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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第17話 】『精霊契約の盲点!? 風の精霊、パワハラ訴えます!』

 「……すみません。あの、風の精霊が“訴えたい”って言ってるんですが」


 目の前で頭を下げてきたのは、どこか控えめな雰囲気の魔導士の少女だった。年は十代後半。見た目は地味だが、肩には“風の加護”と呼ばれる淡い光の羽が浮かんでいる。


 ──というか、話が唐突すぎる。


「……精霊が“訴える”?」


「はい……! うちの風の精霊、ちょっと真面目すぎて……いま、うつ病ぎみで……」


「えっ、ええ……?」


 この時点で、すでに情報過多である。


 聞けば、彼女──エイミと名乗った少女は、王立魔法学院でもトップの精霊使い。

 特に“風”との親和性が高く、小さい頃から風の精霊“シルフィン”と契約してきた。


 だが、最近そのシルフィンが言うのだ。





 「こんなに回して、飛ばして、浮かせて、毎日朝から呼び出して……

 おれ、精霊界で“こき使われすぎ”って問題になってるんだけど!? 精霊保護協会に訴えるからな!」


 ──なんだそれ。


 「で、俺に何をしてほしいんだ?」


「シルフィンが“労働基準違反”で訴えるって言ってて……その、先生が代理人になってもらえたらって……」


「精霊の、労働代理人……!?」


 あまりにも斬新だ。だが、面白い。


 「いいだろう。異世界六法“精霊契約法”の第一章、久々に開くか……!」


 数日後。


 王都の精霊法廷は、魔力で構築された透明なドームだった。法廷内には、人間の判事と“精霊界の観測官”が立ち会い、

 そして──風の精霊シルフィンが、ふわりと浮遊して証言席に現れた。


「俺だって、休みたいんだよ……! 風になったら戻れないって言ったじゃん!? 土日、ないの!?」


「いや、土日とかそういう問題じゃなくてですね……」


 私は頭を抱える。


 今回の争点は“精霊契約の範囲”。

 契約書には「魔法発動時、精霊を召喚してその力を借りることができる」と書かれているが、その頻度や時間は一切定められていなかった。


 まさに“グレーゾーン”だ。


 私は証拠として、エイミがつけていた“魔法使用日誌”を提出。そこには──


 月曜:風刃×4、浮遊×3、洗濯物乾燥(?)×1

火曜:授業用飛行魔法×7、書類めくり(手動が面倒で)×5

 ……などなど


 ──どう見ても“便利屋”である。


 判事が問いかける。


「被告(=エイミ)側、精霊の過労に対し、どのような配慮を?」


「毎週ミントの香りのポプリを焚いてます……あと、なるべく感謝の言葉を……!」


「むしろ精神的な負荷を増やしてる可能性もありますねぇ……」と、どこからか聞こえるため息。


 最終的に、私が提出した“精霊契約明文化案”が採用された。


 ・週に1日は完全休息日を設ける

 ・戦闘時以外の私的召喚には上限を設ける

 ・契約解除・更新には定期的な再同意を必要とする


 判決後、浮かんでいたシルフィンがふわりと笑った。


「……やっと、昼寝ができる……」


 風が、やさしく吹いた気がした。


 裁判を終え、私はひとつだけ言っておいた。


「エイミ、これで解決したと思うなよ。次は“炎の精霊”が訴えるかもしれない」


「う……それ、熱血でブラック気質なんです……!」


「やっぱり精霊界も、労基法いるな……」



 その日、俺の法律相談所に現れたのは、全身をマントでぐるぐる巻きにした筋肉質の男だった。

 マントの隙間から、もくもくと煙が上がっている。


「相談があります……炎の精霊“レッド様”が、うちの家から“労働争議”を起こしました」


 開口一番から法的パワーワードを叩き込まれ、思わずペンを落とした。


「レッド様……?」


「ええ。うちの家系に代々仕えてきた炎の精霊なんですけど、こないだから──

 “オレは雇用されてない。だが、働いている。これは矛盾だ。解決せよ”って……」


 すでに労働組合の構成員みたいな主張してるじゃねぇか。


 話を整理すると、彼の家では古来から“レッド様”と呼ばれる炎の精霊が、台所の火起こしから風呂の湯沸かし、さらには薪の火種提供や厄除けの儀式まで、ありとあらゆる火に関する作業を一手に引き受けていた。


