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第7話 勇者と決着

 「嘘よ!嘘だと言ってよカイトくん!!」

 

 勇者ライゼルと戦士ミレイアが同時に俺に仕掛け、ヒーラーのフィリアが構えながらも見守る中、エリザが叫ぶ。

 

 「ははっ!嘘なんかついてどうするんだい?今は俺が魔王、本当のことさ。」

 

 勇者の聖剣ルクス・ディアと戦士のバトルアックスの攻撃を、俺の聖剣ルクス・ディアで受けつつ薙ぎ払って距離を取る。

 俺だってこの三年間何もしなかったわけではない。

 勇者ライゼル様御一行、ここ魔王城にいつか『魔王討伐』しに来るとわかっていたからこそ、鍛錬は怠らなかった。

 近接戦が得意な者2名、回復を得意とする者を選出し、エリザがどうかわからなかったから近接・遠距離・魔法と都度交代してもらい、常に一対四()()で戦う想定で……だ。

 

 しかし、鍛錬では聖剣ルクス・ディアは使わなかった為わからなかったが……

 

 「なにっ!ライゼル!アタシの斧が!!」

 

 戦士ミレイアが持つバトルアックスが、俺の聖剣ルクス・ディアと一度刃を交えただけでボロボロになり崩れ落ちてしまったのだ。

 

 「くっ!エリザ!援護を!!」

 「はっ、はいっ!!」

 

 再び距離を詰めてきたライゼルと、聖剣ルクス・ディア同士で斬り結ぶ中、俺の視界には魔法の詠唱を解放するエリザの姿が映っている。

 

 「カイトくん!もうやめて!!」

 

 エリザの杖から放たれる魔法の火の玉を、俺は左手に展開したディスペルマジックで打ち消す。

 

 「もうやめて!ってそっちから始めた戦いだろうが……そこんとこどうなんだい?ライゼル君?」

 「うるさい!僕は……僕は魔王を倒すんだ!!」

 

 聞く耳持たずってね、そっちがその気なら。

 

 「済まないが、エリザの魔法は封じさせてもらう……よっと!」

 

 俺は斬り結んだ聖剣ルクス・ディアを滑らせ、エリザに向かって衝撃波を放つと、衝撃波はエリザが握りしめている杖を貫き、破壊した。

 加減はしたし、ケガはないだろう。

 ケガはないだろうが……杖を折られたショックか、エリザはその場でへたり込み、涙を流し始めた。

 

 「そんな……信じてたのに……ひどい。」

 

 泣き崩れるエリザにヒーラーのフィリアが駆け寄り、回復魔法をかけながらエリザを慰めている。

 ケガしてないだろうし、無駄に魔力使うなんてな。

 フィリアからはめっちゃ睨まれるし、と言うかこれ俺完全に悪者扱いじゃないか。

 

 「カイト君!君はなぜ魔族の味方を……魔王なんかになったんだっ!?善良な村人だった君なら、今までどれだけの人が魔物に殺されたかわかっているだろう!」

 「魔物は魔族の支配下じゃねーよ!!」

 

 ライゼルが上段から振り降ろす聖剣を、俺の横に構えた聖剣で受け止め、弾き返す。

 

 「じゃあ何か?今まで魔族がクマやらに殺された分、人族は責任取ってくれるってのかっ!?」

 「人がクマを操れるわけないだろう!!」

 

 弾き返した聖剣を返しライゼルに袈裟斬りを見舞うが、ライゼルはバックステップで距離を取り回避する。

 

 「それと同じことだって言ってんだよ!!」

 「そんなの信じられるわけないだろう!!」

 

 ライゼルは叫びながら突きの構えで突進してくる。


 「これだから!」


 俺はライゼルの突進を横にかわし……

 

 「頭の固い!!」

 

 横からライゼルの腹を右足で蹴り上げ。

 

 「正義クンは!!」

 

 上空に飛び上がるライゼルを俺もジャンプして追いかけ、両手を組んでハンマーパンチで叩き落とす。

 

 「嫌いなんだよ!!」

 

 地面でバウンドするライゼルを、短いダッシュの肘打ちで弾き飛ばし『激戦の間』の壁にぶち当てる。

 

 「わかったかよ!勇者サマ!!」

 

 俺は聖剣の切っ先でライゼルを指す。

 

 「わかったよ……君にはもう……僕達の言葉は届かないんだね……」

 

 どっちがだ!?と言いたいところではあるが、ライゼルは聖剣を握りながら両腕をぶら下げ、ぶつぶつと呟いている。

 やばい!!

