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『異世界で行列の出来る法律相談始めました〜DV裁判中に刺されて死んだ俺、目覚めたら魔法も剣もない世界で六法全書が最強だった件〜』  作者: カトラス


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【第10話】 『その召喚契約、無効です! 魔族アルバイト詐欺を許すな』

 俺の名前は高野誠一。王都法務街で「異世界法律相談所」って看板掲げて、毎日とんでもない相談者を迎えてる。


 ……でも、今回の相談は、その中でも群を抜いてた。


「……で、君は“転生希望の魔族”ってことで合ってる?」


「はいっ! 僕、マルムって言います! 下級魔族なんですけど、召喚師に『働けば人間に転生できる』って言われて、五年も皿洗いしてました!」


 魔族、皿洗い、転生。

 この三単語が同時に出てくるあたりで、俺の脳内六法がフル回転を始めた。


「……五年……労働契約書、あるか?」


「あります! 血で書かされた紙が……」


 マルムが差し出した羊皮紙には、乾きかけた血文字がにじんでいた。


《契約者マルムは、当方に忠誠を誓い、労働義務を果たすことで、魂の浄化および人間への転生の権利を得るものとする。》


「うさんくせぇ……」


 俺は異世界六法全書・改を開きながら、眉間を揉んだ。


「“転生の権利”なんて国家でも発行してねぇぞ。個人で発行とか、詐欺もいいとこだ……」


 よし。これは明確な契約詐欺と労働搾取だ。



 翌日、王都中央裁判所。


 召喚師ザラキ=ネメシス。黒いローブに骸骨の刺繍。

 こいつ、見た目からしてアウトだ。


「我は偉大なる転生管理者……冥界の使徒ザラキである」


「はいはい、“アルバイト詐欺常習犯”として記録しときます」


 俺はいつもの調子で、六法のページをぺらぺらとめくる。


「で? この血契に法的効力があると主張する根拠は?」


「血こそが魂の証。我が名を刻むことで、魔族は我に従属するのだ」


「異世界契約法第十二条では、“魔的存在による生得的従属義務”は、意思確認なければ無効って明記されてる」


「な、なにぃ!?」


「しかもこの契約、労働時間の明記なし。報酬は“転生”っていう架空概念。はい、異世界労基法もアウト」


「ぬぅ……ぐぬぬ……!」


 とどめに、証人を呼ぶ。


「スライム・ナメさん、証言願います」


 ぬるっと現れたのは、液体状の魔族ナメさん。


「……あのとき、ずっと……おれは……泡立て器、だった……」


 その一言が法廷に響いた。

 失笑、驚愕、そして静寂。


 そして──


「判決。本契約は詐欺および労働法違反につき、無効とする」


 ザラキは血反吐を吐いて崩れ落ち、押収された“転生カタログ全十巻”が証拠として提出された。



 裁判後、マルムがぴょこんと頭を下げてきた。


「ありがとうございました! これで自由になれました!」


「よかったな。でも……人間への転生は、まぁ今は保留ってことで」


 横で、ナメさんがぬるっと頷いた。


「……皿、二度と洗わない……」


 俺の六法と魔族たちの涙で、今日も法廷はぬるっと平和だった。


 おれの名前はナメ。スライムだ。粘度と表面張力には、ちょっと自信がある。


 だけど、五年間も……泡立て器だった。


 毎日、熱湯鍋の前でくるくる回され、泡を立て、怒られて、叩かれて──

 「もっとキメ細かくしろ」「気泡が大きすぎる」って、それ、具体的にどうすればいいのさ。


 握っていたというより、もう“道具の一部”だった。


「……きょうも、泡……」


 鉄鍋の縁からぽつんとそう漏らした時、おれは少しだけ、自分の“ぬるぬるした生”について考えたんだ。


 そんなときだった。厨房のすみに貼られてた紙切れが、視界の端に入った。


《異世界法律相談所──どんな悩みも六法全書が救います》


「……ろうどう……そうだん……?」


 それが、おれの人生ぬるぬるを変える、第一歩だった。



「はじめまして。えと、ナメさん、ですね?」


 王都の端っこにある事務所で、ヒトの弁護士がそう言った。名は──高野誠一。

 なんか、話すたびに六法全書のページをめくるクセがある変なやつだ。


「……泡、たててました……皿、あらってました……けど……なにも、もらって、ないです……」


「給与はゼロ? 勤務時間は?」


「いつも……昼と夜……ずっと……」


 真剣に聞いてくれた。

 こんな、ぷるぷるしただけの話を。


「これは……労基法違反ですね。裁判、やってみましょう」


 “裁判”──その言葉は、ちょっとこそばゆくて、でも熱かった。



 裁判当日。


「証人、スライム・ナメ氏」


 名前を呼ばれ、証言席にぬるっと滑り込んだ。傍聴席から失笑が漏れる。

 けど、おれは、がんばった。


「……あのとき……ずっと……おれは……泡立て器、だった……」


 静まり返る法廷。

 誰かのくしゃみだけが、変に響いた。


 でも、そのひと言が決め手になった。

 ザラキ=ネメシスの“召喚契約”は、無効。

 おれの過去は、ようやく終わったんだ。



 裁判のあと、高野がぽん、と書類でおれの表面を叩いた。


「よくがんばりましたね、ナメさん」


「……泡……もう、しない……」


 その後、おれは“液体調味料管理補助員”って仕事を得た。

 酢とオイルの管理は、粘度と滑りが命。まさにスライム向き。


「おれ……泡立て器、卒業したんだ」


 そう言ったら、新しい仲間たちは笑わなかった。

 むしろ──


「ナメさん、粘度測定お願いしまーす!」


「……了解」


 ぬるっと背中を伸ばしたおれの中に、少しだけ、あったかいものが混じっていた。

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