 ……まさに、炎のパートナー。


 が、ここ数年は“任意契約”で済ませていたせいで、精霊側の不満が爆発。


「おい! 何で俺だけ働いてんだよ! なんで水の精霊はお茶うけだけで免除なんだよ!」


「……働き方改革、いるなこれ」


 そして後日、俺は“精霊労働交渉仲裁人”というよくわからん立場で、当のレッド様と対峙することになった。


 法廷には入れないため、交渉は火山地帯の祭壇上で行われた。


「我、残業手当を求む!」


 炎をまとったその存在は、もはや戦国武将か何かの演説かと思うほど堂々としていた。


「日没後に呼ばれすぎなんだよ! 23時の風呂とかふざけてんのか!」


「ええと……レッド様。そもそも、契約内容に“時間制限”の項目が……」


「書いてない! だから要求する!」


「……納得しちゃったよ俺」


 結果として、以下の新契約が結ばれた:


日没から日の出までは“緊急時”以外の召喚禁止


炎術1回ごとに“霊珠”1個の報酬支給(これは実質的な手当)


年2回の“燃え尽き休暇”制度創設


 これを聞いたレッド様、満足げに言った。


「我、ついに“働き方”を手に入れし者となれり……」


 そして、彼は焚き火のように穏やかに燃え続けながら帰っていった。


 帰り道、俺は空を見上げてつぶやいた。


「……次に来るの、水の精霊かな。たぶん、湿気手当とか言い出すぞ」


 その瞬間、曇り空からぽたぽたと雨が降ってきた。


 ──やっぱり、来る気がする。



 「あの……相談いいですか。精霊がカビ生えそうって言ってて……」


 いつものように朝から机に向かっていた俺の法律相談所に、ふわふわと湿った空気と共にやってきたのは、神殿付属の書記官――クラリス嬢だった。


 涼しげな青のローブ、長い銀髪。そして肩に浮かぶ、ちょっと怒っているように見える水の精霊。


 その精霊は、俺を見るなり声を発した。


 「湿度が高すぎるんだよ! 常時98%とか労働環境じゃねえ!」


 言ってることは真っ当だが、語気が完全にクレーマーである。


 クラリス嬢いわく、彼女は“神殿の聖水管理室”に勤めており、水の精霊“ミスティ”と契約を交わし、日々の浄化業務や癒しの儀式を共に行っている。


 だがその仕事場、聖水槽の湿気で常にムワッとした空気に包まれており──


 「最近、ミスティが“この職場、苔生える”って……実際、指にカビ生えてました」


 「……それは労災申請したほうがいいな」


 かくして、俺は神殿に出向き、精霊契約における“環境配慮義務”の是非を巡って、

 神殿側と交渉することとなった。


 応接室に通されると、そこにはいかにも頭の固そうな神官が座っていた。

 杖を軽く突いて言い放つ。


 「精霊は“神の僕”です。我々の義務は“祈り”であり、湿度ではありません」


 ……なんか、論点がずれている気がする。


 ミスティは証言席(=水盆の上)に浮かびながら、ぷるぷる震えて訴える。


 「オレたち精霊だってな、結露するんだよ! 肌(?)に悪ぃんだよ! 湿気の中で働きづめで、休憩室もねぇ!」


 「……休憩室?」


 「乾いたタオルで包まれる時間が、俺の癒しだったのに……!」


 意外と繊細だった、水の精霊。


 俺は異世界六法の“精霊環境保全規定”を引用しながら主張する。


 ・精霊との契約において、使用環境が“持続困難な状態”にある場合、労働停止の権利を持つ

 ・湿度・温度・浄化状態など、“霊的ストレス”要因を避けるべき義務が契約者に課される


