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7.初めての外食

王都に向かう途中、俺達はトルードの町を通り抜ける事になる。


その町には大闘技場があり、年に一度大きな大会が開かれているらしい。その時期になると国中から冒険者達が終結し、互いに技を競い合うようだ。

しかし今はその時期ではないので、町は平常時の賑わいを保っている。



闘技大会が開催される町だからかは知らないが、どうもここに住む町人達は喧嘩っ早いようだ。

あちこちでいざこざを目にしたユージは、こそこそと気配を隠すように町を歩いていた。


「僕、喧嘩は嫌いなんだ。こんな町はなるべく早く通り抜けよう……」


そう言って足早に歩くユージの首根っこを、俺は後ろから捕まえる。


「うわっ!な、何だよしょこら!」

「腹が減った。この町で何か食っていこう」

「え?あ、ああ、そうだね。確かに、お腹はすいたね……」


今朝はテントの前で、焼いた野草とキノコを食べただけなので、俺もユージも腹を鳴らしながら歩いていたのだ。


俺とユージはあれこれ話し合い、結局肉料理を出す飯屋の扉を押し開けた。



「しょこら、お店で食べるの初めてだよね。ナイフやフォークの使い方は前に教えたから分かるよね?」


席に着いたユージは俺にこそこそと耳打ちをする。

俺が何か変なことを仕出かさないか、気が気でない様子だ。


というのも、俺がファビネの冒険者登録で面談を受けた時の様子を、ユージはギルド副長のアンナから聞かされていたらしい。


「あ、あそこの席が空いて………って、ちょっと待った!!」


今度はユージが俺の首根っこを摑まえる。

俺は肉を食っている人間の男に近づき、そいつに向かって大きく手を振りかぶっていたのだ。


「しょこらしょこらしょこら!!ストップ!!攻撃しちゃだめだよ!!」

「なんでだよ。他人の獲物を横取りするのは当然だろ。あいつを倒せばいいんだ」

「だだだ駄目だってば!!注文したらちゃんと食べ物は出てくるから!!」



ユージは俺をほとんど引きずるようにして、空いている席まで引っ張って行った。

俺はズルズルと引っ張られながら、ジトっと男が食っている肉を見つめ続ける。


屈強な男はポカンと口を開けて、俺の不審な動きをただ見つめていた。



「はあ………。ほらしょこら、ここにメニューがあるから、好きなのを選んで……」

「あいつが食ってる肉がいい」

「じゃ、じゃああれを注文しよう。ほら、もうあの人を見るのは止めなよ」



数分後、俺とユージの前に、焼きたての分厚い肉が運ばれてくる。

俺達はそれを見下ろして思わず目を輝かせた。


「すごく美味しそうだね!いただきま……って、しょこらしょこら!!」


俺はナタを振り下ろす勢いで、ダーーーンとナイフを肉に突き刺す。

それをそのまま持ち上げて口に運び、歯で食いちぎって頬張った。


周囲の客や店員は、さっきの男と同じようにポカンと口を開けて俺を見つめている。



「ちょっとしょこら、ナイフで切ってからフォークで食べるんだってば……」

「フン、そんな面倒なことしてられるか。肉がまずくなるだろ」

「ま、まあ……そうやって食べたいなら、無理にとは言わないけどさ……」


ユージは作法を気にするというより、俺が変に目立って獣人であることが露見することを恐れているのだ。

しかし俺は細かい事は気にしないので、結局最後までそのやり方で肉を食いつくしたのだった。



店を後にすると、ユージは力が抜けたようにほっとため息をつく。


「ああ、どきどきした……。もう、しょこらは本当に大胆なんだから……」

「しかしあの肉は悪くなかったな。狩で獲った臭い肉とは大違いだ」

「うん、すごく美味しかったね!しょこらと一緒に食べられて、僕も嬉しいよ」


俺の言葉を聞いたユージは、嬉しそうにパッと顔を輝かせて微笑んだ。



結局俺達はその日、トルードの町で一泊することになった。

王都までの道のりはまた野営になるので、それまでにあと一回ぐらいは店で食いたいと俺が希望したからだ。


気性の荒い町人とは関わらないようにしながらも、俺達は町中を歩き回っては、色々な店を覗き込んだ。


武闘派の町だけあって、武器商店がたくさん軒を連ねている。

人間の町で売られている物は、俺に取ってはどれも珍しい物ばかりだった。



「おい。なんだってキングスパイダーの糸で作ったマントなんか売ってるんだ」

「え、だって、それって高級品だよ。それを着ると防御力が上がるんだってさ。でもやっぱりちょっと高いね……」

「フン、俺はマントなんか必要ないぞ。そんなに欲しけりゃキングスパイダーを一匹捕まえて作らせりゃいいだろ」

「ええっ、そんな簡単には捕まえられないでしょ……」



物珍しさから時間を忘れてあちこち歩き回っていると、いつの間には日は傾いていた。

夜の帳が下り、町の中は黄色い灯で満たされる。


人々は飯を食い、酒を飲んで豪快に笑い合っていた。



「うわ、もうこんな時間だ。そろそろ晩御飯を食べて、宿に行こうか」

「おう。またあの肉が食いたい」

「あはは、分かったよ。じゃあもう一度あのお店に行こう!」



飯を済ませて満腹になった俺達は、その日に滞在する宿へと向かう。

町のあちこちに宿があるので、急な滞在でも問題なく部屋を取る事ができた。


「えっと、二部屋で……」

「なんでだよ。一部屋でいいだろ」

「ええっ、でもしょこら、それだと一緒に寝ることに……」

「今までも一緒に寝てただろ。宿に金を使うぐらいなら飯に使えよ」


俺は店でユージが金を払う姿を見て、肉の対価には結構な金を要求されることに気付いていたのだ。

今まで森で一緒に寝たことだってあるのだし、宿の部屋が同じでも何ら問題はないはずだ。


「お金なら、今まで頑張って貯めてきたから、そんなに心配しなくても……。まあいいか、確かに無駄遣いは良くないしね……」


結局ユージは一部屋分の料金を払い、俺達は共に部屋へと向かった。



「おお、何だこれは………人間はいつもこんなとこで寝てるのか」


部屋に足を踏み入れて、心地よさそうなベッドを目にして俺はしばし感動していた。

しかも体を洗う洗い場や、寝巻まで用意されている。


「今までずっと野営だったもんね。しょこら、先にお風呂に入っていいよ!」


俺があれこれ感動する度に、ユージは俺以上に嬉しそうな顔をした。



久々に俺が猫耳と尻尾を解放すると、ユージは目を輝かせる。


「改めて見ると、やっぱりすごい………。………ねえしょこら、ちょっとお願いがあるんだけど……」

「何だ」

「えっと、その……。ちょっと耳を触らせて」

「却下だ」

「ええっ、じゃ、じゃあ尻尾を……」

「もっと却下だ」

「そんなあ、お願い、僕一度触ってみたくて……」



じりじりと近づいて来るユージの頬を、俺はパーーーンと猫パンチした。




結局俺達は順に風呂に入り、俺は肌着のまま(寝巻を着てみたがどうも性に合わないのだ)、ユージは寝巻を着てベッドに潜り込む。


二人ともすっかり疲れていたのと、美味(うま)い肉で腹が満たされていたので、そのまま朝までぐっすりと眠り込んだ。


俺は夢の中でも、ユージと一緒にあの肉を頬張っていた。

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