【第22話 】『偽装転生!? 異世界で“二度目の人生”を名乗る詐欺師の末路』
俺の名前は高野誠一。異世界で唯一の“弁護士”であり、六法全書を片手に、今日も裁判所の扉を叩く。
朝から訴訟が続いていた俺の法律相談所に、突如現れたのは──
「拙者、転生者にござる」
──忍者ルックに木刀装備の、明らかに挙動不審な男だった。
「……名前は?」
「サスケ=テンセイ・マル。元は“ニッポン”なる異界の出身。かつて現代兵器で魔王を斃し、異世界の姫君と祝言を挙げ……」
「で、今は?」
「無職にござる」
胡散臭さMAXだ。
依頼の内容はこうだった。
「最近、拙者が“転生者”を騙って金銭を得ていたとして、詐欺で訴えられたでござる! あろうことか王都の転生庁が“登録がない”と申す……! これは陰謀に違いない!」
「……ああ。うん。アウトだわ」
異世界には、“正規転生者”の身元登録を行う『転生庁』なる役所が存在する。まれに本物が紛れているせいで、“転生者”ブランドは権威ある肩書になっていた。
だが彼──サスケ氏──は、その身元不明の“なんちゃって転生者”。
「誠一先生、お願いでござる。正義の六法で、この異世界の差別と闘ってほしいでござるぅ!」
「詐欺は差別じゃねえんだわ……」
それでも弁護士としての俺の仕事は、“真実を炙り出し、適切な罰を与える”こと。
調査を開始すると、サスケ氏は少なくとも五人の村長から“転生者向け講演料”を受け取り、“転生者のオーラを注入する御札”を販売。さらに“転生者は税金が免除される”と偽って徴収までしていた。
ちなみに、その御札、スライムの粘液を乾かしただけだった。
「……なぁサスケ。お前、本当に元の世界にいたのか?」
「実は、ござる……」
ぽつりと漏らされた本音。
「オレ、本当に一度だけ“トラックにはねられかけた”ことがあるんすよ。だけど寸前で助かって……。そんとき思ったんす。“あ、オレ、転生した方が幸せだったんじゃね?”って」
――それは哀しいほど、現実逃避の香りがした。
裁判当日。原告席に立った転生庁の職員は、開口一番こう言い放った。
「被告は“転生者”を名乗っておりますが、実際は“妄想者”です」
場内、失笑。
だが俺は一応、弁護士としてできる限りの弁護を試みた。
「被告は確かに偽っていました。しかしその動機は、救済されるべき“社会的迷子”としての側面があります。裁くのは容易い。だが、彼の虚構の背後にある、孤独と希求を見落としてはなりません!」
……少しだけ、いい話っぽくなった。裁判長も、眼鏡をクイッと直しながら静かに言った。
「なるほど。だが、詐欺は詐欺です。執行猶予付きで、有罪とする」
「オワタ……」と呟いたサスケ氏の肩は、ほんの少し軽くなっていた。
判決後、彼は俺に頭を下げて言った。
「ありがとうござる。オレ……ちゃんと働くよ。“ほんもの”になるまで」
「じゃあまず、その“ござる”口調やめような」
■
あの裁判から一週間。
「詐欺師」として執行猶予付きの有罪判決を受けたサスケ=テンセイ・マルは、いま──
「誠一先生っ! 職、見つかったでござる!」
──なぜか俺の法律事務所に、朝イチで飛び込んできた。
えらくテンションが高い。いや、そもそもお前の挨拶がすでに職場の空気をぶち壊してる気がする。
「今度の仕事、“スライム牧場の掃除係”でござる! これぞ転生者の修行の初歩ッ!」
「いや、ただの清掃バイトな」
だが、サスケはいたって真剣だ。バケツと雑巾を“聖水”と“聖布”と呼び、畜舎にスライディングで入っていくという、やや事故的な働きぶりで注目を集めているらしい。
「本日の成果……ご覧くだされ!」
彼の差し出した桶には、見事にぷるっぷるした“スライムの脱皮殻”が大量に浮かんでいた。
俺「で、それをどうするつもりなんだ」
「乾燥させて御札に──いやもうそれはやめたでござる」
