表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/65

【第29話 】『勇者サイン会 中止騒動! 肖像権と魔法複製の境界線』

 真夏の陽射しがジリジリと石畳を焼いている王都中央広場。今日の俺は、涼しい書庫の中ではなく、なぜか勇者アストルのサイン会の“法律顧問”として呼び出されていた。


 理由は一つ――魔導コピーによる肖像権侵害。しかも、それが“発光機能つきの抱き枕”にまで発展していたからだ。


「なぁ先生! オレの顔が勝手にプリントされて、しかも……夜中に発光すんだよ!? あれ、絶対怖いって!!」


 と、真剣な顔で訴えるのは、件の勇者アストル。背中に剣、マントはひらりと風にたなびき、容姿は王子様そのもの……だが話し方は近所のノリの軽い兄ちゃんだ。


「抱き枕じゃなくて、魔導具です。いや、魔導具という名の……たぶんファングッズですね」


「ファンって言っても限度があるだろ!? オレ、あの枕と結婚させられそうになったんだよ!? とある村の貴族が『これで家名を繋ぐ』とか言い出して……!」


「それ、もはや人権侵害じゃなくて、物品婚約詐欺……いや、文化的にどうなの……?」


 とにかく、問題のサークル“魔写の泉”は、アストルの肖像を魔導写写マジカメラで撮影し、拡大・光学転写し放題。現在、その抱き枕は“夜中に語りかけてくる”という謎のオプション付きで販売されていた。


「……この契約書も読んだんですけど、“本人不在でも肖像の魔力波を感じた場合は販売OK”って、どう考えてもおかしいでしょ」


「やっぱり!? あいつら適当に書いたんだよな!?」


 アストルは悔しそうに拳を握る。ちなみに、契約書は小さなルーン文字で書かれており、読み解くのに魔法光源を三つも使った。あれを「ちゃんと読めば分かる」って言った作者に、俺はいっそ懲役を勧めたい。


 そしてそのとき。


「おい、あの荷車に何か積んでるぞ!」


 群衆の一角から声が上がる。見ると、怪しげなフード姿の男たちが、何やら箱を抱えて逃げ出していた。


「あ、あれ! あれだよ! 発光抱き枕!! しかも最新版だ!! 喋る!!」


「喋るのかよ!」


「夜中に“勇者アストルです。おやすみなさい”って言うらしい!」


 現場は騒然。


 そしてアストルは叫んだ。


「勝手に寝言を録音すんなァァァァァァ!!」


 マントを翻し、彼は華麗に跳躍し、抱き枕を手に持ったフード男の頭上に降り立った。


「おのれ勇者の名を騙り……今ここで、肖像権剣・第二条、抜刀ッ!!」


 勇者は本当に剣を抜いた。


 会場は大混乱。


 俺は――


「アストル君! それ! 営業妨害になるから! あと器物損壊も……あああ、もう遅い!」


 バキィン!


