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55.再び王都へ

「こ、国王様が、殺されたって………」


ユージは驚愕して、小さく肩を震わせながら繰り返す。


「し、しかも、獣人達に………?待ってよ、そんな、一体どうして………」


するとナユタが背後からユージの肩に手を置き、自らも俺の耳にくっついた魔道具に向かって尋ねる。


「ライアス君、それで王都は今どうなっているんだ。国王が殺されて、獣人達が王宮を占拠でもしているのかい?」


その質問を聞いて、ユージとアイリーはさらに恐怖で顔を蒼くして顔を見合わせる。

そんな事になれば、人間と獣人の軋轢はもはや修復できないほどに深まってしまうだろう。


しかし残念なことに、事実はまさにその通りだった。



「ああ、その通りだよ。魔王復活の混乱に乗じて王都に攻め入るべく、一部の獣人達が水面下で準備を進めていたらしいんだ。だが実際は魔王復活間近になっても、王都の注意が獣人達から逸れることはなかった。それで獣人達はしびれを切らして、強行突破に踏み出したんだ」



ライアスの説明は、ユージの恐れや俺の懸念をさらに助長させるだけのものだった。



「王都のギルドが緊急指令を出して、国中の小さな村や集落を襲っていただろ。それでだいぶ戦力を裂いちまったようで、王都周辺の警備は手薄になってたんだ。そこへ獣人達の武装集団の強行突破だ。……それでも、まさか王宮が攻め落とされるなんて考えてもみなかったぜ。とにかくしょこら達は、エド町から出ない方がいい。今こっちへ来てしょこらのことがバレたら、それこそ袋叩きに……」


「いや。俺達もそっちへ行く。おいライアス、お前王宮にいるミーシャって奴を知ってるか」


俺がそう言うと、ユージは隣で驚いた声を上げる。


「だめだよ、しょこら!!ライアスの言う通りだよ、今王都に行くのは危険すぎるよ!」

「問題ない。忘れたのか、俺は一応まだ勇者だぞ。それよりライアス、どうなんだ。ミーシャを知ってるか?」


ライアスは多少混乱したようだが、すぐに俺の質問に答えた。


「ああ、知ってるよ。研究費を融通してくれるし、王室の臣下の中ではまだ話の分かる奴だからな。……でも何で急にそんな事聞くんだ?しょこらはあいつに会ったことがないだろ?」


「説明は後だ。何とかそのミーシャに連絡が取れないか」


「連絡……。それなら、ミーシャにもこの通信用魔道具を渡してあるから、魔道具の回路を繋げれば何とか……。通信を制御してる大本の魔道具の方をいじらなきゃなんねえから、一時間ぐらいかかるぞ……っておいしょこら、まさかお前、王宮に乗り込む気じゃないよな?」


