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24.謎の獣人

ライアスの研究室に滞在した翌日は、朝から大騒動だった。



「この人、やっぱり変態だ!今朝起きたらこの人、こっそり寝てるしょこらの耳を触ろうとしてたんだよ!!やっぱり今すぐここを離れよう!!」


「なんでだよ、ちょっと近くで見てただけじゃねえか!これはれっきとした研究の一環だ!!」


「どんないやらしい研究だよ!!」



ユージとライアスは言い合いを続け、ナユタはそれを傍で見守りながら声を上げて笑っている。


「あははは、本当に面白いね君達は。ユージ君は、しょこら君の事となると我を忘れがちだね」

「でもナユタさん、この人は本当に変態だよ!」

「だからお前な、何回人を変態呼ばわりすんだよ!!」



俺はただ呆れて、研究室の中の魔道具をじっと観察したり、フンフンと匂いを嗅いでいた。


マルセルは相変わらずユージの隣にくっついており、アイリーは何やらよく分からないことをぶつぶつと呟いている。


「……そういえば私、ユージさんと二人で研究所に忍び込んで……あの時、一瞬だったけど手を握っ………それに、今思うと何度も目が合って………ど、どうしましょう………」



思い出し笑いならぬ、思い出し赤面をしている様子のアイリーを見て、俺は小さく舌打ちをした。


「おい、そういえば何だってお前がここにいるんだよ。宿屋の仕事はどうした」

「はい!?あ、ええ、えっと、私は実は冒険者で……ユージさん達に何かあったのだと思って、それで……」


突然話しかけられたアイリーは、多少動揺しながら答えた。


俺はフンと鼻を鳴らして、それからはアイリーには構わず目の前の魔道具に再び目を落とす。


しかし、ふと視線に気が付き隣を見ると、そこにはいつの間にか移動してきたマルセルがいた。


「……何だお前。何か用か」


俺がじろっと見返して尋ねるも、マルセルは何も答えない。ただ心なしか目をキラキラさせて、俺の猫耳をじっと見つめていた。





結局俺達は、しばらくライアスの研究室に滞在することにしたのだ。

ライアスが俺を研究したいというのももちろんあるが、それ以外にもライアスからは色々と学べることがあったからだ。


ナユタが最も興味を示したのは、ライアスが使った治癒魔法だった。



「本当にすごいね。勇者以外で使える人なんて、ここ数十年では一人もいないはずだ。それも君が独自に開発したのかい?」


「ああ、まあな。とは言っても、土台となる研究はすでに四百年前に完成してたんだ。色んな属性の魔法を操れる魔法陣についての研究がな。俺はその資料を参考にしただけだ。

……四百年前の時点で、魔力量が少ない人間でも使えるように造り上げられてはいたんだが、今の時代の人間は魔力を持つ者でも、その頃とは比べ物にならねえほど魔力量が激減してる。だからそう簡単に使いこなせる者はいないんだ。だからさらに改良を加えて、魔法陣の魔力回路を単純化してだな……」



ライアスは研究の話になると無限に話し続けた。

興味深げに耳を傾けていたナユタは、結局治癒魔法が使える魔法陣をライアスから学ぶことにしたようだ。


「すげえな、ナユタさんは。現代の人間にしては、すげー魔力量が多い。正直、これまで会ったどの人間よりも多いぜ。これなら治癒魔法も簡単に使いこなせそうだ……」



治癒魔法を起動する魔法陣を暗記し、ナユタがぶつぶつと呪文を唱えると、その右手から魔法陣が展開する。

しかし一度では上手くいかず、ナユタは何度も練習を繰り返していた。


再び魔法陣が書かれた紙に目を通しながら、ナユタはライアスに話しかける。


「けど、こんなに便利な研究なら、王室が君を放っておかないだろう。よく研究所に放り込まれずに済んでいるね」


「ああ、まあ……王室には、俺の研究の全部を伝えてる訳じゃない。今の王室は結構頭がおかしいから、あまり色々教えちまうと、研究を悪用されそうだからさ。それでも奴らが喜びそうな魔法や魔道具についてはいくつか報告してるんで、まあ自由にやらせてもらってるんだ」




