丸い小石のきらきら。
丸い小石のきらきら。
とっても綺麗だね。
あなたは、誰?
間宮涼太が森の中を白い虫取り網を持って歩いていると、森を抜け、小さな清流の流れる川のところに出た。
そこには白い石ころや、大きめの岩が転がっているようなところで、目的のカブトムシはいなかったけど、その清流の中には鮎が二匹泳いでいるのが見えた。(それがわかるくらいに、その川の水は青く澄んでいた)
涼太はそこで、しばらくの間、魚を観察して、それから森の中にカブトムシを取りに戻ろうとした。でも、その川のところで、涼太は小さな綺麗な石を拾った。
とても綺麗な丸い、白い石だった。
その石を見つけたことで、涼太はもう少しこの場所で、こんな素敵な石を拾ってみようと思った。
そして、その清流の流れに沿って、涼太は川の上流の方向に移動をした。(そっちのほうが自分たち家族が泊まっているコテージに近かったからだ。あまり遠くには行かないようにと、涼太は両親からきつく言われていた)
「あなたは、誰?」
「え?」
すると涼太は少ししてそんな声をどこからかかけられた。
涼太が麦わら帽子をかぶっている顔を石ころだらけの地面からあげて見ると、白い大きな岩の上に、腰を下ろしたまま、白い日よけの傘をさして、じっとこっちを見ている一人の、青色の花の模様のワンピースを着た、すごく綺麗な顔をした女の子がいた。
どうやらその女の子が、涼太に声をかけてきたようだった。
「初めまして。えっと、そこのコテージに泊まっている間宮涼太です」
涼太はそんな挨拶を女の子にした。
すると女の子は器用に動いて、大きな白い岩の上から石ころだらけの地面の上に白いサンダルで「よいしょっと」と言って降りてくると、そのまま涼太の前まで移動をして、「初めまして。私は恋。秋月恋です」とにっこりと笑って、涼太に言った。
それが二人の(……夏の間だけの、ほんの短い間の)初めての出会いだった。
「涼太くん。私とお友達になってください」と恋は言った。
恋は笑顔でその小さな白い手を涼太に向けて差し出してくれている。
でも、涼太は恋の美しさに見とれてしまった。
そして、はっとなった涼太は思わず、せっかく私と友達になってください、と言ってくれている恋のことを置いてけぼりにして、そのまま、その場所を逃げるようにして、走り去ってしまったのだった。
「あ」
と言う恋の声が聞こえた気がした。
でも、涼太は走ることをやめずにそのまま森の中に入って、そして、今歩いてきた道を戻って、自分たち間宮家の家族が泊まっているコテージまで、息を切らせて戻ってきてしまった。
「あれ? 涼太。どうかしたの?」
「涼太。カブトムシ取りに言ったんじゃないのか?」
涼太のお母さんとお父さんが、コテージと一緒になっている、庭のキャンプ場でバーベキューの準備をしながら涼太に言った。
「……うん。カブトムシはもういいんだ」
なにかを隠すようにして、にっこりと笑って、涼太は言った。
それから涼太はコテージの中に戻って、からっぽの虫かごをテーブルの上において、冷たい麦茶を飲んで、それからソファーに腰を下ろして、戦利品の綺麗な丸い白い石をポケットから取り出して、それを見て、そして、ようやく、川のところであった秋月恋のことを、考えることができるようになった。
……あの子。すっごく可愛かったな。
そんなことを、涼太は思った。
丸い小石のきらきら。 終わり