第1話 追放勇者と恋人の旅立ち
「大丈夫?ケガはない?」
この人は、いい人だ……
「はい、ありがとうございます。」
俺の恋人も、いい人なんだ……
「ありがとうございます勇者殿!これで村も救われます!!」
村長も村人も、みんないい人なんだ……
でも……
村を襲ってきた魔物を倒し、村を、畑を、村人を守った勇者様御一行。
風のウワサで耳にした、かつて最強パーティにいたが役立たずだとして追放された勇者。
しかし、その最強パーティが最強であった理由……彼が持つ勇者としての『女神の祝福』があればこそ、最強であったパーティは瞬く間に崩壊。
彼は、彼を慕う仲間達と共に、魔王討伐の旅を続けている、と。
村が救われたことで村長も、村人も、恋人も、そして俺も安堵し、喜び、夜には宴を開いて勇者様御一行をもてなし……
そして、夜が明けた。
「待ってください!勇者様!!」
俺の恋人、エリザが旅立とうとする勇者を呼び止めた。
「あの……わたしを、わたしをお供に連れてってください!!」
「エリザ!お前何を!?」
俺は狼狽えた。
何を言ってるんだエリザは!と思い、手を伸ばして叫ぶが、エリザの耳には届いていないようだった。
「いや、僕の旅は魔王を倒すための旅だ。そんな危険な旅に君を連れて行くことはできない。」
「で……でも……」
俺の声の届かないエリザと勇者の会話、俺はただ黙って見守るしかなかった。
「大丈夫でしょ、来たいって言ってるんだからさ、アタシも仲間は多い方がいいな。」
「そうですよぉ、私も~最初は断られましたけどぉ、今はもう大丈夫なんですからぁ。」
勇者パーティの戦士風の女性と、ヒーラー風の女性が後押しする。
勇者はしばし悩んだ後……
「わかった。君の意志は無駄にしない。でも無理はするんじゃないぞ。僕が守るから。」
「はいっ!」
こうして、エリザは勇者と共に旅立って行った。
村人からも祝福されて……
彼女の旅立ちを祝福できていないのは、俺だけだった。