【第24話 】『魔獣ハラスメント!? “ペット可”物件の契約トラブル!』
ある晴れた昼下がり、俺は法律相談所の窓辺で「異世界不動産登記法・改」をめくっていた。やっと慣れてきたと思ったら、今日も来た。
ドアがバァン!
「すみませぇん! 弁護士さんいらっしゃいますかぁーっ!!」
慌てて飛び込んできたのは、ピンクのツインテールを揺らす元気系エルフ少女と、でかい……というか、異常にでかい鳥。
「は、はい。高野誠一です。で、そのフクロウみたいなヤツは?」
「魔獣です!」
カグワリィは、くるるる……と柔らかく鳴いて、俺のスーツに首をすり寄せてきた。ああ、これは……癒やされるやつ。
「で、相談内容は?」
「実は……先月引っ越した“ペット可”物件で、大家さんに追い出されそうなんですぅー!!」
うん、だいたい話は読めてきた。
彼女、名をメルティ=スパンコール。種族はエルフだけど森育ちじゃなくて、完全なる“都会派エルフ”。
「契約書には“ペット飼育可”ってあったんですよ!」
「じゃあ、問題ないじゃないですか」
「ところがっ!!」
彼女は、ぽいっと一通の通知書を俺の机に投げた。
《入居者殿:魔獣による近隣迷惑行為が発覚。三日以内に退去願いたし》
「……魔獣ハラスメント?」
「ちがいますぅー! カグワリィは優しいんです!」
だが話を聞く限り、どうやら“羽ばたきで洗濯物を吹き飛ばす”“深夜の求愛ダンス”“玄関で近所の野良犬と低周波対決”など、軽く条例違反レベルの騒音と混乱を巻き起こしていた模様。
「でも、契約上は“ペット可”なんですよ?」
そう言って彼女が見せた契約書には――
《本物件は、愛玩目的の動物の飼育を認める。ただし魔獣、精霊、生物兵器を除く》
「……この“ただし”の書き方、ちょっと姑息ですね」
「やっぱりそう思います!?」
「しかも、この字体、読みにくさ満点の“クネクネ書体”じゃないですか!」
「しかも契約時、そこだけページ裏側に折りたたまれてて見えなかったんですぅー!!」
「……よし、行こう。法廷へ」
法廷当日。大家側は、口ひげをクイッと上げた妖精族の弁護代理人が登場。しかも名刺の肩書きが“宅地精霊師”。
「我が依頼人は、居住者の静穏な生活を守るため、やむなく措置を取ったまで」
「では伺いますが、ペット可と書かれた本契約、なぜ裏に“除外項目”が記されているのか」
「……読めば分かるだろうという精神で書かれた文言です」
「それ、法律的にアウトです。“読めば分かるだろう精神”は、精神論であって契約法じゃない」
「ぐぬぬ……」
そして、俺は満を持して証拠提出した。
「こちら、“カグワリィ”の環境適応調査書です。近隣騒音ゼロ、粗相なし、むしろ隣の部屋の防犯にも貢献。なお求愛ダンスは昼の部に変更済」
「おぉーっくるるっ!」
法廷内に、控えめに鳴くカグワリィ。思わず裁判官までほほえんでいた。
「よって本件は、契約上の説明義務違反および、ペットの範囲を曖昧にした不当表示と判断される」
「判決。被告は原告の居住継続を認め、騒音対策の話し合いを行うこと。……あと、カグワリィくん、かわいいのでOK!」
こうして、無事に“魔獣ハラスメント”疑惑は晴れた。
「ありがとうございましたっ!!」
「うん、今日もいい仕事だった……が」
俺の肩に、そっと乗ったカグワリィが、またも“求愛ダンス”のポーズをとってきた。
「お、おい、やめろ……お前のは見つめすぎなんだよ……!」
羽ばたく風の中、俺は今日もこの世界の“契約と混乱”に揉まれていくのだった。
■
ある朝、俺は目覚ましの代わりに一通の手紙を受け取った。
《ペット可集合住宅“サンクチュアリ魔獣荘”における一部住民トラブルの収束を受け、該当物件の管理補佐として“魔獣カグワリィ”を臨時採用とする。報酬はもふもふ一回。 —裁定所不動産課》
「……は?」
俺、高野誠一。異世界法律相談所の所長である。
なのに最近は“魔獣の雇用問題”とか“スライムの労働契約”とか、“ちょっとおかしい”相談ばかりだ。
今回の件? もっとおかしい。
「カグワリィが管理人補佐ですって!? この子、鳴くだけしかできないんですよ!?」
「くるるっ!(できる!)」
「……否定しないんだな」
そうして始まった“管理人生活一日目”――
カグワリィ、首に赤いタスキをかけ、堂々とした足取りで共用通路を巡回。
「ポスト投函よーし」
「くるっ(投函済)」
クチバシで器用に郵便物を配り、配達モンスターのゴブメールからも一目置かれていた。
ついでに玄関前の“野良グレムリンの置き忘れおにぎり”も処分。
お掃除モードに突入したカグワリィ、羽でモップを巧みに使いこなす。もはやプロ。
「すごい……なんか近所の魔獣たちにも人気出てきてませんか?」
住人のサラマンダー系青年が言った。
「俺、最初はあのダンスうるせぇと思ってたんだけどさ……今はちょっと、和むわ。ほら、子どもモンスターも踊ってるし」
見れば、毛玉系の幼獣が3匹、カグワリィの真似して「クルル体操」中だった。
これはこれで……アリかもしれん。
だが、事はそう甘くなかった。
「静かにしろぉぉぉぉ!! 俺の超音波昼寝がっ!!」
怒鳴り声と共に現れたのは、新しく越してきたコウモリ型魔獣族、ヴァルヴァ=コロッソ。
彼は“完全昼型の吸血種”で、カグワリィの羽ばたき音が耐えられないらしい。
「自治会に言うぞ! 自治会がなければ作るぞ!!」
「じゃあ、作ればいいじゃないですか」
そう提案したのは――まさかのメルティだった。
こうして急きょ発足された“魔獣自治会”。
議題:「魔獣が共に暮らすためのルールをどうするか」
司会:カグワリィ
書記:ナメさん(ぷるぷる文字で板書)
議長席で頭に乗ってる謎のフクロウ:野次担当(くぅーっ!)
「それじゃあ、羽ばたきタイムは日中三回まででどうでしょう!」
「異議あり! 求愛は感情の爆発だ!」
会議は紛糾しながらも、なんとか日和見的合意に達した。
ラスト、管理補佐任務を終えたカグワリィが俺に一枚の紙を差し出す。
《管理報告書:本日の苦情3件、もふもふ満足度97%、反省点:空を飛びすぎた》
「……よし、合格だ。明日もよろしくな」
「くるっ!!」
羽を広げて敬礼するカグワリィの姿に、もはや誰もツッコまなかった。