 クラリス嬢も続ける。


 「せめて除湿結界の一つくらい……設置してあげたいんです」


 そして判決。


 神殿は“聖水管理室”に定期的な乾燥魔法の導入と、精霊専用の“癒しのタオル部屋”を設けることとなった。

 湿度の高い環境下における霊的活動への配慮を怠ることは、“契約不履行の一環”として認定されたのだ。


 帰り道、ミスティは俺の肩にふわっと浮かび、ぼそっと呟いた。


 「今度、温泉の相談もいいか……?」


 「温泉は労働じゃなくて、リラクゼーションだからな。喜んで」


 湿った風がやさしく吹いた気がした。



 俺の相談所のドアが“ドスン”と音を立てて開いた時、なぜか床が微かに揺れた。


「……高野センセイ、たいへんです……!」


 やってきたのは、田舎領の農地管理をしている地霊族の青年・グランだった。

 頭には土くれのような巻き角、顔には深刻な疲れ……というより寝不足の気配。


「うちの精霊……ずっと寝てるんです……! 収穫期なのに、まったく起きません!」


 「……で、どうして俺に?」


「『労働時間に“昼寝”を含めるべきか、法で争いたい』って言ってて……」


 ……いや、それ労働争議っていうか、お昼寝争議じゃねえか。


 詳しく話を聞けば、彼の農地では土の精霊“ドルム”と契約し、地力の調整や根の育成などを担ってもらっていた。

 だがそのドルム、ここ最近──


 「昼は地中で眠って、夜も眠って、深夜だけ“夢うつつ”で動くって感じで……」


 完全に怠惰の化身。


 そして当日、地方農業裁判所(※なんでもあるなこの異世界)での調停が始まった。


 法廷の床下から、もごもごと低い声が響く。


 「……寝てるんじゃない……“土と一体化”してるだけ……それが、俺の働き方……」


 「土と一体化って、それただの土に戻ってるだけじゃ……」


 「気持ちよく眠ってこそ、最高の耕地が生まれるんだよ……分かってねぇな……」


 開き直ってる! 完全に!


 俺は六法をめくり、“精霊就労義務”の条文を引き合いに出す。


 「契約精霊は、契約者の指示に応じて“誠実にその役務を果たす”義務がある。

  “泥状化・休眠・融合”は役務不履行に該当する可能性が──」


「違うな!」


 突如、土の精霊ドルムが地面から“にゅっ”と上半身だけ出して叫んだ。


 「俺は、働いてる。“寝てるように見える”のは、地中を癒し、根に歌を聞かせ、地層の声に耳を澄ませてるんだ!」


 「……それ、どうやって証明すんだよ」


 結局、俺が仲裁案として提示したのはこうだ:


「睡眠型労働契約(通称:ドリーム契約)」を新たに作成


精霊が“休眠”中も効果が発生することを“検証魔術”で確認


ただし、週に一度は地上に出て“目視報告”を義務化


 ドルムは眠そうに、だが嬉しそうにうなずいた。


 「……働き方に……多様性……」


 帰り際、グランが小声でつぶやいた。


 「……土の精霊って、働いてないんじゃなくて……深すぎるんだな、色々と」


 俺は肩をすくめる。


 「精霊も人間も、“寝ること”は悪じゃないさ。

  問題は、それを“説明なしにさぼること”だ」


 と、その瞬間、相談所の前で誰かが倒れ込んできた。


 「先生ぇぇぇっ! 風の精霊が“突然の有給”と書き置きを残して逃げましたぁ!」


 また精霊だよ……!



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