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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第12話】 『王国VSパン屋〜魔法特許を奪われた!?〜』

 特許ってのは、異世界でもやっぱり厄介な代物らしい。ましてや、魔法が絡むとなれば話はさらにややこしくなる。


「お願いです、弁護士さん……!」


 朝一番、相談所のドアを勢いよく開けたのは、粉まみれのエプロンを巻いた青年だった。名はノア。王都の南にある小さなパン屋の店主だという。


「俺、開発したんです。魔力で発酵させて、焼き上がりと同時にバターの香りが広がる……『香気膨張魔法』ってやつを!」


 パンに魔法……いや、それ以前に“香気膨張”というネーミングセンスの方が心配になる。


「で、それがどうした?」と俺が聞くと、彼は顔を真っ赤にして叫んだ。


「それを! 王国の錬金術師庁が勝手に“発明登録”したんですよ! 俺の魔法、俺のパンなのに!」


 なるほど──つまり、パン屋の魔法が国家にパクられた、ということだ。



 数日後、王都中央裁判所。

 俺とノアは、国家を相手取って訴訟を起こしていた。相手は“知的魔術担当官”なる人物。見た目は、いかにも“煙に巻いてくる”感じの中年魔導士だ。


「ノア=ミルデン氏の魔法は、既に魔法図書館に記録されており、先行技術として認定済みです」


「それ、俺が店の裏で焼いてたときに勝手に測定魔法使って、書き写しただけだろ!」


 ノアは憤慨していたが、実際のところ法的には微妙だった。異世界特許法第八条──“無許可測定による知識の記録も、先行技術と見なされる”とある。


 とはいえ、黙って見てるわけにもいかない。


「証拠はあるのか?」


 俺の問いに、ノアは誇らしげにパンを差し出した。


「これが、俺の“証拠パン”です!」



 ……証拠として、パン。

 正直、弁護士人生(異世界込み)でも初めての経験だった。


 法廷に漂う、バターの香り。

 焼きたてのパンが証拠品として回されると、傍聴席から「お腹すいた……」という声すら漏れる始末だ。


「この香りには、記憶誘導効果があります。特に幼少期の食体験に関連する香気は……」


 ノアが熱弁を振るう。


「……おふくろのパンの匂いが……」

「昔の台所……思い出した……」


 感情に訴える手段は、時に法廷を揺さぶる。

 加えて、ノアの魔力式メモや研究映像も提示され──


「異議なし。本件特許登録、撤回に同意します」


 王国側は、あっさりと白旗を上げた。



 裁判後。


「ありがとうございました! 俺のパンと魔法、ちゃんと守られました!」


 ノアが嬉しそうに笑う。


「ただし、香りで攻める訴訟は今回限りな」


 そう釘を刺した俺に、ノアは焼きたてのパンを差し出した。


「じゃあ、これは“勝訴記念の試食”ってことで!」


 ……うん、悪くない。


「……次は、カレーパンで頼む」



 裁判が終わって数日後、俺の相談所にあのパン屋の青年──ノアが顔を出した。


「先生、今日はパンのことで来たんじゃないんです」


 いつものエプロン姿なのに、どこか浮ついた様子だった。


「……惚れました。あの、魔法図書館の特許魔女に」


 リヴィア=ミーレ。国家側の証人として出廷していた、あの冷静沈着で有名な知的魔術担当官補佐。


 ……よりにもよって、そこか。


「正直、最初はムカついたんですけど……でも、あの人、パンの香りを嗅いで少しだけ微笑んだんです。それが忘れられなくて」


 ノアの熱量は完全に恋する青年そのものだった。


「で、どうする気だ?」


「パン、焼きます」


 即答だった。



 魔法図書館の裏手、職員通路脇にノアが仮設した“香気封じテント”。

 俺は立会人としてつきあっていたが……内心、まさかここまで本気とは思っていなかった。


「リヴィアさん、来ると思いますかね……」

「来なかったらパンは俺が食う」


 ノアは黙々と生地を捏ね、香りを仕込んだ。


「できた……これが『恋文パン第一号』です」


 見た目はハート型。香りは甘く、どこか懐かしい。

 さらに彼は中に“魔力記憶式メッセージ”まで仕込んでいた。


「食べると、俺の気持ちが脳内に届くんです。内容は……えっと、秘密ですけど」

「いや、内容が大事なんじゃないのか」


 そんな会話をしていたら──


「……パンの香りで、呼ばれた気がしました」


 静かに現れたのは、まさしくリヴィア本人だった。

 制服姿のまま、凛とした表情でパンを見つめる。


「香り、変わりましたね。前は……懐かしかった。今は……甘いです」


「俺の想いです」


 ノアはパンを両手で差し出した。


「記録には残せなくても、心に……残れば嬉しいです」


 リヴィアはパンを受け取り、そっと目を閉じた。


「……記録は削除できます。でも、記憶は……削除できません」


 それが、彼女なりの“YES”だった。



 数日後、俺の机に一通の手紙が届いた。

 魔法図書館からで、差出人はリヴィア=ミーレ。


《特許撤回処理、完了しました。付記:パン、美味でした。また記憶したくなったら、焼きに来てください》


 なるほど。

 愛は記録できなくても、香りで心に残すことはできる。


 ──異世界恋愛法則、意外と悪くない。

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