表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/65

【第14話】 『蘇生魔法で“よみがえった婚約者”、遺産相続どうなる!?』

 この世界に来てからというもの、スライムの労災からドラゴンの借地権まで、法律の適用範囲がどんどん拡張されていっている気がする。


 そして今回。

 俺のデスクの前で、今にも泣きそうな顔で立っていたのは、控えめな服装の令嬢と、金髪で妙に爽やかな男だった。


「こちらが依頼人のアリア嬢。故レオン様の婚約者でして……」


「“故”って、俺生きてるんだけど」


 いや待て。

 “故”って言っておきながら、当人が隣で生き生きと自己紹介してるって、どういうことだ。


「俺、実は先月一度死にまして」


 サラッと言うな。


「冒険中に毒矢を受けて即死だったんだけど、アリアが泣きながら蘇生魔法かけてくれて──」


「はい、命が戻ってきましたの!」


「それで?」


「問題は……その後でして」


 アリアが差し出したのは一通の封筒。

 “レオン・アルステッドの遺言状”と記された公的文書だった。


 要約すると、こうだ。

 レオンは死の直前に「全財産をアリアに譲る」と書いた遺言状を残した。

 だが、現在は生き返ってしまっている。

 そして、なぜかその遺産(屋敷、馬車、預金等)が、アリア名義になってすでに登記済み。


 問題は、「生き返った本人が“財産返して”と言い出してしまった」ことだ。


「いや、誤解しないで! 俺がアリアを疑ってるわけじゃなくて、ただ……俺の財布の中身が、最近ずっと“空”なんだ……」


「わたくしは、レオン様のために使っただけですわ! 遺品整理と追悼式と、あと……新しいティーセットとドレスも少し……」


 やや怪しい支出内容が出てきたが、ここは法的に整理しよう。


 裁判所。

 原告:レオン(生者)

 被告:アリア(蘇生者)


 問題の核心は、「死んだことに基づいて発動した遺言の効力は、蘇生後にどうなるのか」という前代未聞の事例。


 俺は異世界六法・相続編を開きながら主張する。


「蘇生は医学的には“生命の回復”であるが、法律上は“死亡の事実”をいったんもって確定した後、財産が移転されている。

 この場合、“復活”があっても、遺言執行は有効とされる余地がある。だが――」


 俺はアリアの出費明細を掲げた。


「それが“追悼目的”を逸脱し、個人的贅沢に使われていた場合、“不当利得”の主張が可能だ」


「そんな……わたくし、てっきりもう……彼とは……」


「ティーセット代はともかく、馬車にミンク毛皮シートはやりすぎだと思う」


 判決。


「本件、蘇生前の遺言執行は有効とみなすが、一部贅沢品の支出については不当利得と認め、金貨200枚相当の返還を命ずる」


 アリア、肩を落とす。

 レオン、安心しきった顔で俺を拝んでくる。


「……で、レオン。あんた、アリアさんとどうすんの?」


「えっ」


「彼女、あんたをよみがえらせるくらい想ってたんだぞ?」


 俺の言葉に、二人とも顔を赤くした。


「わ、わたくし……本当に、死んでしまうなんて思っていなかったのですの。でも……レオン様が……」


「アリア……ティーセット、買い直すよ」


「まあっ……!」


 いやもう付き合っちゃえよお前ら。


 その夜。

 六法全書を棚に戻しながら、俺はふと考えていた。


 法は生きている者のためにある。

 だが、死んだと思った者が戻ってきたとき……法は、愛や執着の“境界線”を裁くことになる。


 そういうのって、案外、弁護士でもドキドキするもんだ。



 ある春の午後。

 珍しく相談所が静かだったところに、懐かしい顔ぶれが並んでいた。


「こんにちは、先生。……また、お世話になりますわ」


 優雅に一礼するアリア嬢の隣で、金髪の青年――レオンが、少し照れくさそうに頭をかいていた。


「……また、って言うのも変ですけど、今度は訴訟じゃないんで安心してください」


「そりゃ良かった」


 俺は二人をソファに案内しながら、茶を淹れた。

 こうして面と向かって並んでいるのを見ると、以前より距離がずいぶん縮まった気がする。


「で、どういったご用件で?」


「再婚約の手続きについてですわ!」


「はい、僕からも。ちゃんと、正式に彼女と“もう一度”婚約契約を結びたいと思いまして」


「……そっち方面か。そりゃ珍しい」


 異世界の法律では、“死亡による婚約契約の解除”は自動成立と見なされる。

 たとえ蘇生されたとしても、法的には“別人として復活した”扱いになる場合がある。

 つまり、死の瞬間にいったん法的関係がリセットされてしまうのだ。


 感情ではつながっていても、法の世界ではいったん“ゼロ”になる。

 なんともドライな話だが、俺はその制度にも一理あると感じている。


「再契約には、本人同士の署名と魔力押印、それに証人ひとりが必要です。今日は、そのための相談ってわけですね?」


「はいっ。書類も持ってきてますのよ!」


 アリアがバッグから取り出したのは、俺が以前提出用にテンプレート化しておいた“再婚約契約書”。

 それをきっちり印刷し、花柄の封筒に入れて持参してくるあたりが、らしい。


「ここの“共有財産の取り扱い”欄、細かく書かれてるんですけど……えっと、“紅茶セットとティーサービス一式は共有”って……」


「その件は譲れませんの♡」


 レオンが「はい」と即答していて、俺は思わずふっと笑った。


 ふたりが向き合って契約書に署名し、魔力印を押す。

 その様子を、俺は“証人”として見届ける。

 ……なんだろうな。これまで何百と契約書に立ち会ってきたが、今回はちょっと、胸にくる。


「……終わりましたわ。これで、わたくしたち、正式にまた婚約者同士ですのね」


「うん。今度は“生きてるうちに”ちゃんと、大事にするよ」


 その言葉に、アリアがそっと微笑んだ。

 たぶん、死から戻ってきたあの瞬間よりも、今のほうがずっと、幸せそうだった。


 ふたりが帰った後、俺は机の書類を片付けながらふと思う。


 生死の狭間を超えて、それでももう一度一緒にいたいと思える相手がいる。

 それって、やっぱり羨ましいもんだ。


 いや、俺は今は仕事に集中するべきだ。

 恋愛感情に引っ張られて判断を誤るようじゃ、弁護士失格だ。


 ──そう思った矢先。


 デスクの上に、アリアからの手紙が一枚残されていた。


「次に遺言を書くときは、“一緒に眠る”って書かせますわ♡ ふふふ」


 ……ほんとこの世界、油断も隙もない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