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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第41話】 『ゴーレムに労働時間はあるか?──魔法労働基準法を斬る』

 その日、王都第四法廷には妙な緊張感が漂っていた。

 というのも──


「ガッ、ガゴン……ガッ」


 証言台に立っているのが、身の丈三メートルはある土属性ゴーレムだったからだ。

 角張った顔、ヒビだらけの腕、そして胸には“株式会社・岩の心”と書かれたプレートが打ち込まれている。


「おい、ナメさん……あれって、マジで証人なのか?」


 俺はとなりのナメさん──ぷるぷるの知性スライムに耳打ちする。


「ぷる。どうやら最新式の“魔導通訳魔法”で、ゴーレム語が翻訳できるらしいですよ」


「……時代も進んだもんだな」


 その通訳魔法の担当は、若干眠たげな魔法士の青年。傍聴席の端っこで、魔導書を抱えてあくびしてる場合じゃねぇだろ。


「では、証人。あなたは一日どれくらい働いているのか?」


「ガゴッ……一日十六時間……週七日……休み……ナシ」


 通訳魔法を通じて法廷に響き渡った瞬間、傍聴席がざわついた。


「十六時間!? 週七日!? ってブラックすぎるだろ!」


「え、ゴーレムにも労働権あるの?」


「ていうか、ゴーレムって自我あるの?」


 それは今回の裁判の焦点でもあった。


 依頼者は魔導鍛冶屋ギルド。被告はその元締めであるロジェ会長。

 原告側は、“一定以上の魔力を宿し言語的反応を示すゴーレムは、労働者として扱うべき”と主張。


「はい、そこ注目~」

 スラーディア判事がぷるるっと揺れながら木槌の代わりに法廷ベルをぺちぺち。


「ゴーレムの労働時間が“労働基準法”に抵触するかどうか、それが本日の争点です」


「ぷるぷる。俺、なんか泣けてきました。あのゴーレム、いつ寝てるんですかね……」


「寝ないんじゃね? ……たぶん」


 だが、ここで俺の“六法全書”が火を吹く。


「魔法労働基準法・第十六条、並びに異種族労働適用規定において──

 “魂を宿し、自律的意思決定を行える構造体は、労働者と見なされる”って条文がある」


「ぷるっ!? あ、それってゴーレムに該当しちゃう……!」


「そう。つまり、休憩時間も、休日も与えないと違法になる」


 法廷内は騒然。

 被告のロジェ会長は椅子から立ち上がり、汗をぼたぼた。


「い、いや! ゴーレムは道具だ! ただの石ころだ!」


「それを決めるのは貴方じゃなく、法です」


 そう言い切った瞬間──


 証言台のゴーレムが、感極まったように、胸のプレートを震わせて言った。


「ガゴ……ありがとう……自由……」


 その場にいた全員が、少しだけ黙った。

 スラーディア判事が鼻水をすする音すら聞こえた。


 そして俺は心の中でつぶやいた。


(……まさか、ゴーレム相手に感動する日が来るとはな)


 あれから三日後──。


 俺は例のゴーレム工房を再訪していた。目的はひとつ、あの労働基準法違反騒動の「その後」を確認するためだ。


 ……というのは建前で、正直に言えば、ただ単に“気になった”だけである。いや、ほら、法廷じゃ見えなかった現場の空気ってあるだろ?


「うぃーっす、高野弁護士。労基法の申し子、お帰りなさーい」


 迎えてくれたのは、例の工房長・オルベルト。相変わらず歯がやたら白い。


「おう。最近は“あの一件の弁護士”って言われることが増えてな」


「そりゃそうだろ。なんせ、ゴーレムの残業について真面目に裁判した人間、あんたが初だ」


「……名誉なんだか、黒歴史なんだかわからん」


 工房内は相変わらず蒸し暑い。魔力の炉がゴーゴー唸っていて、ゴーレムたちがせっせと動いている。


「おい、あのゴーレム……バリバリ働いてないか?」


「おう、でも今はちゃんと“労働時間”計ってっから。見ろ、このタイムカード」


 そう言ってオルベルトが取り出したのは、まさかの“魔導式タイムスタンプ水晶”。


「働くたびにピコーンと記録される。こいつぁ便利だ」


「なんだよそれ。文明が妙にチグハグなんだよな、この世界」


「おかげでさ、今じゃ“ゴーレムたちのシフト表”もできたし、過労ゴーレムゼロよ!」


 俺は思わずゴーレムのひとりに話しかけた。


「おい、働きすぎてないか? 無理してたら、また訴えるぞ」


 するとゴーレムが口を開いた──。


『労働環境……良好。残業代……支給済。昼休み……しっかり一時間確保。』


「喋るようになってる!? っていうか、めっちゃホワイトやんけ!」


 オルベルトが鼻を鳴らす。


「アップデートしてな、しゃべるようにしたんだよ。“コミュニケーション能力”も仕事のうちだって、判決文に書いてあったからな」


「そこまで忠実に受け止めるか……いや、うん、正しいけどさ」


 俺はしばらく工房を見学した。整然と働くゴーレムたち、魔導式の換気扇、そして休憩室には“ゴーレム用冷却パネル”まで用意されている。


「完全に企業努力だな……」


「おかげで、ゴーレムにも労組ができたぜ」


「え、ウソだろ?」


「ほれ、うしろ」


 振り返ると、“全自動労働結社ゴーレムユニオン”の立て札を持った代表がこっちに無表情でぬるっと近づいてきていた。


『高野弁護士、労働者権利の確立に尽力いただき、感謝……感謝……感謝……』


「おい、エコーかかってんぞ!」


 俺は思わず笑ってしまった。


 ──まあ、結果オーライってやつだ。


 労働とは人だけのものじゃない。意志ある存在なら、それぞれの働き方がある。


 俺の仕事も、そういう“声”を拾って、法という形に変えていくことなんだろう。


 でもまあ。


「ゴーレムに訴えられたら、次は俺が労災だな……」


 そうぼやきながら、俺は少しだけ誇らしく、少しだけ疲れた顔で、工房をあとにしたのだった。





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