成長は、してるっぽい。
別の日には、町の図書館で“本の並べ直し係”を始めたらしいが──
「棚の“ラノベ”の間に、“転生者列”を作ったでござる!」
「勝手なジャンル創作やめろ!」
その棚の中には「オレが勇者だった件」「魔王を寝かせて3時間」など、彼の手書きの薄い本が並んでいたらしい。……働け。
だが、転職活動は続く。
ある日、精霊庁の“環境調整課”で短期アルバイトに採用され、彼は“風の精霊と一緒に空気清浄”という謎の任務に従事していた。
「精霊さんが風を巻き起こす横で、拙者がうちわで応援するでござる!」
「……気休めにもなってねぇぞ」
でも、どこか嬉しそうだった。
いや、もしかして──
「サスケ、お前……意外と生き生きしてるな」
「拙者、ようやく気づいたのでござる。転生ってのは、事故でも奇跡でもなく、“選び続ける意志”のことだって」
「……おお。まともなこと言うじゃねぇか」
「なので今日から名乗るは、“再生者サスケ”!」
「いやもう何も名乗らなくていいから」
こうして彼は、働きながら地道に“ほんもの”の人生を築いている。
時々“ござる”口調が抜けない以外は──そこそこマトモになってきた。
【後日談】
スライム牧場のご主人が語ってくれた。
「最初は変な奴だと思ったけど……あいつ、スライムに“殿”って呼ばれてるんですよ。なんか仲間だと思われたらしくて」
スライムたちに愛される“元詐欺師”。
もしかしたら、彼こそが真の転生者──いや、“転職者”なのかもしれない。
■
仕事帰りの寄り道、俺はふと、ある“ぬるぬる牧場”に立ち寄った。
看板には《スライム牧場ぷるるんファーム》とある。
……どうでもいいが、フォントがメルヘンすぎて牧場というより、場末のスナックだ。
「殿ぉ〜〜〜〜っ!!」
突如響き渡る粘っこい声。そして……地面を這いずる音。
「うおっ!? 足元がぬるっ……!」
案の定、俺の革靴はゼリー状の生き物たちに絡み取られた。スライムだ。
「ま、誠一先生! ようこそ我が陣へ!」
バケツを持った男が顔を出した。サスケだ。
白い法衣にスライム帽子、腰には“掃除用の短剣モップ”。
なんだその装備は。
「ここが拙者の新たな根城、ぷるるんファームでござる!」
「サスケ、お前……一体ここで何をしてる」
「拙者は今、スライム四姉妹と共に生活しているでござる!」
「四姉妹……?」
「ぷる、ぷるる、ぷるりん、ぷるらの四匹のスライム娘でござる」
「それ……お前が勝手につけた名前じゃないだろうな」
「違うでござるよ! 彼女たちが“ぷるっ♪”って鳴くから!」
「お前の耳どうなってんだ」
とはいえ、牧場の中は意外と清潔だった。
スライム用の寝床は水苔とミルクタンクの中にあり、湿度も保たれ、定期的に“クラゲ音楽”が流れる。なによりスライムたちが──
「“殿ーっ♪”ってめっちゃ懐いてるじゃん……」
「愛でござるよ、愛!」
確かに、サスケは毎朝水やり、夜は“粘膜ブラッシング”と称して手入れをしていた。
スライムたちは、彼の持つ湯たんぽを“王位の玉座”と呼び、順番に座るらしい。意味は不明だ。
「先生、ここだけの話……ぷるるは最近、耳を澄ませると“殿のためなら戦う”って鳴くでござる」
「いやそれ“ぷるる”じゃなくてお前の妄想な?」
でも──
あの男が、ようやく誰かに必要とされている。
異世界に“やり直しの場所”を見つけている。
それは、きっと奇跡だ。
そう思って牧場を後にしようとした時──
「殿ぉぉおおお!! ぷるりんが産卵したでござるぅぅぅう!!」
「うわ待て!! スライムって卵産むのか!? ちょ、それ法的にどうなってる!?」
俺は即座にスマート六法を開いた。
だが、“スライムの繁殖に関する婚姻及び親権法”は……改定中だった。
やれやれ、また法の隙間を縫う事件が始まりそうだ。




