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45/50

45.旋律のように(ブラームス)

「キャー。朱音の彼氏さんだー。初めましてー」

 朱音から連絡が来て、荷物持ちとして空港まで迎えに来たら数名の女子に囲まれた。

「おそろいの指輪してるー」

「二人一緒にいるの初めて見た」

「空港までお迎えしてもらえるなんて羨ましー」

 完全に見世物化していた。

 若干居心地が悪い。

「もう、さっきじゃあねって解散したじゃない」

「だって、彼氏さんが迎えに来てくれるって話は聞いてなかったもん」

「そりゃあ、まあ、言ってなかったから」

「なによ、買い物してから帰るって言って、彼氏と待ち合わせしてたんじゃん」

「え、か、買い物は本当にするつもりだったのよ」

「ふーん」

 投げかけられるジトっとした視線が痛い。

 秋良が思っていたよりも早く現れたことは想定外だった。

 みんなと手を振って別れようとしたら、秋良が現れてすぐに取り囲まれてしまった。


「あ、どうも。椎木秋良です。初めまして」

 視線が朱音と秋良を行ったり来たりする。

「ちょっとタイミング悪かったかな」

「もう、早く現れすぎ」

「朱音見つけたから……つい」


「彼氏さん、朱音しか見えてないんですね。私たち塊でいたのに」

 ポーっとのぼせたような視線で言われた。

「いいなー。愛されてますねー。あ・か・ね」

「ほえ、まあ、そうなのかなー」

 朱音は照れ臭そうに言った。


「ねえ、朱音、みんなで一緒に帰ろうよ。彼氏さんも一緒に」

 秋良と朱音は顔を見合わせたが、こうなっては仕方がない。

「わかったわよ。ちょっと買い物だけさせて」


 それから、電車を降りるまで二人は質問攻めにあった。

 二人の馴れ初めから始まり、どこが好きなのかとか、デートはどこに行ってるのかなど、根ほり葉ほり聞かれた。

 そして秋良は何故かみんなの荷物を持たされた。


「じゃ、私たちこの駅だから」

「またねー。彼氏さんも今日はありがとう。楽しかった」

「い、いえ。それじゃ」

 二人は電車から降りて、朱音の友人たちに手を振って別れた。

 最終的には、雰囲気はほんわかとしたものになって、秋良はほっとした。

 朱音の友人たちは、走り出した電車の中で何か盛り上がっていたが、間違いなくネタは朱音たちの事だろう。


 マンションに帰りついて着替えをして一休みしたところで、朱音は荷物をほどき始めた。

 出てくる北海道土産はおいしそうなものばかりだ。

 今日の夕食は、いくら丼にする予定だそうだ。いくらは先に冷凍で送られて来ている。キッチンで自然解凍中だ。


「旅行は楽しめた?」

「うん。すごく楽しかった」

「よかったね」

 二人はソファーでコーヒーを飲みながら話している。

 お茶請けには北海道土産のチョコレートをつまんでいる。かなり美味い。

「秋良は一人で何してたの?」

「いや、メッセージした通りだけど」

「ほんとに、あれだけ?」

「だな。いや、意外と楽しかったよ」

「ふーん。私が居なくても楽しかったんだ」

「いや、そりゃ人が一人いなくなったから、寂しくはなったけどさ。だからって暗ーくなってもしょうがないだろ。普通に旅行に行ってるんだし」

「うふふ。そうね。いじわる言っちゃった」

 そう言うと朱音は秋良の背中に手をまわしてそっと抱き付いてきた。

「私は寂しかった」

「旅行、楽しかったんじゃないの」

「うん。旅行は楽しかった。友達ともいっぱいおしゃべりして盛り上がって。でも寂しかった。秋良がいないんだもの。つい探しちゃうの。そのたび、ああ、いないんだったって思い出して。気が付いたら秋良のことばかり考えてた」

「どうしよう、朱音がこんなに寂しがり屋になっちゃた」

「私も自分で驚いてるの。あなたが私をそうしたのよ。責任取ってね」

「そのつもりだけど」

 秋良は朱音の背中に手をまわして抱きしめる。

「うん」

 朱音は顔を秋良の胸にうずめた。


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