 発光する枕が真っ二つになった。


 静まり返る広場。


 そのなかで、俺は静かにメモを取った。


 「営業妨害(自爆)」「名誉棄損(本人)」「公共の場での剣術行使による治安条令違反(再)」


 書ききれない。


「……先生、なんとかしてよぉ……オレ、ただサインしたかっただけなのに……」


 泣きそうなアストルに私は言う。


「はい、わかりました。では次からサイン会を開く際は、肖像使用の契約同意書と“魔導具拡張条項の明示を参加者全員に確認してもらいます。あと、自作抱き枕は禁止」


「……うん。ありがとう、先生。オレ……サイン会、嫌いになりそう」


「まあ、あなたの寝言が勝手に商品化される世界ですからね……」


 かくして、勇者サイン会は無事――いや、無事じゃないけど、法的には完了した。


 そして俺は、事務所に戻るなり、机の上に置かれた発光抱き枕(試作品)を見て、そっと物陰に隠した。


「……誰が持ち込んだんだ、これ」



 俺がその“抱き枕”と対面したのは、裁判所の証拠保管室だった。


 ふわふわの青い生地に、やたらとキメ顔をしている金髪の勇者アストルのイラスト。そして、枕に近づくと──


「……もう、剣なんか捨てて、君の隣で眠っていたい……ぐぅ……」


 しゃべった。いや、寝言をしゃべった。

 しかも、イケボで。


「……弁護士先生? どう思います?」


 横にいたのは今回の相談人、“元魔導コピー師”を名乗るメメル嬢。小柄なエルフで、紫の三つ編みに眼鏡を乗せ、見た目は真面目だがその言葉の端々からヤバさが滲んでいた。


「いや……どう思うもなにも、著作権と人格権のダブルアウトですねこれ」


「でも! 寝言ですよ!? 本人の意思ないんです!?」


「逆にそれが問題なんだ。本人の意思がないのに商品化された寝言、しかも“発光するしゃべる抱き枕”って、肖像権と音声権の侵害に加えて人格権まで踏んでる」


「えっ……人格まで!?」


「勇者の“人となり”を完全におもちゃにしてる時点でな……」


 思わず天を仰いだ。いや、抱き枕に仰がされたのかもしれない。


 この問題の発端は、魔導グッズサークル《魔写の泉》が販売した、勇者アストルボイス内蔵抱き枕・限定300体。

 大ヒットだった。いや、当初は。


「毎晩添い寝してくれる“アストル様”に、女子たちは骨抜きよ!」

「え、昼間でも“起きろ!俺の剣がお前を起こす!”って叫ぶんだけど……」

「それがまた良いのよ〜♡」


 ……わかってる。俺も男だ。気持ちはわかる。

 でもこれ、完全にアウトなやつだ。


 しかも、魔導音声は本人の寝言を勝手に魔法録音したもので、販売元の《魔写の泉》は「寝言は誰のものか」という、よくわからん持論で開き直っていた。


「……つまり、夢の中でつぶやいた言葉は、公共の夢財産である、と?」


「そうです! 夢は……みんなのもの!」


「じゃあ俺の夢で見た変な踊りしてるサキュバスも、みんなに配っていいんですね?」


「やめてください!!それはダメです!!」


 ……どこに線引きがあるのか分からない。


 結局、裁判では無断録音された寝言に商品価値が発生した以上、人格権・肖像権・音声使用権の侵害である”と認定され、《魔写の泉》は全面敗訴。サークルは活動停止処分となった。


 ……と、ここまでが表の話だ。


 実はあの後、メメル嬢が新しく立ち上げたサークル《モフっとメモリーズ》が、今度は合法的に書記官モフの癒しボイスグッズを販売開始。

 曰く、


「……“おつかれにゃ〜”ってモフが囁くんです、寝るとき♡」

「それは合法です。書記官の許可取ってますし、猫語は翻訳されませんから」


 俺の法廷には今日も、寝言と猫語と法解釈が渦巻いている。


 それにしても、アストル勇者──


「くっそぉおおお! なんでモフは許されて、俺はダメなんだよおおお!」


 事務所の窓の外、勇者の悲痛な叫びが響いていた。


 

 裁判は終わったはずだった。

 勇者アストルが、自身の「寝言ボイス付き抱き枕」を勝手に売られたとして提訴した訴訟──通称“抱き枕裁判”は、完膚なきまでに《魔写の泉》側の敗北に終わった。


 だが、真の戦いはそこからだった。


 ──その日、俺の法律事務所の前に、彼は現れた。

 銀の鎧に赤いマント。なのに手にはマイク型の魔導アイテムを装備していた。


「Yo Yo Yo〜! 法は俺を守ってくれたが、ソウルはまだ炎上中!」


 ……おい、始まったな。


「司法に勝って、でも失った! 俺の寝顔が全国販売ッ!

 寝言ボイスに“ぷに感タッチ”、だが夢の中じゃ訴訟ラッシュッ!」


 何が恐ろしいって、ビートがちゃんと魔法で流れてることだ。


 しかもそれに対抗する形で、裁判所からも人が出てきた。

 黒衣に角帽、杖を小脇に抱えた──なんと裁判官スラーディアだ。


「Yo Yo Yo! 法廷バイブスなめんなよ?

 条文レペゼン、粘液マスター!

 寝言だろうが証拠残れば、人格権はシステムエラーッ!」


 まさかの裁判官VS勇者のマジラップバトル。


 群衆が集まりはじめ、商店街のおばちゃんたちまでノリ始める始末。

 中にはスマホで録音してる魔法商会の連中もいる。これはまた訴訟の種が増えそうだ……。

 それにしてもアストル、やるじゃないか。表情は真剣そのもの。

 拍子を取りながら、マントを翻し、語る。

「スラーディアよ、俺は問う!

 法と情熱、どっちが正義!?

 寝言は無意識、でも愛は本気!

 この炎、抱き枕より熱いぜッ!」


 ……いや、上手いな。


 こっちは法廷側のスラーディアも黙っちゃいない。


「誇りの剣と、おまえの寝顔。

 守るべきは、プライバシー条項!

 感情任せで商品化すな、

 判決文バースはラップ界の憲法だ!」


 最終的にこの騒ぎを止めたのは、書記官モフだった。


 「にゃ〜ん♡(いいかげんにするにゃ)」


 突如、猫型の書記官が音響魔法で拡声され、会場一帯が静まり返る。


 そしてモフがぴょん、と舞台に上がり、こう言った。

「抱き枕は……合法と違法の“狭間のクッション”なのにゃ。

 だけど勇者さんの想いが真実なら、

 次はちゃんと許可取って、“公認ボイスCD”にするにゃ!」


 拍手喝采。

 スラーディアもアストルも、思わず肩をすくめて笑った。


 こうして、異世界史上初の法廷発祥ラップバトルは、

 書記官モフのひと言で、静かに幕を下ろした。


 ちなみに──

 この一件をきっかけに、アストルは“マジ勇ラッパー”として音楽デビュー。

 1stアルバム『法廷のリーガル・ブレイド』は、王都でまさかの大ヒットを記録することとなる。


 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