 ライゼルは無言で俺に向かって突っ込んでくるや否や、光速の斬撃を見舞ってくる!

 今のは何とかかわせたが、いつまでもかわし続けられるものじゃない。

 そして、光速の斬撃は受け止めきれるものでもない!

 

 「しゃあねぇな……対抗するしかなさそうだ。」

 

 これも俺が三年で鍛えた技の一つ。

 先に『剣に身を委ねる』状態にされた時を想定して、その発動を極限まで早める!!

 

 「頼んだぜ!聖剣ルクス・ディア!!」

 

 聖剣を正面に構え、即座に『状態』に入る!!

 そしてお互い無言のまま、光速の斬撃を繰り出し、光速の斬撃で受け流し、お互いがその風圧によって浅く傷ついていく。

 斬り合った聖剣が弾かれ、お互いバックステップで距離を取ると、また同時にぶつかり合う。

 俺とライゼル……いや、聖剣ルクス・ディアと聖剣ルクス・ディアの戦いは永劫とも思える一瞬に無数の斬撃を見舞い続ける。

 

 そして転機が訪れる。

 先に『状態』に入ったライゼルの瞳に光が戻り、大きく飛び上がる!

 

 「これで決める!秘剣!天翔連閃!!」

 「待ってたぜ!コイツをよぉ!!」

 

 俺も遅れて、頭上から迫るライゼルをかわすように大きく飛び上がり……

 

 「こいつで最後だ!秘剣!天翔連閃!!」

 

 ライゼルが聖剣で何とか俺の天翔連閃を受け止めると、聖剣がライゼルの手を離れて俺の目の前まで飛んできた。

 

 「クッ……聖剣を……」

 「やっぱコイツがあるから危ねぇんだよなぁ。」

 

 腹ばいになり、聖剣に手を伸ばそうとするライゼルの前で、俺は無慈悲に、俺の天翔連閃を受けてボロボロになっていたライゼルの聖剣を踏み抜き、砕く。

 

 「あ……あ……僕の……聖剣……」

 

 聖剣を失い気絶したライゼルを担ぎ上げ、他の三人のもとに連れて行き、戦士ミレイアに預ける。

 

 「ほい、あんたらもう戦えねぇだろうし、護衛付けてやっからソイツ連れて帰んな。」

 

 俺は手をひらひらと振り『激戦の間』を後にしようと歩みだす。

 

 「待って!カイトくん!!」

 「ん?」

 

 そんな俺をエリザが背後から呼び止めた。

 

 「あの……わたしを、わたしをここに居させてください!!」

 「エリザ!お前何を!?」

 

 なんかあの時のシーンが蘇るけど、今回狼狽えたのは俺じゃなくてミレイアな。

 

 「いや、俺はもうこの魔族領の魔王だ。悪いけど、俺はエリザをここに置いてはやれない。」

 「で……でも……わたし、やっぱりカイトくんのことが……」

 

 その時、俺の目にはいつの間にか自室を抜けて『激戦の間』まで様子を見に来たのか、心配そうに覗くアイリスの姿が見えた。

 

 「すまないね、俺にはもう妻がいるんだ。もうすぐ子供も産まれる。」

 

 俺の言葉と共に妻が俺のもとに駆け寄り、腕に抱き着いてきた。

 エリザが俺と妻の姿を見て泣き出したのは、俺にはもう関係のないことだ。


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