そうこうしているうちに、昼時になる。

研究室は狭いので、俺達は裏庭に食卓を準備し、そこで全員で昼飯を食うことになる。


庭は柵で囲われており、柵の周囲には研究室と同じく結界魔法が施されていた。



「ああ、まともな飯は久しぶりだぜ……研究に没頭するとつい食うのを忘れちまって……」


ナユタが火を起こして猪の肉を焼いていると、ライアスはくんくんと匂いを嗅ぎながら感動したように言った。

ユージは肉をじっと見つめながら、何かに思いを馳せている。


「そうだ、そいうえば、エド町に行くと生の魚料理があるんだよね?早く食べてみたいなあ……でも、魔物で大変な状況だから、そんな事言ってられないか……」


「大丈夫だよ。人々は魔物と戦いながらも普通に生活しているし、宿屋だって開いているからね。エド町に行ったら一緒にお刺身を食べに行こう」


「本当!?やったね、しょこら!」


「あ、あの、私も一緒に行っても良いですか?せっかくですし、これからも仲間に入れていただけると……」


アイリーが顔を赤らめながら、ユージを見つめておずおずと尋ねた。

ユージはアイリーを見返して、にこっと満面の笑みになる。


「うん、もちろんだよ!アイリーも一緒に行こう!」


アイリーはさらに赤面して、こくこくと頷く。


「おい、何かこいつむかつくぞ」


俺はそんなアイリーを指差しながら、同意を求めるようにナユタに向かって言った。


「ええっ!?そ、そんな!しょこらさん、どうして……」


アイリーは驚いて俺を見つめて尋ねる。


ユージも不思議そうな顔をしていたが、ナユタだけは可笑しそうに笑っていた。




食事が一段落すると、ユージはこれまでずっと気にかかっていたことについて、ライアスに質問する。


「ねえ、ライアス。シーランス山岳以外にも、獣人はいるんだよね?……じつは僕達、最初に王都に来た時に、獣人らしき人影を見掛けたんだけど……」


ユージは、俺達が森で検閲を受けた時、たまたま飛び出してきたグリフォンの背後にいた、あの獣人の影のことを言っているのだ。

とは言っても、それを見たのは俺だけで、ユージは当時は何も気が付いていなかったのだが。


「ちなみに聞くけどさ、獣人には、魔物を操る力なんて、ないよね……?」


ユージは恐る恐る尋ねる。


その話に関しては初耳のナユタは、なぜユージがそんな事を訪ねるのか文脈から察したようだ。


「つまりユージ君は、その獣人がグリフォンをけしかけて、君達を助けたのではないかと思っているのかい?」

「う、うん……いや、たまたまだって事も、もちろんあると思うけど……」



俺達は全員、じっとライアスの顔を見つめた。

獣人と関りを持ち、研究に携わって来たライアスなら、何かを知っているかも知れない。


ライアスは再びじっと考え込み、目の前の一点を見つめながら言った。


「いや、魔物を操る力なんてないはずだ。人や魔物を操れるとしたら闇魔法だが、そもそも獣人には人間と同じように、魔法を使える者なんてほとんどいない。いたとしても非常に微力だ。それに……」


一呼吸置いて、ライアスは話し続ける。


「それに、まだはっきりした事は分からねえが、俺は獣人は魔族ではないと思ってる。たまたまシーランス山岳の住人に、魔法を使える獣人がいたんで、研究に協力してもらってたんだ。魔族にしか起動できない魔法陣に魔力を注いでもらったが、反応はなかった」


「そうなんだ……!それなら、そのことを王室に報告すれば、少なくとも獣人は魔族じゃないって証明できるんじゃ……」


「いや、証明するには不十分だ。実は、人間の魔力にしか反応しない魔法陣のほうも試したんだが、同じように起動しなかったんだ。もしかすると、獣人は人間でも魔族でもないのかも知れない」


「人間でも、魔族でも……。そんな事って……」


ユージが不安げに呟くと、ライアスははっとしてユージに目を向けた。


「いや、それは単なる仮定の話だ。まだまだ研究が必要なんだ。……しかし、惑わずの森にいた獣人ってのは、ちょっと気になるな……」



結局、その謎の獣人については情報を得られず、謎は謎のまま手つかずで俺達の心に留まる事になったのだった。


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