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【第3話】 『追放勇者、国家に訴える!? 勇者法って何ですか?』

 昼下がり、相談所の窓から柔らかな陽光が差し込み、紅茶の香りがほのかに漂う。

 そんな静けさを打ち破るように──


 バンッ!!


 扉が吹き飛びそうな勢いで開き、土煙をまき散らしながら一人の男が踏み込んできた。


「俺は冤罪だ! 国家ぐるみの陰謀だ! ……ということで、先生、俺を助けてくれ!」


 金髪をざっくりと撫で上げた大男が、片手に巨大な剣を担ぎながら仁王立ちしている。

 マントはボロボロ、鎧はところどころひび割れているが、全体から放たれるオーラはただ者ではない。


「……どちら様?」


 紅茶をすする手を止めた俺は、静かに問いかけた。


「元・勇者のカインだ!」


 そう名乗った彼の名は、確かに耳にしたことがある。魔王討伐の英雄として一世を風靡した──あの“カイン・グランフェルド”だ。


「国家がだな、俺の功績を無視して、突如“勇者特権の乱用”ってレッテルを貼ってきたんだよ! 酒場で飲んだツケがどうとか、城の馬車を私用で使っただの、ちっっっせぇことばっか!」


「……そのへんの使い込み、何回くらい?」


「えーと……月に、五、六回?」


「うん、それ普通にアウトだからな?」


 俺のツッコミにもまったく動じず、カインは机に手をついて大声を張り上げた。


「だがな! 俺がいなかったら、王都は滅びてたんだぞ!? 勇者特権ってのは“正義の免罪符”じゃねぇのかよ!」


「ちょっと落ち着け。せめて椅子に座れ」


 促すと、カインはずしりと椅子に腰を下ろした。椅子がギシッと悲鳴を上げる。


 俺は六法全書・改を棚から取り出し、パラパラと勇者法の項を探した。

 それは魔導金糸で縁取られた一章であり、封印のような呪文付きの栞が挟まれている。


「ふむ……“勇者の命令および判断は、必要緊急時に限り王命と同等の効力を持つ”」


「ほら見ろ! 俺が飲み歩いたのも、国の士気を上げるための必要緊急時だ!」


「……それを決めるのはお前じゃないからな?」


 問題は、その条文には“緊急時の定義”が書かれていないこと。

 俺は眉をひそめながら、さらに読み進めた。


「……おい、勇者に関する訴追は“原則不可”ってあるぞ」


「だろ!? 俺は法的に無敵なんだよ! 法的勇者無双!」


「ただし、“特権の乱用があった場合、王国司法局により調査と罷免が可能”とも書いてある」


「……誰だよそんな一文入れたの!」


「おそらく、前任の王国法改正委員だな。君みたいな前科持ちの勇者が過去にいたんだろ」


 カインは口を尖らせ、むくれたような表情を浮かべた。


「ったく……恩を仇で返しやがって……」


 だが、この裁判は単なる個人の問題では済まされない。国家が勇者を“どこまで保護し、どこまで裁くか”という、極めて政治的な意味を持つ案件だ。


「だが、王国は君を正式な裁判にかけず、追放処分で済ませている。それが正当かどうかは……争える余地がある」


 カインの目が見開かれた。


「おおっ! つまり、俺にも勝ち目があるってことだな!」


「ただし、訴えるからには過去の行動すべてが裁かれる。そのつもりで来な」


「よし、覚悟はできてる! 俺の名誉、取り戻してくれ、先生!」


 大げさなポーズで立ち上がり、カインは拳を胸に当てた。椅子が倒れてガタンという音を立てる。


「……まず、その辺の後始末からしてくれ」


「すまん!」


 こうして始まった、“異世界勇者 VS 国家”の法廷バトル。


 元勇者の真実はどこにあるのか。

 正義の名の下に、剣ではなく──六法全書が裁きを下す時が来た。

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