だが、面白い」とか言われたけど、今じゃ俺の生活が前代未聞だ。


 その夜──俺の部屋。


「ねぇ、高野、高野ってさ、剣使わないの?」


「俺は弁護士だ。剣なんて振り回さない」


「じゃあさ、トースターとかに改造してくれない? ほら、火属性の魔石でパン焼けるかも」


「……」


 俺はしばらく無言になり、静かに剣を布で包んだ。


「おい、なんで!? 視界が真っ暗なんだけど!? パンの未来は──!?」


 この剣を“物言う証拠品”として扱う日々は、まだまだ続きそうだ。


 明日の公判までに、この剣に口止め料でも請求しておくか──などと、妙に法律家的なことを考えながら、俺は布団に潜り込んだ。


■ 


 王都の南にある巨大ショッピングモール『マジカル・バザール』。

 事件が一段落し、ナメさんの粘液も乾いた午後、高野(俺)は息抜きと称してこの地に足を運んでいた。


 ……連れてくるんじゃなかった。


「すっげええ! 見ろよ高野! あれ自動で動くホウキだぞ! 魔力要らずで吸引もできるって書いてある! なにそれすごくね!? ……俺もブラシつけたら床掃除できる!?」


 俺の背中でギャーギャー喚くのは、喋る剣・トーキング・ソード。通称“トーくん”。

 布でくるんで持ってきたのに、どういうわけか通気性のすき間から声が漏れてくる。


「トーくん、声のボリュームを下げろ。完全に不審者だ俺が」


「うぃーっす……って、おい、パン屋あるぞ。あそこで焼いてもらえば俺、トースターにならずに済むのでは?」


「だから剣がパンを焼くなって言ってんだよ……」


 通りすがりの客がちらちらとこちらを見る。

 やばい、明らかに「剣が喋ってる」ってバレてる。


「ねぇ高野。あっちに剣の専門店ある! 入ろうよ入ろうよ!」


「お前が喋ってるせいで入れないんだよ」


「なにぃ……!? じゃあ布越しに“剣が剣を見る”体験だけさせてくれ……」


 俺は額を押さえた。


 裁判より疲れるわこのやりとり。


 でも──なんというか、ちょっとだけ……。


(少しだけ、癒されてる気がするんだよな……)


 こういうくだらないやり取りが、今の俺にはちょうどいい。

 法廷で揉めに揉めた日常の反動か、無責任に騒いでる剣に、どこか救われてるのも事実だった。


「高野。いつか俺、喋らなくなる日が来るのかな」


「……どうだろな」


 ぽつりと、珍しく静かな声だった。


 まるで、自分の役目が終わった未来を、ふと想像してしまったかのような。


「そのときは、鞘に戻って静かに暮らすのもいいかもな。でもそれまでは、騒いでていいよ」


「……うぃっす!」


 また、布の中から声が弾んだ。


 俺はそっと笑った。

 そして、ナメさんが入ってる胸ポケットを軽く叩くと、スライムはぷるぷるっと跳ねた。


 裁判と法律と騒がしい剣の三重奏。


 俺の日常は、今日も騒がしくて、ちょっとだけあったかい。





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