「気にするな。それよりミーシャと回路を繋げてくれ。一時間後に連絡する」



俺がそう言って通話を切ると、ユージは俺の腕をぎゅっと掴んで再び声を上げる。


「しょこら、一体何を考えてるんだよ!王都に行くなんて無茶だ、今度こそ何かあったら……」


しかし、再びナユタがユージの肩に手を置き、落ち着いた声で言った。


「ユージ君。しょこら君には、何か考えがあるみたいだ。今はしょこら君を信じよう」

「でも………」



ユージはぐっと言葉を詰まらせてナユタを見つめ返すが、小さく微笑むその顔を見て、少し落ち着きを取り戻したようだ。

再び俺に向き直り、力を込めて言った。


「分かったよ。でも、また一人で行くなんて言わないでよ。僕達も一緒に行くからね」


「おう。で、お前も一緒に来るんだぞ」


俺がアイリーに向かってそう言うと、アイリーは意外な顔をした。

わざわざ個別に声をかけられたことに驚いているのだ。


「は、はい、もちろん私も一緒に行きます!」


それでもアイリーは、すぐにそう答えて頷いた。




一時間の後、俺は再びライアスに魔道具を通して呼びかける。


「ああ、しょこら。言われた通り、ミーシャと繋げておいたぜ。これから転送するから、ちょっと待ってろよ」



そう言うとライアスとの通信は途切れ、しばらく魔道具の向こう側では不規則な音が小さく響き渡る。

その音は高くなったり低くなったりして、たまに耳をつんざくような細く鋭い高音を響かせた。



そして数秒の後、俺の耳にミーシャの声が飛び込んでくる。



「……こんにちは。どういったご用件で、私を呼び出されたのでしょうか」

「白々しい挨拶は不要だ。お前、まだ王宮の中にいるのか」


この時代で俺とミーシャが口をきくのは初めてだ。

にも関わらず俺が馴れ馴れしく話しかけるので、ミーシャは少なからず意表を突かれている様子だ。


そして注意深く、俺の問いに答えた。


「……はい。国王は殺され、他の王族や臣下達は皆地下牢に入れられています。宮殿内の状況は残念ながら私にも分かりません」

「お前なら闇魔法を使って、そこから抜け出せるだろ」


俺の問いに、ミーシャは再びゆっくりと返答する。


「……ええ。無論、不可能ではありません。それで、貴方は私に、一体何をしてほしいのですか」


「四百年前にウィルの奴が開発した転移魔法陣が、王宮のどこかに保管されているだろ。それを使って俺達を王宮まで送り届けてくれ。今俺達はエド町の兵舎の診療所だ」



俺がそう言うと、魔道具の向こう側では沈黙が下りた。

そして俺の隣ではユージとアイリーが、訳が分からないというような顔をしている。


ナユタだけが、ただ小さく微笑んでいた。



「………ウィルギリウス様のことをご存知とは、貴方はあのしょこら様なのですね」

「おう。他言は無用だぞ」

「もちろんです。すぐに手配しましょう。十分後に迎えに参ります」



そう言ってミーシャは通話を切った。



「しょこら、僕、あまり意味が分からないんだけど……一体、何の話を……」


戸惑うユージを見て、俺は一瞬考える。


女神の奴は、俺の記憶が戻ったことをできるだけ伏せろと言っていた。

人間が必要以上に知りすぎることを、神王とやらは良く思わない。


知りすぎてしまった人間は、神による自然の摂理が働き、この世界から排除されるかも知れないのだ。

四百年のウィルがその危機に陥ったように。


最も、ナユタはなぜか例外のようだが。



「気にするな。勇者になった時に、神から余計な知識を与えられただけだ」


俺はそう言ってとりあえずその場をごまかした。


ユージはまだ困惑していたが、それでもそれ以上の質問はせず、ただこくりと頷いた。


「分かった。しょこらを信じるよ」




そして十分後、約束通りミーシャは、転移魔法を使って俺達の目の前に姿を現す。


それはこの世界に唯一存在する転移魔法陣で、四百年前にライアスの前世であるウィルが発明し、秘密裏に王宮で保管されていたものだ。


突然目の前に現れたミーシャとその足元の魔法陣に、ユージとアイリーは飛び上がらんばかりに驚いた。



ミーシャは俺を見て、ユージを見て、ナユタを見る。

そしてその視線を、最後にアイリーの方へと向けて、そこでピタリと止まった。



「地下牢から抜け出して王宮内を確認しましたが、思った以上に芳しくない状況です」


ミーシャはアイリーから視線を逸らさずに言った。


「あちこちを獣人達が見張っています。……それにおそらく、獣人の中に数人、かなりの魔力を有している者達がいます。王宮が簡単に陥落したのもそのせいでしょう」


「そうか。で、獣人達の目的は一体何だ。この国の王にでもなろうってのか?」


俺が尋ねると、ミーシャはこくりと頷く。


「彼らの最終目的はそれです。王宮を占拠し、彼らのうちの一人が新しい国王となり、獣人を中心とした世界を作り上げるつもりです。これまでの人間と獣人の立場を逆転させるのです」



その言葉を聞いて、全員が一瞬沈黙した。

しかしそれでは、争いは永遠に解決しない。



正直、まだ神に良いように使われているようで癪ではある。

おそらく、未だに女神が俺を呼び出さないのは、残された勇者の期間を使って、何かをさせようという神王の意図があるのだろう。


それでも、この先も俺やユージ達が共に暮らしていくためには、今手を打つ他に道はなかった。



「あちらは危険ですよ。本当に行くのですか」


ミーシャの問いかけに、俺はこくりと頷く。

するとユージとナユタ、アイリーも続けて頷いた。



「それでは行きましょう。この魔法陣は王宮内部と繋がっています。……転移魔法陣のことは口外禁止ですよ。これには呪いがかけられていて、他言した瞬間に命を落とします。良いですね」



おそらくそれはミーシャが考えたただの脅しだ。


しかし効果は絶大なようで、ユージもアイリーもごくりと唾を飲み込み、無言で頷いた。



そうして俺達は転移魔法陣に乗り、再び王都へと向かったのだった。

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