【第23話】 『騎士団のパワハラ研修、合法か!?〜精神耐久訓練と訴訟の盾〜』
昼下がりの相談所。ちょうど書類の山を前に“人権ってなんだ”と悩んでいたところに、ドアがバァン!と開いた。
「……た、たすけてくださ……!」
入ってきたのは、ボロボロの鎧を着た青年。肩から鉄板が取れていて、まるでカニの脱け殻。
「よくぞ……ここまで生き延びたな」
「……はい。二週間、寝てません……」
これは確実に事件の匂いがする。
「お名前と職業を」
「新米騎士の……フレッド・ドゥラン……です……今、“魂の鍛錬”中なんですが……」
「魂って、物理的に削れるんだっけ?」
「ぼくも……削られてみて、初めて気づきました……」
話を聞くと、彼は“精神耐久訓練”と称して――
● 槍を三日三晩ピカピカに磨き続け
● トイレ掃除(3カ所)を毎晩ローテーション
● 上官の恋愛相談に朝まで付き合う
● “もし自分が食われるならどんな魔物が良いか”という討論会に参加
──などの壮絶なメニューをこなしてきたらしい。
「これは……もはや、騎士というより耐久実験体だな」
「あと、地獄演劇……“モンスターに捕食された騎士たち”って演目で……先輩たちが肉汁まみれで……」
「精神鍛錬とトラウマ形成の区別をつけろって話だな」
俺は異世界六法の“騎士団訓練規範”をめくる。すると……
《鍛錬は肉体的・精神的に過剰であってはならない》
……見っけた。
「よし、騎士団を訴えるぞ。相手が団長だろうと関係ない」
「団長は……“盾の暴君”と呼ばれていて……話が通じるかどうか……」
話し合いで済めば、裁判なんていらないんだよ。
そんなわけで俺は、翌朝、鎧磨きの音が響く騎士団本部を訪れた。
「弁護士・高野誠一です。精神耐久訓練が異常とのことで提訴状を提出します」
「……騎士団長に通すかどうかは、私の判断で……」
「じゃ、通して。書記官さん」
廊下の奥から“ガコン!”と扉が開いた音。現れたのは──
「我が名は、ヴィクトール・グランバッハ!」
金属でできたマッスル彫像が歩いてきた。顔も声も重低音、言葉に“!”が常に付いている系軍人。
「貴様が、訴える者か」
「ええ。盾より理論で戦う派です」
「……なかなか、いい面構えだ。だが我が騎士団の魂を否定するというのか!」
「あなたの魂、ちょっと汗臭いです」
「ふぅむ……」
その瞬間、団長は拳を胸に当てて深々と頭を下げた。
「……申し訳ない。若き騎士たちに、己の時代の厳しさを押し付けすぎた。彼らは、我が過去の影ではない」
「……(え、反省するの早ッ!?)」
フレッド君も目を見開いたまま硬直している。
「この件は、騎士団の訓練制度を全面的に見直す! 高野弁護士、貴殿の六法に敬意を」
俺はそっとメモに書いた。
──“異世界最強の盾:思いのほか柔らかかった”
その後、フレッド君は晴れて「通常の訓練メニュー」に復帰。
団長直筆の“反省文”は、騎士団史上初の出来事として額装され、食堂に飾られることとなった。
「……高野先生、本当に、ありがとうございました……!」
「いいってことよ。あとで、その反省文の写し、送ってくれ」
俺はフッと微笑んだ。
法律は剣にも盾にもなる。そして時に、団長の心も刺し貫く。
今日もまた、一歩ずつ、俺はこの世界の“正義”を学んでいく。
■
騎士団の応接室で、俺はフレッドと肩を並べて座っていた。
向かいの巨大な机の向こうには、あの“金属筋肉像”こと、団長ヴィクトール・グランバッハ。
「……完成した。これが、わたしの全霊を込めた反省文だ」
そう言って、彼は誇らしげに羊皮紙を差し出してきた。
いや、それもう“巻物”レベルの長さだろ。
「ちょ、長くないですか?」
「反省には魂が必要だ。だから文字数制限は設けなかった」
魂はともかく、紙にインクがにじんでる。斧でも振ったのか?
とにかく俺は、巻物をほどいて読み始めた。フレッドも横で緊張の面持ちだ。
《団長の反省文》(原文ママ)
我が名は、栄光と鋼の盾、ヴィクトール・グランバッハ!
今、己が過ちに膝をつく。いや、片膝では足りぬ。両膝を地に叩きつける所存である。
思えば二週間前。若きフレッド・ドゥランを鍛えるべく、“精神耐久鍛錬”を命じた。
その内容は以下の通りであった。
・四十八時間連続で槍を磨け!(己の魂も同時に磨かれるという教え)
・恋愛相談! 一日二時間、私と語らえ!(主に私の失恋話)
・“死を想え”演劇参加(我ながら名演技だったと思う)
当初は己の武勇伝を次代へ継承する崇高な訓練と信じていた。
しかし、弁護士殿の訴状を読み、私は悟った――
これは拷問である。
(俺は横目でフレッドを見た。彼は小刻みに頷いていた。やっぱりね)
よって、ここに明記する。
一、以後、訓練は正当な指導範囲に限る。
一、団長の恋愛事情は研修内容に含めない。
一、劇団「死を想え」は解散する。
さらに、団員の睡眠・休養・希望を尊重するため、以下の新制度を導入する!
・“昼寝制度”の導入(正午〜13時)
・“感情申告制”の採用(涙が出たら中断OK)
・“モフモフ補給日”の制定(月曜午前、近隣の猫と触れ合う)
「モフモフ補給?」
思わず声が出た。団長は真剣な顔でうなずく。
「心を鍛えるには癒やしも必要だと、弁護士殿の判決文から学んだ」
「いや俺そんなこと書いた覚え……いや、書いたかも……」
最後に――
若き者よ、忘れるな。己を守るための盾を、他者を傷つけるために使ってはならぬ。
私は己の“心の盾”を研磨し直す。
以上、騎士団長 ヴィクトール・グランバッハ
P.S.:本反省文を通読してくれた者には、団長特製の“やさしみクッキー”を贈呈する。
「……やさしみクッキー?」
「新設した訓練後カフェで提供中だ。“涙の味”という名の蜂蜜がけだ」
「団長、反省って……すごく独特ですね」
「む? 褒めているな?」
「うん。たぶん、そういうことにしときます」
こうして反省文は正式に受理され、
フレッドは“やさしみクッキー”片手に正式採用された。
「……なんだか不思議と、胸が熱いです」
俺も頷いた。
「ま、法ってのは、笑って終われるくらいがちょうどいい」




