49.きっと会える ~その日まで~ (ゴンチチ)
10月の連休に会社の寮の同期でBBQをすることになった。
寮の備品でBBQのセットがあり、福利厚生という事で借りれることを知った同期が企画したのだ。
メンバー構成は寮の新入男性社員中心だが、受付の女性も同い年という事で幹事が声を掛けたらしい。
寮からそれほど遠くない河原の近くに公営のBBQ場があり、無料で借りることが出来た。
BBQセットが用意されているのも納得だ。周到にリアカーまである。
5人の参加者全員で買い物メモを見ながら、スーパーで食材を購入し、現地入りした。
買い物メモは受付の女性が用意してくれたらしい。
ビールや飲み物などは各自思い思いに購入した。
BBQのセットと食材がリアカーに山積みされ、ワイワイと5人の男女がその周りを歩いている。
一人が炭に火を着けようとするのだが、なかなか火が付かない。
苦戦している火起こし担当からバーナーを取り上げ、炭に着火したのは受付の女性だった。
「小島さん手際がいいね」
「小さい頃から家族でキャンプしてたから」
「アウトドア派なんだ。カッコイー」
周りの男性社員は彼女を褒めちぎっている。
調理担当の秋良はその傍らで黙々と野菜を切っている。
と言っても、焼いて食べれる様な一口サイズにしているだけだが。
「だめだめ、炭はね、遠火の強火って言って、入れすぎるとお焦げだらけになるの」
小島さんはすっかり炭火奉行になっていた。
秋良は切った野菜を皿に移して、テーブルに置いた。
小島さんの視線がちらりと野菜に向けられ、ちょっとドキリとしたが、何も起きなかった。
「火も落ち着いて来たから、そろそろ焼きますよー」
「おー」
わらわらと男たちが集まってくる。
肉の焼けるいい匂いが立ち込め始め、食欲を刺激された男たちの胃袋に次々に収まって行く。
「野菜も食べて下さいねー」
「はーい」
(あいつらもう、飼いならされてる)
秋良は感心して小島さんを見た。
視線が合うと、彼女はフフンという表情を見せた。
あっという間に用意した食材は食べつくされ、その後は川に河原の石を投げて何度跳躍できるか競ったり、誰かが持って来たフリスビーやキャッチボールしたりして遊んでいた。
小島さんも声をかけられて、一緒に遊んでいる。
秋良はその中に入らずBBQセットを片付け始めた。
決められた場所に灰を捨てて、洗い場で網を洗う。
もともと使い古されてそんなにきれいなものではないので、適当に洗っておく。
紙皿やビニールなどは袋に詰めて指定の場所に捨てた。
そこまで済ませてから、遊びの輪に入った。
久しぶりのアウトドアは気分がよかった。会社の同期とも親交を持てたし、連休明けからの仕事も頑張れそうだ。
日が傾き始めたので、そろそろ終わりにしようという事になった。
秋良がある程度やっていたので、片付けはスムースに終わった。
寮に戻って、秋良はBBQセットを倉庫に戻していた。
リアカーから降ろして倉庫の中に戻すのだが、他のメンバはいつの間にか寮の中に戻っている。
まあ、たいした作業でもないので、黙々と作業を進めていた。
「椎木君」
後ろから声を掛けられた。
「ああ、小島さん……、だっけ」
「そう。覚えてくれたんだ」
「まあ、お奉行さまの名前は覚えとかないとね」
「なにそれ」
彼女はぷくっとほっぺたを膨らませた。
「……椎木君……ってさ。彼女いるよね」
「え? なんで……」
「そりゃあ今日の椎木君見てたらわかるよ。野菜の切り方とか、最後の洗い物とか。今だって」
「ね。彼女いるんでしょ」
「ああ。そうだね」
「やっぱり。椎木君ほかの人たちと違って、私に愛想悪いもんね」
「え。いや、そんな積りは無いんだけどな」
「いえいえ、ほかの殿方は出社してくると気さくに『おはよー』って言ってくるのに、椎木君だけ『おはようございます』だもん」
「そうなのか?」
「その彼女さんとはいい感じなんでしょう?」
「あ、まあ。将来結婚する前提で付き合ってる」
「いいなー」
「最近は会えてないけど……」
「どうして?」
「言えないけど、諸事情ある」
「ふーん。でも彼女さん会いたがってると思うよ」
「俺も、そうだと思う。けど」
秋良は彼女の方をちらりと見た。
「大丈夫よ。口は堅いですから。誰にも言いません」
「俺の、問題もあって」
(あれ、俺、なんでこの人にこんな話してるんだ?)
秋良はマンションを引き払う日の事をかいつまんで話した。
「……その日、俺の中にすとんと何かが入ってきて、気持ちが止まってしまったって言うか、何だろう、前に進めないんだ。彼女の事は好きなのに、心が固まってしまってるんだ」
「困りましたね」
「ああ、困ってる」
秋良は倉庫を出て歩き出した。
「じゃあ、こういうのはどうでしょう?」
「なに?」
「別の女の子と付き合ってみるとか」
「え? いや、そんな」
「ほら、そばに君と付き合ってもいいなー。って思ってる女の子が居るんですけど」
「ええ? それ、は、で、きない」
「楽しませてあげますよー」
「君、どうして……」
「秋良!」
「朱音?」
振り向くと朱音が駆け寄って来てそのまま秋良に抱き付いた。
「秋良ー。会いたかったー」
朱音は顔を秋良の胸にうずめ、泣きながら話し始めた。
「会いに来なくてごめんねなさい。私、会えなくて苦しかった、辛かった。なのに秋良がきっと来てくれるとばかり思っていて。会えてよかった」
『うわあああ』
朱音は周りをはばからずに声を出して泣いた。
「私、秋良と一緒に居たい。傍に居させて。もう離れているの嫌」
「俺も朱音が近くに居ないのが寂しくて、でも、事情を考えたら、言えなくて。心に蓋をしてた。朱音に辛い思いをさせてしまってた。ごめん。来てくれて嬉しいよ」
秋良は朱音を抱きしめると一緒に泣き出した。
二人は泣きながらしっかりと抱き合っている。
茜色に輝く空のもとで。
それを目の当たりにした、たった今振られたばかりの受付嬢はハーッとため息をついてつぶやいた。
「もともと私の入る余地はなかったなー。彼女さん、あんなかわいいし」
(あーあ。また振り出しか)
彼女は二人の邪魔をしないように、そっと帰って行った。




